お題『初恋』
『初恋』
初恋は叶わないらしい、と友達から聞いた日、ぼくは初めての恋をした。
転校生の女の子に一目惚れしたのだ。そして振られてしまうと、その話を教えてくれた友達が、「仕方ないよ。初恋だから」と言った。
ぼくが二番目に恋をしたのはその友達だった。彼女は頷き、そして言った。
「叶うこともあるんだね」
『叶わなかった初恋』
幼馴染の男子から告白された。
いきなり呼び出され、「好きだ」と言われた。彼は私の初恋だ。
嬉しい。
「私も好き」と返事すると、彼が「えっ」と困った顔をした。
「なんで振ってくれないんだよ」
「うん?」
「初恋は叶わない、って聞いたから、転校生に告白する前に、一回振られておこう、と思ったのに」
『初恋と歌声』
「昔の同級生に、歌手になった子がいるんだ。すぐ辞めてしまったけど」
娘にその話をすると、「どんなひと」と聞かれた。
「パパの初恋だよ」と伝える。
「そっか。失恋しちゃったんだ」
「あぁ、いや」
「私も聴いてみたかったな。パパの初恋のひとの歌声」
いまそこで口ずさんでいるよ、とは言わなかった。
『最初の恋≠最後の恋』
祖父が最後の恋をした。
相手は介護士さんで、死んだ祖母の面影があったらしい。祖父が逝ったあと、僕は介護士さんに聞く。
「言わなくて、良かったの」
「新しい恋もしてみたいでしょ。お互いに」
お互いに最初の恋のまま成就した、と聞いている。
転生して新たな人生を歩む、かつて祖母だった女性が笑う。