花屋の朝。part2
『アルトー』へと帰ってきて、リナが既に用意してくれている所定の花瓶に花を配置する。それを終えると、店の奥の裏口から中庭へと向かう。
そこにも、『アルトー』の花畑がある。
いや、本当ならこの場所は、この中庭を囲む家々の共有空間なのだが、皆さんのご好意で半ば占有させてもらっているのだ。
ちょうど裏にある集合住宅に住んでいるおばあさんが少し変わり者で、時々勝手に花を摘んでいくので困るのだが、まあその程度の賃料と思えば安いものだと思う。
「サンヴィターリアはどう? ちゃんと咲きそう?」
畑で作業中のリナに声をかける。リナは他の花へ水やり作業をしながら、
「いい感じ。上手く行くんじゃない?」
「そっか。――ねえ、ところで、リナ。サンヴィターリアの花言葉って知ってる?」
「知らない」
「なんでも、『愛の始まり』らしいよ」
「へー、そうなの」
「……リナもちょっとは花言葉に興味持ったほうがいいんじゃない?」
リナはようやく作業の手を止めて、じとっとこちらを睨む。
「人を無神経みたいに言わないでよね。――花言葉って多過ぎて憶えきれないの。てか、花の値段をちゃんと憶えられないお兄にそんなこと言われたくない」
「それは……」
何も言い返せない。どうも数字は苦手で、頭に入ってくれないのだ。
だから、リナには本当に頭が上がらないほどお世話になってしまっている。店の会計もそうだが、それだけじゃない。自分たちでは用意しきれない花の仕入れや買付も、今やリナの指示なしには上手く回らないだろうし、おまけにこの庭園だって実質的な管理者はリナだ。家の中で保管している花の苗も、リナがしっかりリスト化して管理してくれている。
本当にこれが十一歳かというような、末恐ろしいほどの有能っぷりだ。間違いなく『アルトー』は今後数十年は安泰だろう。
――なんて、妹に甘えてられないよな。
とは思うけど、これはこれでいいんだろうとも思う。お互いにお互いを補い合って、荷台の両輪になって歩んでいくことができればよいのだ。
「さて、そろそろ朝ご飯食べて、店を開けようか」
こうして、僕たちの毎日は幕を開ける。