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合流

「はーっ、はーっ、はー……」


「も、もう大丈夫……ですよ、ね」


 静かなダンジョンの通路内に男女の荒い息遣いが聞こえる。しかし情交などの艶っぽいものではなく、どこかから命からがら逃げてきた、といった風情である。


「助かったー!!」

「助かりましたね!!」


 魔王ベルメスとその執事カルナ=カルア。命の糸が繋がった歓喜の気持ちを酌み交わすため、互いの体を抱きしめ合い、大いに喜んだ。


「ちょっと!」


 しかしベルメスがすぐにカルナ=カルアの体を突き放す。


「おぬしさっきどさくさに紛れてセクハラしようとしたじゃろう」

「そういうベルメス様こそ私の事見捨てようとしましたよね」


 しかし確実に二人の間にしこりは残ったようである。だがまあそんなことはどうでもいい。実を言うと二人の間に信頼関係など最初からなかった。


「あ~あ、おぬしにそんな目で見られてたなんてなぁ、傷ついたなぁ~、(わらわ)傷ついちゃったなぁ。性的消費されたなあ、妾」

「うぜぇなこいつ(そんな事よりこれからどうしましょう?)」


そう。そんな事よりもこれからどうするかが重要なのだ。


 手下の大部分を失ったのはまだいい。どうせ数頼みの雑魚達だ。しかし四天王が全滅してしまったのはいただけない。異世界アルニウスでの人類に対する反転攻勢。そのために必ず必要な戦力であった。


 それを正直言って何の関係もない寄り道で全部消費してしまったのだ。


「あきらめます?」

「は!?」

「いや、人類への侵攻」

「たいがいにせえよおぬし。……ちょっと来い」


 別に誰に聞かれるわけでもないのだが、ベルメスはカルナ=カルアを引っ張って壁の傍まで言って小声で話しかける。


「いいか? 今更計画を引っ込めるなんてありえんわ! 散っていった仲間たちのためにも、志半ばで倒れた四天王にも申し訳が立たんわ!」


「四天王は誰かさんの落とし穴に落ちたんだと思いますけど……」


「とにかくじゃ、あの女と同時期にダンジョンに入ってきた男どもがいたじゃろ? あいつらの頭領は、どうも悪魔のようじゃ。交渉すれば引き込めるかもしれん」


「マジですか」


「それに、ガリメッラさえこちらの手に入りさえすれば数の不利など簡単にひっくり返せる」


「そのガリメッラ様はどこにいるか全く分かりませんけど……」


「ダンジョンの中にいるのは間違いないのじゃ。あやつを見つけ出すためにもまずは男どもを押さえて数的有利を取る必要がある」


「数的な事言ったら今も有利だったと思いますけど?」


「お前はいちいち細かいのう! とにかくこの先の道からあの男どもと接触するぞ! 話はそれからじゃ」


 そう言うとベルメスはずんずんとさらに通路を進み始める。


 よく言えば臨機応変な作戦の転換。悪く言えば「少し考えが浅くないか……?」と、カルナ=カルアは口には出さないものの、そう考えていた。


 そもそもメイに攻撃を仕掛けたのだって確たる考えがあっての事ではないのだ。ただ、自分は人間よりも圧倒的に強いという自負だけがあった。たとえ異世界の者であろうと人間如き軽くひねり潰せるという驕り。


 それがメイとの戦闘の引き金を引いてしまった。相手の実力も目的も分からずに。浅はかな考えであった。


 人類と敵対しているとは言えども所詮は異世界の話。メイとは全くの無関係。敵対する必要などなかったし、上手く行けば共闘の目もあったのだ。それを全てふいにしてしまって、それどころか組織壊滅の危機である。


 一方の共闘相手として目を付けられた山田アキラ率いるDT騎士団。こちらはこちらで完全に手詰まりの状態にあった。


「ジャキの奴が……戻ってこないな」


「おちつけ、アキラ」


 焦燥感を隠せない山田アキラに対し、DT騎士団の(おさ)夜王(ヤオウ)は泰然自若とした姿である。


 ただでさえ日常が崩壊した上に異界化したダンジョン。その中で散発的に襲い掛かってくるモンスターに、設置されたトラップ。見つからない有村ユキ。構成員のストレスは計り知れないものである。


 そんな中での夜王のどっしりと構えた姿は幾分か救いになる。逆に余裕のないアキラはイマイチ人の上に立つ資質というものに欠けると言わざるを得まい。


 だがアキラが焦りを見せるのにも理由はある。


 先ず第一に聖一色(ひじりいっしき)中学校からサザンクロスに向かう道中でのジャキの自分に対する態度にある。


(あいつ……まさか裏切る気じゃ……)


 そしてもう一つ。現在、サザンクロスに残してきた者を除いたDT騎士団全員が集まってきている大部屋。五十人ほどが入っても十分に余裕のある玄室だが、ここまで人海戦術を駆使して攻略してきた彼らも、これ以上の探索ができず、詰まってしまったのだ。


「ん~、やっぱり隠し通路がどっかにあるとしか思えんな」


 数人の部下と共に床に書いてまとめていたマッピングの結果を眺めていた網場(アミバ)が顎をさすりながらそう言った。


 山田アキラも同じ意見であったのだが、しかしなんとなく嫌な予感がするのだ。勘というか、ありていに言ってしまえばお約束というか。ただの迷路ならば人海戦術での攻略に異議はなかったのだが、しかしトラップがあるとなると話は別だ。


 ヘタすれば大勢で罠に嵌まって消耗し、数的有利を失ったところでスケロクやメイと対峙する羽目になりそうな気がする。


 ついさきほども覚悟の決まったスケロクにいいように弄ばれたところである。彼らの爆発力を恐れているのだ。何か決め手になるものが欲しい。


 その決め手になるものが何なのかまでは頭に浮かんでこないのだが。唯一頭に浮かぶ『決め手』足りえるものは有村ユキを先に奪取することなのだが。他に何か手がないか……そう考えていた時であった。


 妙にエコーのかかる女性の声が大広間に響いたのだ。


『ふっふっふ……お困りのようじゃな』

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― 新着の感想 ―
[良い点] カルアミルク、もう逃げた方がいいのでは(;´д`)
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