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黒猫とアミュレット  作者: 晴恵
第一章 幼少期編
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赤髪とオオカミ

――ゴーン、ゴーン、ゴーン


 授業の終わりを告げる鐘の音が、校内全体へと響き渡る。


「はーい、そこまで! それじゃあ1番後ろの席の人は、答案用紙を集めて前にお願いしまーす」


 柔らかい雰囲気の女性担任の合図でテストが終わると、クラスの中はお互いの答案の確認をする者や、この世の終わりの様な顔をする者、疲労困憊といった様子の者など多種多様で、とても賑わっている。


「ギル、どうだったよ?」

 

「うーん、いまいち。 今回もまた全部平均くらいかなー」


 隣の席に座る坊主頭の少年が帰りの支度をしながら、隣に座るギルへ問いかけるも、当の本人はそんなのどうでもいいといった様子でぶっきらぼうに答えた。


 その返答に彼は、はぁ、とため息を漏らした。


「ギルにはなんかこう……、やる気みたいなのが足んないよな! 何やるにしても、だるーって感じでさ」

 

「まぁ実際、ハマってる事とかないし。 勉強だって何のためにやるんだかさっぱりだし」


 ギルは椅子を後ろ足だけで支えるように傾け、前後にゆらゆらと揺れながら答えた。

 

「もったいねえなぁ。 そこそこ運動だってできるし、勉強だってちゃんとやりゃあできるだろうに」

 

「ホージがそう言ってくれるのは嬉しいけど、俺にはできないよ。面白いと思えないものは何をやっても続かないんだ。 どうしても中途半端なところで諦めちゃう。 だから皆んな凄いよ、熱中してるものがあってさ」


 ホージはギルをぽけーっとした目で見ていると、それに気づいたギルは、どうした、と問いかける。


「ギルって中身おっさんなのか? 俺たちまだ8歳だぜ! そんな人生つまらんみたいな顔すんなって!」


 そう言ってガハハッ、と笑い声を上げながらギルの背中をばしばしと強く叩く。

 

「……、やかましいわ」


 おっさんと呼ばれショックを受けたのか、ギルは不貞腐れたように頬杖をついた。


「はーい、じゃあこれで今日の授業は終わりになります。日直のギル君、号令お願いします 」


「起立。 礼」


 ギルが号令をかけると生徒たちがばらばらに、ありがとうございました、と礼をした。

 

「はい。 では気をつけて帰って下さいねー」


 いつもの変わらぬ日常をいつも通り無難に過ごし、今日もこのまま家に真っ直ぐ帰るであろうギルは教室を出ようと歩き出した。


「あ、ギル君!」


 教室をあと一歩で出られる、といったギリギリのところで女性担任に呼び止められた。


「今日日直だよね、ちょっと手伝ってくれないかな?」


 変わらぬ日常という透明な池に波を立てるように、色付いた雫が一滴落とされた。

 

 女性担任は申し訳なさそうに手を合わせながらも少女のように可愛らしくギルに頼むが、ギルにとっては不快な行為であったのだろう、嫌です、という文字が顔に浮ぶ。


「そんなに嫌な顔されると、先生ちょっとショックなんだけど」


 涙目になる顔を見ると観念した様子で、わかりました、とぶっきらぼうに答える。


「ありがとう! ギル君ならそう言ってくれると思ってたよー!」


 はいはい、と呆れた様子のギルに、女性担任は晴れた笑顔で嬉しさを伝える。


「ちょっと魔道場に持って行きたいものがあってね、運ぶのを手伝って欲しいんだー。 ほら、最近の男の子って結構力持ちじゃない」


「魔術使えばいいじゃないですか」


「えー、いいじゃんたまにはー。先生だって生徒とコミュニケーションをとるのが仕事なんだから。 それに、先生か弱いしー」


 ギルが正論を言うも、あーだこーだと言ってどうにかギルを引っ張り出したい様子だ。 


「いや、イコル先生なら俺1人くらいデコピンで――」


 ギルが反射的に答えようとすると、隣から凄まじい殺気が溢れ出すのを感じ取ったのか、


「――も、出来ないくらいか弱い女性ですもんね。 やっぱり男の俺がやらないと!」


「そうよねー!」


 慌てて言い直すと、わかってるじゃないとバシバシとギルの背中を叩く。

 その音はイコルの細い腕から繰り出されるような音ではない。


 (痛えっつうの、このふわふわゴリラ!)


「ん、何か言ったかしらー?」

 

「いえ、何も言っておりません!」


 ギルは思っていることが顔に出やすいようだ。


 そうこうして話しながら歩いていると魔道場が見えてきた。

 

 校舎からは少し離れており、正門とは反対に位置するそこは、人気がなく、美しい緑の木々に囲まれているためどこか神聖的な雰囲気がある。


 段々と近づいていくと、どうやら中に人がいるようで、激しく床を蹴る音や棒か何かを振るような音が聞こえてくる。


「魔道場って授業以外で使う人いるんですね」

 

「うん、去年だったかな。 ギル君の一個上の学年に転入してきた子がいてね。 その子が毎日使ってるのよ」

 

「毎日、ですか」


 ギルは、自分とは価値観が対称的な魔道場の中の人に驚き呆れた様子と、その中でどこか羨んでいる様にも見える複雑な表情を浮かべていた。


「静かに入ってあげてね。 多分、かなり集中してると思うから」


 ギルはイコルに習って足音一つ立てないよう、そろりそろりと慎重に中へと入っていく。


 すると驚くべき光景がギルの目に入る。


「マジか……」


 そこでは自分の身長と同じくらいの赤髪の少女が、そのふた回り以上も大きい狼の魔獣と戦っていた。


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