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ダンジョン探索

「さっさと起きなさい。殺すほど強くやったつもりはないわよ」


 そう言ってメイはジャキの股間に勢いよく足を振り下ろした。


「ぎゃうッ……ぅ……」


「ひぇ……」


 一瞬で意識を取り戻し、しかし今度は股間を抑えてうずくまるジャキ。その痛みをリアルに想像して嫌そうな表情をするスケロク。


「とりあえずはこれを着て。見るに堪えないわ」


 そう言ってキリエは部屋の隅に綺麗に畳んでおいてあったスーツ一式をジャキに投げ与えた。結果的に敵対し、悪夢のような技を見せつけられることになったものの、元は客と指名ホストの関係。無様な姿を見せつけられるのはしのびないのだろう。


 ジャキが服を着始めると、メイはそれを待つことなく尋問を始めた。


「この先にDT騎士団の連中がいるのね? 規模はどのくらい?」


「……五十人ってところだ」


「全員が魔法使い?」


「……ああ。魔法使いじゃない奴はサザンクロスの守りに残してきた」


 妙に素直に返答を返すジャキ。正直言って拷問までしないと答えは得られないだろうと思っていたメイ達は肩透かしを食らったような感じだ。


 あまりにもスムーズすぎる。最初から情報のかく乱を狙ってここに待っていたのではないかと思うほどに。


 メイがしばらく黙り込み、鋭い視線で口を開きかけたところをスケロクが無言で手で制した。今度は代わりに彼が口を開く。


「ユキの居場所の情報を流したのはフェリアだな?」


「えッ!?」


 スケロクの質問に驚いて思わず小さな声を漏らしたのはキリエ。なんとなく怪しいとは思いつつも、かつての相棒、さらには二十年来のペットと飼い主の関係性があった。フェリアの事を信頼していたのだろう。そしてジャキは無言で頷いた。


「嘘よッ!!」


「でけぇ声だすな……そもそもだ」


 声のトーンを落としてスケロクが話し始める。


「そもそも、あの魔法生物共は信用できんのか? あいつらが一度でも魔法を使う事のリスクを話したことがあったか? あいつらが人類の味方だとでも思ってるのか?」


 小さなうめき声をあげてキリエは黙した。反論の言葉が見つからない。実際浅間神社までの道程でいつの間にかフェリアは姿を消していた。


 むしろキリエとフェリアの間よりも、言葉の通じないメイとガリメラの方がよほど信頼関係が成り立っているように感じられたのだ。


 対してスケロクはアスカやマリエ達の処遇を巡ってフェリアには大きな不満を持っていた。少なくとも前任のルビィについては、マリエの死の件もあって間違いなく悪感情を抱いている。


「そしてジャキ、お前もあのクソ猫が気に入らねえクチだろう?」


 ジャキはスーツの袖に腕を通し終えて、にやりと笑みを見せた。左腕は先ほどの衝撃で捥げ、割れてしまっている。


「DT騎士団を裏切ってこっちについてくれるの?」


 しかしメイがそう言うと険しい視線を彼女に向けた。


「腕をこんなにされた恨みはある。お前らの仲間にはなれないし、夜王(ヤオウ)様を裏切る気はない……だが」


 ジャキは通路の先を睨みつけながら呟く。


「あの男、山田アキラは別だ。あいつが来てから、俺達の活動は皆おかしくなっちまった」


「まあ、あんたたちゴミホストの活動に干渉するつもりはないわ。ただ、大人しくしてるってんなら殺すつもりはない。他のDT騎士団の連中はこの奥にいるの?」


「ああ……だが、この先は道がいくつにも分かれてて正直俺達も手探りで探索してる状況だ。ユキの居場所の見当すらついていないし、よく分からない異世界の化け物もいる。俺がここでお前らを全て排除できればゆっくりと探索できる、という作戦だったんだがな……」


「ナメられたもんね。直接戦おうが、ダンジョンでのサバイバルだろうが、どちらでも魔法少女は後れを取ったりはしないわ」


 あくまでも強気なメイの発言。その余裕にジャキは少し笑いを見せたが、しかし実際に今ここでその実力の片りんを見せつけられたのも事実。未知の技を使う相手を冷静に観察して、的確に弱点を突いて倒す。やはりそこには二十年の悪魔との戦いにおける積み重ねを感じることが出来た。


「俺はもう戦いから離脱する。どっちみちこの体じゃ戦えないしな」


 股関節は既に嵌められているが、しかしその際に靭帯を痛めており、歩くのがやっとといったところ。さらに石化していた左腕も捥げてしまった。ジャキはここでリタイアである。


「後は頼むぜ。この世界自体が滅んじまったら、世界の支配者がどうのだの言ってる場合じゃないんでな」


 そう言うとジャキは足を引きずりながら、ダンジョンの出口の方へとゆっくりと歩いていった。


「さて、問題はここからだな」


 スケロクは部屋の先の通路の方に視線をやって呟く。ここまでと同じく、おそらく不思議な発光する菌糸と苔によるものであろう。うっすらと明るい通路がどこまでも続いており、途中に分かれ道や部屋への入り口が見える。


「ダンジョンの攻略なんざゲームでしかやった事ねえぜ」


 人海戦術の使える五十人からなるDT騎士団に比べ、メイ達はたったの三人。ゲームと違って回復魔法の使える奴などいない。近接戦闘のメイとスケロク、それに口が達者なキリエ。


 この三人でユキをDT騎士団よりも先に助け出す。もしくは奴らからユキを奪う。


 さらに言うなら今ユキがどんな状態になっているのかも分からないのだ。随分と分の悪い賭けであるが、しかし引くこともできない。


「分の悪い賭けなんて日常茶飯事よ」


 しかしメイの表情に気負ったものはなかった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] キリエはついてくるだけのNPC状態ですね(;´д`)
[良い点] ガリメラのほうが喋る猫より信頼できる… 確かに
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