お題『記憶喪失』
『失われた記憶』
クラスの女の子が記憶喪失になったらしい。
困ったような笑みを浮かべて、「日常生活には問題ないから」なんて言っている。
その様子を遠目に眺める僕に、周りは「冷たい奴だ」と言う。
すれ違った時、彼女が僕の耳もとでささやく。
「勘がいいね」
僕の記憶が確かなら、あんな子、うちのクラスにはいない。
『記憶喪失の恋人』
私はいわゆる記憶喪失だ。事故が原因らしい。
私の入院する病院に、よくクラスメートがお見舞いに来る。彼も私のクラスメートだそうだ。
「ごめん、覚えてない」
「そっか。俺、きみの彼氏だったんだ。困ったことがあったら、何でも言ってよ」
彼が帰っていく。これで10人目だ。
私の恋人を名乗る男子は。
『聖地をめぐって』
妻と聖地巡礼をすることにした。
私が誰よりも愛した作家の作品に縁のある場所をめぐる旅だ。
同じ場所に長く住んでいた私にとっても、懐かしい風景ばかりだ。
思わず泣きそうになる私を見て、妻はきょとんとしている。
「思い出の場所なんだ」と伝える。
作家だった妻が記憶を取り戻すことを、祈りながら。
『記憶喪失と嘘』
記憶喪失になった彼女は、僕に関するすべてのことを忘れてしまっていた。
「僕たちは恋人同士なんだよ」と僕は嘘をついた。
僕の言葉を信じた彼女と、僕はデートを重ねた。
やがて記憶を取り戻した彼女から、「なんで嘘ついたの」と言われた。
「一からやり直したほうが記憶戻るかな、って」と妻に伝える。