なんやこいつら
「とりあえず、どう攻略する? DT騎士団を追うのか、それとも奴らとは違う場所から探すか?」
「そりゃまず先に脅威になる奴らを排除する方が優先でしょう」
「私も同感ね。ユキくんを人質に取られでもしたらまずいことになるし」
スケロク、メイ、キリエ三人の意見はまとまった。当然三人ともダンジョンの攻略などしたことはないが、まずはDT騎士団の排除というところでは一致したようである。
「どういうことかしら」
しかし先頭を切って部屋の先に進もうとしたメイは通路に差し掛かる前に立ち止まった。
「足跡が部屋までで消えてるわ」
メイの言葉にキリエとスケロクが覗き込むと、確かにそこまで夥しい数の足跡があったにもかかわらず、通路に差し掛かるところでそこから先は何もなかった。
「いきなりトラップか。落とし穴なんかは無さそうだが……」
「とりあえず進んでみなきゃ分かんないわよ」
「お、おいメイ!」
制止するスケロクの言葉を無視してメイは一歩を踏み出した……のだが、部屋から出た瞬間霞のようにその姿を消してしまった。
「えっ!? ちょっと!!」
「メイ!?」
慌ててキリエとスケロクは彼女の後を追って通路に出たが、しかしメイはいない。振り返れば元の部屋があるだけ。試しに戻ってみたが部屋に戻ることは出来た。
しかしメイだけが戻ってこない。どこにもいない。
「おいおいマジかよ!」
「はぐれちゃったじゃない!」
ダンジョンに入ってほんの数十メートル。早速分断されてしまったのである。
「くそっ、マズいな……」
「マズいわね……」
ただでさえ少ない人数が分断されてしまった。それもよりによって最大戦力と目していたメイが孤立してしまったのだ。スケロクとキリエはうろうろと部屋の出口周辺を歩き回るが、どういう条件がきっかけになってメイが消えてしまったのかは分からない。
(マズい……)
キリエとスケロクはしばし互いに目を見合わせて、それから目を逸らした。
(気マズい……)
メイ、キリエ、スケロクの三人はここまでにも言ってきた通り、小学生の頃からの幼馴染みである。
(何を話したらいいのか分からないわ……)
しかしキリエとメイ、スケロクとメイは仲が良かったものの、キリエとスケロクはそれほど仲が良くないのだ。
(距離感がつかめん……)
別に仲が悪いわけではない。そもそも接点があまりないのである。
「あ~……」
キリエがスケロクを呼ぼうとして、そして、やめた。
(あれ? 私こいつの事なんて呼んでたっけ?)
そこからである。
(メイが名前を呼び捨てにしてたのは知ってるけど……私はなんて呼んでたっけ? スケロク? 名前を呼び捨てに……? さすがにそこまで気やすい仲じゃなかったような……じゃあ『木村』?)
考え込んで首をひねるキリエ。
(いや、絶対違うわ。私のキャラ的にも苗字呼び捨てはないと思う。じゃあ『木村くん』とか……? いやいや、それこそないわ。敬称とか必要な人間じゃないもん)
「あの……」
スケロクもキリエを呼ぼうとして、そして口ごもる。
(絶対『キリエ』って呼んでたと思うんだけど……なんか、メイがいないところで急に名前呼びしてキレられたりしたらイヤだしなぁ……無難に名字で呼ぶか……『有村』……?)
何か考え事をしてぶんぶんと首を横に振るスケロク。
(いやなんかすげぇ違和感あるわ。だってコイツ井田※じゃん。今更違う名字で呼ぶのすげえ違和感ある)
※井田……キリエの旧姓
高校卒業以来つい最近まで会っていなかったので、スケロクの中では三十年間この女は『井田キリエ』だったのである。今更違う名前はちょっとしっくりこないのだ。
「あの……」
「あのさぁ……」
二人同時に口を開いてしまい、行き詰る。
「え? なに?」
「あ、いや、そっちこそ、なに?」
「あ、いや、俺は全然大したアレじゃないから、そっちからどうぞ」
「え? いやいや私の方は全然アレだし、ホントそっちから」
息が合わない。
決定的に合わない二人。幼馴染みだが、しかし合わない。
「あの」
「あの」
また被る。
「いやいやいやいやいやいやいやいや」
「いやいやいやいやいやいやいやいや」
互いに譲り合い、話が進まない。
本来ならばこんなことをしている場合ではないのだ。消えたメイを探さねばならない。DT騎士団を出し抜き、ユキを探し出さねばならない。幼馴染みと遊んでる場合ではない。
場合ではないのだが、しかしなんとも調子が上がらない。
完全にペースが乱れてしまったのである。本来で言えば二人ともどちらかと言うと傍若無人で唯我独尊な性格であり、へりくだって他人に譲る性格ではない。
ではないのだが、しかしなんともペースがつかめないのだ。
(何で俺がこんなに下手に出なきゃいけねえんだ。俺とキリエってこんな関係だったのか?)
(どうにもやりづらいわ……なんか、こう……ワンクッション挟みたい。誰かに間に入ってほしい)
信じがたい事なのではあるが、この幼馴染み三人は、あのコミュ障で人の気持ちを全く顧みることのない、葛葉メイが潤滑油として働くことで成立していたのである。
(とりあえずはダンジョンの先に進むしかないと思うんだが……しかしやりづらい。多分名前で呼び捨てにしても問題ないと思うんだが……意識すると余計に呼びづらいな)
(あれ~? 私本当にスケロクの事なんて呼んでたっけ……頭の中じゃ名前で呼んでたはずだけど……もし違ったら恥ずかしい。逆に『急に呼び方変えたけどなんか心境の変化があったのかな?』とか思われたら気持ち悪いし……どうしよう)
互いに互いの距離感が掴むことが出来ず、自縄自縛に陥り話しかけることのできない二人。相手の事をどう呼んだらいいのかすら分からない。三十年近い付き合いの古馴染みだからこそ、逆にやりづらい。まだ初対面の方がやりやすいほどである。
さしあたっては、まず相手を呼ぶことが出来なければ何も始まらない。
(いや……もう名前で呼ぶのは諦めるか。適当にそれっぽく呼ぼう)
(そうだ……もういっそのこと代名詞で呼ぼう)
二人の胎が決まったようである。
「お……おい」
「な、なあに? あなた」
なんやこいつら。