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ブーメラン

「こ、これはいったい、どういう……」


 堀田コウジは、状況を測りかねていた。


 迷宮内で白石アスカ、青木チカとともに彷徨っているうちに、「魔法少女使い」という異質な存在と、そして全ての記憶と知性を失った魔法少女に出会った。彼らと別れた後、偶然にメイの使い魔であるガリメラと遭遇したのである。


 メイの言うこと以外は一切聞かない危険性物ではあるが、彼女の手掛かりがないためこのマスコットに同行していたのだが、突然テレポートをし始めたので「これは何かあるかもしれない」と思い、便乗した。


 そして夜王(ヤオウ)とメイの戦いの真っただ中に出てしまったのである。


「ガ、ガリメッラ様!!」


 知らない男が突然ガリメラの名前を叫んだ。ガリメラは当然の如く無反応である。


「ベルメス様にお知らせしなければ」


 その若い男、カルナ=カルアであるが、ガリメラの存在を確認すると何やら慌てた様子で扉の向こう、大広間とは反対の次の部屋の方へ走っていってしまった。


 さて、困ったのはコウジの方である。


(どういう状況だ……?)


 メイに合流できたのは僥倖であったが、状況が分からない。前にはメイ、後ろには夜王。


 だがここで素直に「すいません、今どういう状況ですか」とは聞けない。メイの前なのだ。一か八かの賭けでも、最大限格好つけたいのが男心である。


「ここは僕に任せて! メイさんは先へ!!」

「!?」


 しばしの間。


 メイ、沈思黙考の構えである。


「……ありがとうコウジさん! まかせたわ!!」


 正直どうかと思うが、迷った結果メイはカルナ=カルアの後を追っていった。ガリメラもその後を追っていく。


 さて、問題は残された方のコウジ一行である。


(普通に考えて、夜王と交戦中だったんだよな……)


 コウジが振り返ると、まず目に入ったのは夜王ではなく、不満顔のアスカとチカであった。


「あ……ご、ごめん」


 コウジの格好つけに巻き込まれた形である。


「まあ、どっちにしろいいですけど……メイ先生を助けるために来たわけですから」


 振り返る三人。立ちはだかるは妙に穏やかなまなざしをした夜王その人である。一度はコウジのかめ〇め波で撃退している相手ではあるが、しかしどうも雰囲気が違う。


「そうだ、どっちにしろ、僕の敵なんだ」


 コウジは今来たばかりなので夜王がサザンクロスと法人を失って無職となってしまったことはまだ知らない。しかしおそらくは彼が再起をかけるとしたらやはり堀田コウジという人材は得難く、必要なものなのである。


(おかしい……前と雰囲気が違う……)


 違和感を覚えつつもコウジは深く腰を落として体を引き絞る。以前と同じ、かめ〇め波の構えである。


「波――ッ!!」


 苔と菌糸による淡い光でうすぼんやりと照らされていたダンジョンの玄室がまばゆいばかりの光に包まれる。だがコウジ達が夜王の動きを見失ったのはその光のせいばかりではない。


「!? カッ……!!」


 光ったと思った次の瞬間には夜王はコウジの隣におり、その破城槌のような右腕を彼の鳩尾にめり込ませていた。


 肋骨が砕け、横隔膜が衝撃を受け、呼吸が出来なくなる。コウジは意識ははっきりしたまま、その場に崩れ落ちた。


「な……」


 魔法少女として最前線で戦ってきていた白石アスカにも、そして視力が強化されている青木チカの目にも、夜王の動きは全く見えなかった。


「無駄な抵抗はやめておけ。子供を殴る趣味はない」


 体の芯まで響くような低い声。


 その獅子の咆哮にも似た声は、中学生でしかないアスカとチカを心胆寒からしめた。


 だが。


 アスカの瞳には明らかに反撃の炎が灯っていた。


 もう、ただの子供ではないのだ。チカの方にはそこまでの覚悟は無かったようであったが、しかしアスカは違った。


「ほう」


 その瞳の色に気付いて夜王が感嘆の声をあげる。


 背負っている物が違う。ここまでの戦いが彼女を成長させたのか。今のコウジとのやり取りを見ても実力の差は明らか。それでも退けない。ここまでに犠牲にしてきた命に申し訳が立たないから、止まれないのだ。


「私はもう、子供じゃない」


 そう言えば以前に、幼馴染みと、葛葉メイが言い合っていたのを思い出す。あの時メイは「大人と子供に違いなんかない」と言っていた。だったら、それを分けているのは一体何なのか。自分はもう、何も知らない子供じゃない。


「他人の無知を利用して、いいように使う人達なんかに負けない」


「吠えたな小娘」


 ずい、と夜王が前に進む。


 近づく度にその強大な存在感がさらに増してくるように感じられた。負けることが出来ない。自分を鼓舞する必要がある。アスカは眉間に皺をよせ、叫ぶ様に声を発する。


「女子中学生からDMダイレクトメッセージ貰ったからって、スケベ心丸出しで話しかけてくるような奴らになんか、負けない!!」


「!?」


 ピタリと、夜王の動きが止まった。


「な……いや、まさか」


 何がまさかなのか。


 アスカには思い当たる節があった。


 この夜王は何か今までと一味違う風がある。たとえそうでなくともこのまま戦っても勝つのは難しい。ならば何かブレイクスルーが必要だ。アスカはそう考えた。そしてそのために精神攻撃を試みたのだ。


「あ、アスカちゃん、ヤッホー……お、遅い時間にありがとね。今何してるのかナ?」


「な、何故それを!?」


 アスカの直感は当たったのだ。コウジもこのキモいセリフが何なのかを思い出していた。チカだけは何のことか分からず蚊帳の外である。


「ユキくんを町で見かけたって? ちょっとスペースで話せないカナ?」


「や、ヤメろ!!」


 夜王の額からはだらだらと汗が流れ落ちていた。先ほどまでの悲しみを湛えた、達観した目つきではない。狼狽し、うろたえている表情である。


 みるみるうちに夜王の身体が小さく見えてくる。


「それともホテルでゆっくり聞こうかな? ナンチャッテ!」


「やめろおおぉぉぉ!!」


 なんと、スケロクが病室から送った謎のSNSアカウントへのメッセージ。それに返信したのは誰であろう、夜王本人であったのだ。そしてその恥ずかしいおじさん構文のメッセージを今ここでアスカに暴露されたのである。


 最早DT騎士団の長としての威厳も、真の哀しみを知ったことによる悟りの眼差しもない。ただただ無様に取り乱す哀れな中年男性の姿があるだけだ。


 若者に合わせようと、警戒心を解こうと、最大限努力したその結晶であったが、こうして客観視してみるとなんとも情けない。


 一瞬でアスカが間合いを詰めて、右手に魔力を集中させ、振りかぶる。


「あわよくばで女子中学生相手に童貞捨てようとしてんじゃないわよ!!」


 夜王の腹を、アスカの拳が打ち抜いた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 夜王の心もこれはさすがに折れる(´;ω;`) でも夜王が悪いわww
[一言] あのおじさん構文送ったのお前かよ!?
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