三者面談
「というわけで、三者面談を始めます」
「はい! メイ先生」
「なんでしょう、有村さん」
ちらりとユキは辺りを見回す。
夕暮れの教室。担任の葛葉メイと自分、呼び出された母親、そして……
「なんで先輩たち魔法少女三人衆がいるんですか」
不服そうな表情を隠さないアスカ達三人。どうやら三人ひとくくりで扱われること自体が気に入らないようである。
「関係者だからに決まってるでしょうが」
メイの答えは簡潔である。そもそもまだ四月の入学したばかりの一年生に三者面談を開くということ自体がおかしいのだが、それでもキリエが学校に出向いてきたのは当然その実情をなんとなく理解していたからだ。
「で? その屈筋団とかいうあたおか連中の幹部がうちのユキ君に近づいてるっていうのね?」
「お母さん? そういう言い方はないんじゃない? ボクはただ部活の説明を受けてただけだよ」
「あっ、ごめんね、ユキ君。決してそういう……あなたの自主性を軽んじてのアレじゃないのよ、でもね、危険人物の可能性があるってことで……」
相変わらず有村ユキはセーラー服を着ている。メイはため息をついた。この二人のやりとりを見ていれば、どんな風にこの有村ユキという少年がやりたい放題に育ってきたのかも分かろうというものであった。
「もういい! お母さんがそんなこと言うなら、もう知らない!!」
「あっ、ユキ君!!」
ユキが怒って席を立ち、教室から出ていく。キリエも慌ててそれを止めようとしたものの、アスカがそれを止めた。
「話はまだ終わっていません。重要な事ですよ」
睨みつけるような強い視線。キリエは渋々また着席した。メイは複雑な手順や腹芸を好まない性格である。すぐに手短に用件を話した。
「簡単に言えば、屈筋団はあんた達親子を諦めてないわ。おそらくそのスカウトの命を負っているのが山田アキラ教諭、別名屈筋団のベルガイストよ」
この上なく簡潔な説明であったが、しかしキリエは首を傾げる。
「いや、そもそもこの間の狼女の言葉からすると屈筋団ってフェミ集団なのよね? なんでその中に男がいるのよ。ホントにその山田って奴、屈筋団なの?」
アスカ達三人からすればそれは今更な話題ではある。何故ならば本人の口から真実が聞けているのだから。
とはいうものの、正直言って何故男がフェミニスト集団の中にいるのかは気になる。
「あの男はね……」
メイは眼鏡の位置を直し、腕を組んで椅子の背もたれに大きく体重を預けて答える。
「ち〇ぽ騎士って奴よ」
「は?」
突然の下ネタに全員の顔が歪む。
ち〇ぽ騎士……別名フェミ騎士ともいう。
一般的には過激な発言を繰り返すフェミニストに迎合するような言動を繰り返すことで彼女たちにすり寄る男性の事を言うが、実はフェミニストに限らず、バイクやパチスロのように男性優位な趣味の世界にいる女性にすり寄る男性の事も射すのであえてこの表記を使って表す。
その名の通り一見道徳的、社会的に正しいと思える主張は実際には彼の本心から来る言葉ではなく、実際には「ヤりたい」がために巧言を操るだけの浅薄な人間であるのだが、当事者にはありがたい「味方」であり、これを跳ね除けるのは難しい。
「そんな男に嵌ってたんですか、メイ先生……」
「うるさい!!」
どうやら彼女にとっても突っ込まれたくない事柄のようである。
「話しを戻すけどね、私の二十年に及ぶ魔法少女生活の経験上、幹部の多くが倒されてくるとね、実際にはアニメみたいに最後のボスを倒してハッピーエンド、とはならないのよ」
「と、いうと?」
アスカは興味深げに尋ねる。彼女自身悪の組織との戦いは初めての事であり、この戦いの終着点がどこに来るのかは測りかねている部分があるのだ。
ちなみにキリエの方は実際にメイと一緒にいくつもの悪の組織を潰してきたのでその答えは当然知っている。
「そもそも最後の一人まで戦って玉砕、なんて変な男気があるような奴なんていないからね。ほとんどの場合は組織としての体裁が保てなくなってきた辺りで降参、最後に残った幹部とボスは『もう二度と悪いことしません』って言って手打ちにしてこようとしてくるのがお決まりのパターンね」
「和解しておきながら結局裏切るパターンも多いけどね」
キリエがそう付け足した。アスカは興味深そうに話を聞いてから、メイに訊ねる。
「メイ先生は実際向こうが謝ってきたら、手打ちにするんですか?」
「もちろん手討ちにするわよ」
そのてうちではない。
「ところが、四天王が残りの一人になったっていうのに屈筋団からはそういう動きがない。これがどういう事か分かるかしら?」
一瞬教室が静まり返るが、少しして、チカがおそるおそる声を上げる。
「もしかして、山田先生が、仲間を増やしている?」
「その通り、そしておそらくは新しいターゲットに選んだのが……」
キリエはその先は言わずに、キリエの方を見た。つまりは魔法少女としての才能を持つこの二人を仲間に引き入れようというのだ。要は前回のロディと同じ目的である。
「で、でもちょっと待って。いくら女に取り入るのが上手いち〇ぽ騎士つったって、うちのユキはおとこ……」
とは、はっきり言えない怖さがある。少なくとも先ほど出ていった彼は、セーラー服を着ていた。
「こっちの三人は知ってるけどね、私昔あの男と付き合ってたのよ。結局婚約破棄したけどね。その婚約破棄の直接のトリガーになったのは、奴の、浮気よ」
「そ、それがどうしたのよ……」
半笑いでキリエが首を傾げる。
今更メイの交友関係、男関係を放されたところで動揺するような歳でもない。
「私が都合で研修から一日早く帰ると、あいつは同棲先に浮気相手を連れ込んで、まさにシてる最中だったのよね」
チカが気まずそうに顔を逸らす。アスカとマリエは平気なようだったが、さすがに少し彼女には刺激が強い話だったか。
「男同士でね」
「なっ!?」
これにはさすがに四人とも驚いた。
「じゃあ、つまり……ユキ君のシリアナが危険っていう事……?」
そうでなくともユキはメス男子。同級生の男子からも獣のような眼差しを向けられている立場なのだ。
「それと、あんた男に婚約者寝取られたの?」
メイは、膝をついて崩れ落ちた。




