お題『卒業』
『記憶はまだ』
「私は普通の人間じゃない」と高校の卒業式直前、僕はクラスの女子にそう言われた。
超能力者だそうだ。
卒業式、全員の記憶を消す前に、僕に伝えたかったらしい。
僕は大学生になり、出会った女性と付き合った。
「初めて会った時のこと、覚えてる」
「大学一年の時だろ」
彼女が寂し気に笑った。僕の嘘に。
『第二ボタン』
好きなひとの心に一番近い第二ボタンを渡す。卒業式の風習だ。
桜の木の下で、後輩の女の子から話しかけられた。
「先輩、第二ボタンをください」
「ごめん。もう彼女にあげちゃったんだ」
「ずるい」と彼女がほおを膨らませる。ちょっと可愛い。
「じゃあ、もっと良いもの、もらいます!」
「何?」
「心臓」
『荒れかけた卒業式』
卒業式、卒業生代表の答辞がはじまった。
読むのは、学年で一番成績の良い田中くんだ。
読もうとした時、金髪の生徒が、「おい、うちはヤンキー校だろ。喧嘩が一番強い奴が代表じゃねぇのか。タイマン張れや」と言った。
「でも僕、ボクシング部だよ」と田中くんが答える。
「ちっ、今回だけ譲ってやんよ」
『卒業式盛り上げ隊』
今日は卒業式だ。
小さな学校だから全校生徒の顔を知っているはずなのに、何故か見たことのない同級生が大量にいる。
「三年間、ありがとう!」と知らない生徒のひとりが、私の手を握ってきた。
「先生、このひとたちは?」
「あぁ、生徒がすくないと盛り上がりに欠けるかと思ってエキストラを雇ったんだ」