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元恋人

「ゲッ、来やがった!」


 カルナ=カルアはすぐにメイが追ってきていることに気付いてそう吐き捨てた。追ってくるにしても夜王(ヤオウ)がいるのだからもう少し時間的余裕があるのだろうと思っていたのだが、まさかコウジ達に夜王を任せて先に追ってくるとは思っていなかったのである。


「待ちなさい! キリエをどこにやったの!?」


 通路を駆けてくるメイの肩にはガリメラがとまっている。カルナ=カルアは一瞬立ち止まったが、すぐに通路の奥へと走り出した。


 おそらくは先ほどの独り言からして魔族の狙いはガリメラ。それはメイの理解しているのである。だからこそ普段はふらふらとその辺を飛び回っているガリメラをわざわざ肩にとめているのだ。


「クソッ、とにかく報告だ」


 走りながらも悪態を吐くカルナ=カルア。


 メイも急いで彼を追うがなかなか追いつけない。それもそうだ。戦闘では誰よりも圧倒的に命のやり取りの経験を多くしているメイが強いが、所詮は男と女、駆けっこのような単純なフィジカルの勝負になれば当然男の方が強い。さらに彼は人間よりも生命力に優れた魔族である。


 じりじりと距離を離されながらも長い長い通路を走っていく二人。ガリメラはメイの肩に乗ったままつぶらな瞳でそれを眺めている。一体この化け物と魔族との間にどんな関係があるというのか。


 相変わらず薄暗い、長く続く通路。


 その通路の先に、一際明るい光が見えてきた。実際には満月の光くらいの明るさだっただろうか。しかし暗いダンジョンに慣れ切ったメイには「ついに外に出たのではないか」と錯覚するほどであった。


 既に分岐のない一本道になっていたダンジョン。カルナ=カルアはその先の明るい通路の出口に吸い込まれていくように出て行った。数十秒遅れてメイもその通路の先に入る。


「ここは……」


 その景色に見惚れた、というのが正しいところであろう。そんな事をしている場合ではないというのは重々承知なのであるが。


 卵型の超巨大な空間。大きさとしては4階建てのビルくらいだろうか。通路の出口はその中腹ほどにぽっかりと開いており、他にも同じような出入り口が複数あいている。


 空間の中央には上から下へと巨大な柱が通っており、その一番下には何か大きな()のようなものがある。どうやらこの部屋の一際明るい光源はそれのようである。


「待ちなさい!!」


 そして各出口は当然ながら穴が開いているだけではなく、通路になる様に中央の柱に吊り橋のように有機物の極太の(つた)がはしっている。中央の柱は凹凸が激しく、そこからなら一番下まで降りられるようだった。


 そしてその吊り橋の中央辺りを落下しないように慎重にカルナ=カルアが移動しているところであった。メイが声をかけるとカルナ=カルアはびくりとして振り向く。


 しかしメイはメイでまた別のものを見つけていた。カルナ=カルアのその向こう、同じくつり橋の上に人影を見つけていたのだ。


「アキラ……やっぱりあんたもここにいたのね」


「フン……かつての恋人に会えてうれしいか?」


 アキラの言葉を受けて、メイはちらりと後方を見る。全力で走ったのでそんな筈はないのだが、現恋人のコウジがいないかを確認したのだ。ほんの数時間前には、この男の発言のせいでコウジとの関係がギクシャクしてしまったからである。


 覚悟は決まった。しかしもう二度とあんな思いは御免だ。


「とにかく、あんたはここで始末するわ。散々引っ掻き回してくれやがって」

「いいかげんにしろ!!」


 と、怒鳴ったのはアキラではなかった。


「俺を挟んで会話するな!!」


 カルナ=カルアである。


「しかもお前ら元恋人だと!?」


 非常にいたたまれない空間である。


「とにかくアキラ! お前はメイを足止めしろ! お前みたいな役立たずでも時間稼ぎくらいは出来るだろう!」


 魔族側はDT騎士団のボスは夜王であると認識している。身のこなしも、体格の面でも一枚も二枚も落ちる。そして実際に戦闘技術においても幹部の夜王達に比べて遥かに下なのだ。それ故魔族は彼を軽んじていた。


「とりあえず一旦戻ってどけ! この上じゃすれ違うこともできんだろうが!!」


 蔦の上は人一人がやっと上に乗れる幅である。当然ながらその上で二人がすれ違う事などできない。カルナ=カルアは極めて高圧的にアキラに命令したが、アキラは目を閉じてフッ、と鼻で笑った。


「魔族ともあろうものが情けない」


「なんだと!!」


 アキラの言葉に激昂したカルナ=カルアは彼に詰め寄って殴りかかろうとした、が。


「な……!?」


 カルナ=カルアが近づくとアキラは笑みを湛えたまま存在が霧散し、そして彼の背後にてまた雲集する。


 カルナ=カルアは驚愕の表情で振り返るが、アキラは振り返りもしない。


「今度はさっきのようにはいかんぞ。堀田が邪魔さえしなければあそこで俺を始末できたのになあ?」


 『さっき』とは聖一色(ひじりいっしき)中学校での邂逅のことを指す。あれはほとんど唯一のアキラを倒すチャンスであったと言ってよい。


 自在に霧に変化することのできる能力を持つ山田アキラ。その実力を発揮する前にメイは内臓にダメージを集中させて呼吸困難に陥れ、能力を使うどころか身動きすらできない状態にまで追いつめていた。


 それをよりにもよって恋人である堀田コウジに止められたのだ。


「悔しいよなあ、メイ! よりによって今付き合ってる男が、お前の一番の邪魔者だったんだ! あいつはお前のことなんてこれっぽっちも分かってねえ! お前とは違う世界の人間なんだよ!」


「ひぇ、修羅場だ……」


 アキラにスルーされたカルナ=カルアはそのままつり橋を渡って中央部に渡りつき、下へと降りていく。


「ガリメラ!」


 メイがそう呼ぶと、ガリメラは肩から飛び立ち、ホバリングしながら大きく口を開けた。その中へメイが手を突っ込むと2メートルほどの長尺の棒を取り出す。


 ヒュン、と軽く振り回し、腰の高さに構える。


「そんなので私の動揺を誘えるとでも思った?」

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― 新着の感想 ―
[良い点] カルアミルク、 身の置きどころがなくて不憫だな〜( ;∀;) ガリメラから武器を取り出す場面かっこいい
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