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疲労

「今更な話だニャ」


 フェリアの口の端が歪み、笑みを見せた。その表情は、牙をむき出しにした威嚇のようにも見える。


「まさか慈善事業で悪魔を倒してたとでも思ってるかニャ? 魔法少女のマスコットになった奴には、毎回魔法を無駄に使わせるように指示を出してるニャ」


「あなたの……あなたのせいでマリエは……ッ」


 もはやアスカは怒りの感情を隠すこともしない。右手に持っている可愛らしいデザインの小さなステッキが怪しく光る。


「ヘルファイア!!」

「ゴルオオォッ!!」


 何もない空間から炎がほとばしったが、フェリアに届く前にそれらは彼の咆哮一つで霧散してしまった。しかしその一瞬の熱気だけでもすさまじく、コウジは顔を歪める。


「マリエの技かニャ。亡き友の技で仇を討とうと? 笑わせるニャ」


 だがそれだけではなかった。炎が晴れて、クリアになった視界。その視界の隅に黒い影。


「もらった!」


 横薙ぎの銀の一閃が奔る。


「ギャオッ!?」


 メイの剣による斬撃。たしかにクリーンヒットし、フェリアにダメージも与えたようであったが、またも直撃してから彼は身をよじってフォロースルーを避けた。


 しかしメイはこの機を逃さまいと連続攻撃を仕掛ける。斬撃だけではない。上段に構えてからの袈裟懸け斬り、これは躱されたがそこからの流れるような関節蹴り。だがそのどれもがフェリアに致命的なダメージを与えることが出来ない。


 何とかして一旦距離を取ろうと離れるフェリア。その視界の端にアスカが再び映った。


「ヘルファイア!」


 波状攻撃である。


「ギニャアアアァァ!!」


 斬撃には強いものの、生物であるからには当然ながら熱には弱い。フェリアは体を地面にこすりつけ、自らの体毛に宿った炎を消す。


「フーッ、フーッ……」


「いける……」


 瞳孔が開き、警戒を強めるフェリア。充分に体が大きいのにもかかわらず、体を斜めに構えて大きく見せようとしてしまうのは二十年の間猫として生きてきた(さが)か。


「いけるじゃないわよ、白石さん、ウィッチクリスタルを見せなさい」


 しかしアスカは彼女の呼びかけには答えず、衣装の下に隠しているクリスタルを布の上からギュッと握った。


「あなた……死ぬつもりじゃないでしょうね」


 フェリアがすぐには攻撃の意思を見せないようなので、メイは一旦間合いを取ってアスカにしっかりと視線を合わせて話しかけた。


 彼女がアスカの瞳の中に見つけた光、それは悲愴感だった。


 罪を犯してしまった自分は、もう元の生活になど戻ることは出来ないと。幼馴染みの命を奪っておきながら、自分だけが安全圏でのうのうと生きていくことなどできないと。彼女の瞳がそう物語っていた。


 そして戦いの場に身を置こうとするアスカの行為が、その罪の意識を少しでも軽くしようとするための自傷行為に他ならないとメイは看破していた。


「コウジさん!」


 メイはさらにフェリアと距離を取りつつ堀田コウジに話しかけた。


「お願い、白石さんを頼みます」

「しかし……」


 感覚的に、どの程度魔法を使うと記憶に障害が残るのか、それはメイには分からない。しかしアスカがウィッチクリスタルを見せたがらないことからも、現状でかなり厳しい状況なのは間違いない。


 実際通常の悪魔との戦闘ならば魔法など1、2回使えば事は済むのだ。メイ自身フェリアほどの強敵には今まで出会ったことなどない。既にアスカは短時間のうちに防御にも攻撃にも魔法を連発している。


 コウジはメイに渡されてアスカの両肩を支える様に持ったが、既に彼女の足取りが若干覚束ないように見えた。


 彼自身、すぐ前に魔法少女が魔力を使いすぎるとどうなるのか、その成れの果てを目撃している。当然彼女をそんな状態にしたくはないのだが、しかし。


「フェリアを……倒せるんですか?」


 メイに問いかける。魔力もなしに、単独で戦うにはあまりにも危険な相手。実際一対一で戦っていた時にはまるで歯が立たなかったのだ。


 メイは何も言葉を発せず、ただフェリアの方を睨みつける。


「そろそろ相談はまとまったかニャ?」


 考える時間を与えてくれるような彼の寛大な心に期待するのは無理があろう。


「アスカちゃん、下がっていて」


 ぐい、とコウジがアスカを後ろに押しやる。緊張の糸が切れてしまったのか、アスカは意識が朦朧としているかのようにふらふらと後ろに下がった。


「メイさん、ここは僕がサポートします」


 二人をかばう様にコウジが前に進んだ。


「コウジさん! ……戦えるの!?」


 ポテンシャルはともかく、メイはもちろんアスカと比べてもコウジの戦闘能力は数段落ちる。それでも、これしか方法がなかった。


「ふん、元々無関係な男が、引っ込んでいればいいものを」


「無関係? 無関係ですって!?」


 剣を構えながらメイが前に進む。


「自分の個人的な復讐に、散々無関係な人間を巻き込んでおいて、よくもそんな事が!!」


「お前も無関係だニャ! キリエ親子を殺すのをそこで黙って見ていればいいというのに!!」


 咄嗟に放ったメイの横薙ぎの剣とフェリアの牙が交錯する。


 ぎりぎりと鉄がきしむ音がする。フェリアはその咬合によってメイの剣を白刃取りし、止めていた。


「クッ……」


 動きは止められない。すぐに逃げなければならない状況だったのだが、しかしこの剣を放せばほとんど唯一といっていいメイの攻撃手段を失う事となる。その思いが判断を鈍らせた。


 傍目であれば一瞬の出来事であっただろう。結果、メイはすぐに手を放して距離を取ったのだが、その一瞬の迷いがあだとなった。


 右前脚の攻撃がメイに襲い掛かる。素手のメイはこれを受けられない。かといって距離をとるにも遅れたメイはインパクトの瞬間体を捻って攻撃を逸らすが、しかしナイフのように鋭い爪はメイの皮膚を切り裂き、鮮血を散らした。


「これで終わりだニャ!!」

「剛掌波!!」


 咥えていた剣を吐き出しメイの身体を噛み砕こうとするフェリア。しかしすんでの所でコウジの攻撃が直撃し、メイの危機を救った。


「メイさん!!」


 救ったのだが、やはり経験不足か。さして深手でもないメイを助けることを、フェリアに追撃を入れる事よりも優先した。


 自分で避難できたメイを引き寄せようと彼女の身体を引っ張り、フェリアを自由にしてしまったのだ。


「オオオオオッ!!」


 至近距離で吠えた。


 この距離でなら噛みつきや引っ掻きの方がよほど早かっただろうことは想像に難くないし、実際にそうなのだ。


 しかし、フェリアはこれ以上戦いが長引くのを嫌がったのか、一気に決着を付けに出た。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ホスト剛掌波使った!? まさか、強敵(とも)の力を引き継いで……とも?
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