お題『過去』
『タイムカプセルの手紙』
10年前に埋めたタイムカプセルから出てきた一通の手紙が、私のもとに届いた。
拙い文字を見ながら、懐かしい気持ちになる。
『10ねんご、20さいになったら、お父さんといっしょにビルが飲みたい』
ビールだよ、と心の中で呟きながら、私は缶ビールに口を付ける。
二十歳になれなかった息子を想って。
『高嶺の花』
高校の時、手を伸ばしても届かないような憧れのひとがいた。
彼女と久し振りに会った。
当時の思い出話に、高嶺の花だったことを伝える。
それを聞いた彼女が、ほら届くでしょ、と僕に手を差し出した。
僕が手を伸ばすと、彼女が手を引っ込める。
「騙された。そういうのは結婚する前に言いなよ」と笑って。
『父の涙』
古臭い考えの父は、「男は泣くな」が口癖だった。
その言葉通り、俺は父が泣いたところを生まれてから一度も見た記憶がない。
そんなわけない、と俺は過去に戻って、父の泣く場面を探した。
そして見つける。
父に言おうとしてやめた。俺も恥ずかしかったからだ。
生まれた俺が、父の指を握った瞬間なんて。
『卒業アルバムと夫』
娘が私の卒業アルバムを見つけてきた。
一緒に昔の写真を見ていると、「一番好きだったの、誰」と娘に聞かれた。
クラスの人気者だった男子の顔を指差すと、「あっ、引っ掛かった。パパがヤキモチ焼くよ」とすこし寂しげに笑った娘が夫の写真を指差した。
「殿堂入りだから大丈夫」もうすぐ彼の三回忌だ。