キン〇マ狩り
『はああぁぁぁ!? あんた正気なの? そもそも魔法少女との戦いと私生活と仕事を同列に扱えるわけがないでしょうが! あんた絶対私の事ナメてるでしょう。っていうかこの世界から生きて帰れるとでも思ってんの? 頭ん中ハッピーセットかお前。っていうか仕事をそれ以外の場所に持ってくんなよ! 仕事なんて一番優先度が低いに決まってんでしょうが! 自分が結婚できない理由分かってるの? そういうとこよ! 仕事を他の物と同列に扱う奴なんてゴミ以下なんだから。決めた。あんたは絶対にブっ殺すわ!!」
やっちまった……
メイはため息をついて頭を抱える。
『何ため息ついてんのよ! あんた自分の状況分かってる!? 戦いがどうこうとかじゃないわよ!! そのままじゃどうせ生きて帰れても一生結婚なんかできやしないって言ってんのよ!!」
(なんか知らんがめんどくさい地雷を踏み抜いちゃったなあ……)
会話の流れから突然にヤニアがギャオり出したのだ。どちらかというとメイは静かに怒りを爆発させ、無言で実力行使に出るタイプである。ヒステリーを拗らせてわめき散らすタイプは最も苦手とするところなのだ。
(なんなんだ? 自分の実力を甘く見積もられてるのにムカついてるのかな? なんかそれ以外にもありそうな気もするけど)
怒り心頭の他人を傍目で見ていると、逆に周りの人間は冷静になってくる。メイはそれを通り越して、もはや呆れていた。
「はぁ~……」
リビングに移動してパソコンチェアにどっかりと座り込み、足を組む。
「あ~……話まだ続くカンジ?」
『んなッ……!!』
そんなきき方をすれば余計に相手の神経を逆なでする。それが十分に分かった上でやってしまうのだからメイも質が悪い。
『よぉ~く分かったわよ』
何が。
『私があんたを気に食わない理由』
はぁ。さいでっか。
というのがメイの本心からの気持ちである。
『敵味方とかそういう事以前にね、結局あんたはそういう所で精神的に“オス”なのよ。この“名誉男性”が!!』
ああ、そう言えばこいつらはクソフェミ集団だったのか。確か、ロディから聞いた情報である。
「くっだらね」
心底どうでもいい。そんな素直な気持ちが口から溢れた感じであった。
『あんただって、色々とこの男社会に思うところはあるでしょう。本質的にはこの社会を憎んでいるはずなのよ。それをよく見ようともせず、自分が被害者だという事にも気づかずに阿呆みたいに口開けてぼんやり生きてる。それがあんたの姿なのよ!!』
(何が言いたいんだコイツ? まさかとは思うけど私を説得しようとしてるのか? もしそうだとしたらあまりにも攻撃的になりすぎてて逆効果だと思うけど)
ほんの少し前までどん底の精神状態だったメイであるが、ヤニアがヒートアップすればするほど冷静になっていっていた。
『私はね、この世界を変えたいのよ。革命者になるの。この星にはびこる有害なクソオスどもを排除して、理想郷を作るの。私はあんたの敵なんかじゃないわ。むしろあんたみたいな社会の犠牲者、可哀そうな被害者の味方なんだから』
挙句の果てには「可哀そうな人」扱いしてくる始末である。
「ナチュラルに見下してくるわね」
全く話がかみ合わない。そもそもメイは確かに社会に対していろいろと思うところもあるが、彼女自身社会の中に自分の居場所を作ろうとして今まさに奮闘中なのである。一方ヤニアの方は何があったのかは知らないが社会自体に恨みを募らせてそれをブチ壊そうとしているのだ。かみ合うはずがない。
「すげえめんどくさいのに絡まれた……目の前にいたら話聞かずにブチ殺すのに」
『面倒くさいですって!? 私はね、この世界を正しい形に導く社会正義戦士なのよ!! あんたみたいな意識の低いのがいるから! いつまで経っても!!』
死ぬほど面倒くさい。
しかしどこにいるか分からないのでぶち殺せないし、何よりこんなのでもさっきジェスチャーゲームしていた白石アスカの母親である。
「社会を正しい形に導くって、一体どうやるつもりなのよ。悪の組織やっててそんなの達成できんの?」
一応話を聞く姿勢を見せるメイ。基本的には「生徒の保護者」である。ビジネスの範囲内で「それなりの対応」はする。
『ふふふっ、よくぞ聞いてくれたわね!』
メイは椅子に座ったまま「しまった」という顔をする。「これは話が長くなりそうだ」そんな予感がした。自分語りしたくてたまらない奴にエサを与えてしまったのだ。
『このまま魔法少女や魔力の素質を持つ者を鏡の中の世界に取り込んで魔力を吸収し続けるの。そして鏡の世界が元の世界と同じ解像度になるくらいの精度になるほど魔力が溜まった時、現実世界に一気に攻撃を仕掛けるわ』
「はぁ」
自分で聞いておきながらあまり興味のなさそうな返答をするメイ。
元々あまり興味がなかったのもあるが、「そんなことできるわけない」という気持ちの方が大きいのだ。
元々悪魔たちが跳梁跋扈するのを魔法少女などの一部の能力者がやっているのは事情がある。人間と同じ外見で同じように生活が出来る悪魔を自衛隊や警察が鎮圧するのは非常に難しいのだ。
たとえ犯罪を犯していようとも、拘束することが難しい様な身体能力と異能の持ち主であろうと、相手が会話可能な人間である以上自衛隊や警察による武力制圧は世間一般が、少なくとも活動家達は認めない。
しかも一般人もいる市街地で戦闘に及べば人間よりはるかに身軽で獣より頭の回る悪魔を小銃で仕留めるのは至難の業であるのだ。
そう言った経緯があり、これまで悪魔の討伐はメイのような魔法少女だったり、公権力であってもスケロクのような表立って活動しない異能の保持者が当たってきた。
だが、奴らが徒党を組んで集団で攻めてくるなら話は別だ。
むしろそういった事態の方が警察や自衛隊は対応しやすい。彼らの土俵で戦うことになれば悪魔たちはなすすべなくハチの巣にされることだろう。
その「悪手」をヤニアは打とうと言うのだ。一体どんな方法で。
『世界中のクソオス共のキン〇マを、滅ぼしてやるわ』
「はぁ!?」
思わずメイの声が大きくなる。