一次避難先
「とりあえず、一緒に戦うのは了承するわ。私もユキくんを助けなきゃいけないし」
キリエがなかまになった!
「でもその汚い銃弾はあんたがもちなさいよ。いやならその辺にでも捨ててくればいいでしょ」
それをすてるなんてとんでもない!
「むぅ……」
沈思黙考するメイ。
「ガリメラ!」
窓を開けてメイが相棒の名前を呼ぶとすぐにバサバサと翼をはためかせてガリメラが飛んできて、窓の縁にとまった。
「とりあえずコレ保管しといて」
メイがそう言うとガリメラは大きく口を開け、彼女はその中に銃弾と拳銃を放り込んだ。スケロクのケツから出てきたものを相棒の口の中に放り込むなど言語道断の蛮行ではあるものの、もはやこれ以上この話題を誰もひっぱりたくないので、みな黙り込んでいた。
「とりあえずこれからどうするの? 結局ユキくんの居場所は誰も分からないんでしょう?」
「ユキと同じ場所にユリアもいるはずだ……少なくともこんな騒ぎになる前まではな」
そう言ってスケロクは俯き、小さな声で呟くようにメイにさらに話しかけた。
「……すまねえ、俺がこんな状態じゃなけりゃ、自分で動けるんだが……どうか、ユリアの事を頼む」
「いいけど、私はダッチワイフよりも生きている人間の方を優先するわよ? それでもいい?」
苦しそうな表情で、スケロクは頷く。メイの言う事も尤もなのだ。「ユリアだって生きているんだ」などという綺麗事を吐くほど彼は青くはない。「他の者より優先しろ」などと我儘を言うのなら自分が動くしかないのだ。
「外の状況はどうなってるのかしら?」
「正直言って、予断を許さない状況だ。こうしている今も、状況は悪くなっていってる。」
メイの問いかけに、スケロクがスマホの画面を見ながら答える。どこかと情報をやり取りしているのか、それともネットのニュースでも見ているのか、彼が言うにはもはや悪魔はここ数日の散発的な出現からさらに進んで、あちこちに同時に現れ、人々に危害を加えたり、加えなかったり、建造物を破壊したり、街をぶらぶらしたりしているらしい。
「一様に悪事を働くわけじゃないのが逆にいやらしいわね」
それゆえの、さすまたである。
メイが絶望的状況に頭を抱えていると、携帯に通知が入った。キリエも同様である。
「エリアメールが来てる……」
「私は学校からね……」
二人はスマホの画面を見て我が目を疑った。
「緊急災害速報? 聖一色中学を一次避難先として開放するから、そこに集まれって……」
「賢明な判断だな」
スケロクがメイのつぶやきに答えた。
「悪魔共が本気になって人を害そうとすれば家に隠れたところで無駄だ。だったら一カ所に集まった方が守る方もやりやすいし、そこに対して攻撃をしてくる奴に絞ってならまだ対応もできる」
「それもそうね。私達も一旦学校に戻るわよ」
「ちょっ、ちょっと待って!!」
得心がいった二人に、キリエが待ったをかけた。
「こっ……この格好で!?」
そう。
ふたりはババキュア。
一難去ってまた一難。ぶっちゃけあり得ない。フリフリ着ててもふたりは三十路だしぃ。お互いピンチを乗り越えるたび強く近くなるね。
「じょう~だんじゃないわよッ!!」
キリエが切れた。
「あんたは普段からそんな恰好で徘徊してるからいいかもしれないけどね!! そんな、人が大勢いるところにこんな格好で行けだぁ? そんなの社会的に死ぬじゃない!!」
「私は死んでないけど?」
「せ、せめて普通の格好に戻ってから……」
「変身は魔力を消耗するニャ。こののっぴきならない状況で魔力の無駄な消耗は控えた方がいいニャ」
フェリアも援護射撃をする。
「む、無理に学校に行く必要ないでしょ。私達は避難しに行くんじゃなくてユキくんを助けに行くんだから!!」
「でも有村さんの居場所が分からないわよね?」
「なっ、なによ? まさか学校で情報集めるとでも言うの!? そんな都合よく情報が集まる訳が……」
「学校に行けば青木さんがいるわ」
ピシャリとメイが言い切る。
青木チカ。
魔法少女の一人であり、アスカやマリエの友人でメイの生徒。魔法生物ルビィにメガネに魔法をかけられ、魔力を発する生き物のサーチができる。この能力によってユリアを発見したこともある。
「どっちにしろ、学校には行かなきゃならないのよ。観念なさい」
「ぐぅぅ~……」
唸るキリエ。しかし反論するだけの力はもたない。やはり魔法少女に関してはメイに一日の長がある。
「そうと決まれば早く行くニャ。いやあ、こうしてると二十年前に戻ったみたいニャ」
そう言ってフェリアは二人を先導し、キリエもメイに襟首を掴まれて、抵抗しながらも病室を出て行った。病院の外の闇には、普段では聞くことのできない物が壊れるような音や、パトカー、消防車のサイレンが聞こえる。
「行ったッスね……本当にあの二人、大丈夫なんスかね」
如月はキリエから受け取ったカギを強く握りしめながら不安そうに呟く。スケロクは彼女の問いかけには答えず、窓から見える輝く月を眺めていた。
「この町を二十年間守り続けてきた魔法少女だ。メイを信じろ」
しかし言葉とは裏腹に浮かぶ苦悶の表情は、体の不調ゆえか、それとも自分が動けない事への歯痒さか。
「俺達は俺達の仕事をするんだ。お前はDT騎士団を潰すための動きに入れ」
言われて如月は立ち上がったが、しかし逡巡し、スケロクに話しかける。
「センパイ……まさかとは思うけど、自分も戦おうなんて思ってないッスよね?」
如月がそう問いかけると、スケロクはベッドのシーツを強く握った。
「俺だけが……こんな時に寝ているわけには……ッ!!」
「だめですよ」
男の声。
スケロクは声のした方に目をやる。
「堀田先生……」