お題『父』
『結婚報告にて』
結婚報告のため、実家に彼氏を連れて行った。
父が険しい顔をしている。黙って彼の話に耳を傾けていた父が、ようやく口を開く。
「きみは好青年だが、浮気はいかんと思う」
浮気、ってどういうこと。父が続ける。
「娘はむかし、『パパと結婚する』って私と約束したんだ」
母が父の頭にお盆を振り下ろした。
『父の人生は怪奇』
子どもの頃、映画を家族で一緒に観ていた時の話だ。
「この映画、俺の人生をパクったものなんだ」と父が真面目な顔をして言った。父は嘘の多い人間だったから、
「また何か言ってる」と僕と母は呆れていた。
父の死後、父しか使っていなかった納屋を整理していると、ホッケーマスクと錆びた斧が出てきた。
『父の涙』
古臭い考えの父は、「男は泣くな」が口癖だった。
その言葉通り、俺は父が泣いたところを生まれてから一度も見た記憶がない。
そんなわけない、と俺は過去に戻って、父の泣く場面を探した。
そして見つける。父に言おうとしてやめた。俺も恥ずかしかったからだ。
生まれた俺が、父の指を握った瞬間なんて。
『史上最強の父親』
史上最強と謳われた格闘家を父に持つ、学校で最強の女の子から告白された。
同世代に喧嘩で負けたことはないらしい。
「ただ私、父に『お前より弱い奴との交際は認めん』って言われてて。決闘してください」
「女の子は殴れない」と断ると、
「よし、では儂が代理だ」と木の上から彼女の父親が降ってきた。