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素顔を知りたい。

「……できないなんてことはない。僕だって、やろうと思えばできるさ」



 店じまいのため、店先に出していた花瓶を店内へ戻しながら僕は呟く。



『そんなに気になるなら、自分で訊いてみればいいじゃん。まあ、どうせお兄にはそんなことできないだろうけど』



 耳に残る、容赦ないその言葉に、僕は独り言で返事をした。



 でも、本当にそれでいいのだろうか?



 もしアネモネ先生から『エミールさんとつき合ってる』なんて返事が来てしまったら……僕はどうなるだろう? 心が折れずにいられるだろうか?



 もしそうなってしまったら、今までみたいに毎日、先生と言葉を交わすこともできなくなってしまうに違いない。店に花を買いに来てくれることもなくなってしまうかも。そんなことになったら……破滅だ。オシマイだ。僕はもう生きていけない。



 でも、リナの『女の勘』は、僕にもそこはかとなく解る気がする。



 上手く言葉にはできないのだが、あの二人はそういう関係じゃない気がする。そもそも、先生にはどこか周囲の人との間に壁があるような感じがする。



 街の皆に好かれる、完璧な人。


 


 いつも笑顔を絶やさない、誰にでも優しい女神のような人。



 それが僕の思う、そして街のみんなが思う先生の姿。


 


 でも、そんな人は本当に存在するのだろうか。


 


 素顔を知りたい。


 


 そして、僕だけがそれを知っている。そんなふうになってみたい。



 砕け散ることになるかもしれない。明日からは先生の笑顔を真っ直ぐに見られなくなるかもしれない。


 


 でも、何事もやってみなくちゃ解らない。


 


 僕だって、もう十五歳だ。子供じゃない。そうだ。やる時はやるんだ。



 となれば、その前に、診療所へ行くための口実を作る必要がある。


 


 僕は店の中を見回して、ディオールという名の真っ赤なバラに目を留めた。


 


 そして――


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