コミックL○
「SN……S……?」
「ソーシャルネットワークサービス。簡単に言えばネットワーク上で他人と繋がるサービスの総称です」
スマホは使っているものの、あまりそういったものに明るくないスケロクにコウジが説明する。
「これは僕のツイッターのアカウントです。このツイートを見てください」
「ツイッ……ター……?」
「いやツイッターくらい知ってるでしょ」
コウジはサイドテーブルに置いてあったスケロクのスマホを取り上げて操作する。
「もう面倒だからスケロクさんのスマホにアプリインストールしますよ……えっと、パスは……」
ボフ、とコウジはスマホをベッドに投げつけた。
「入っとるやんけツイッター!!」
「ごめん、なんかリアクションが面白かったから……」
スケロクは投げつけられたスマホを取り上げてツイッターを起動するが、コウジの怒りはまだ収まっていないようであった。
「そうやって僕の事をいつもバカにしてるんですね!! メイさんのことも、自分が付き合ってるのに、僕に紹介するようなことして! 反応を見てからかってたんですか!!」
「ん? ごめん、何のこと?」
口角に泡を飛ばしてブチ切れているコウジであるが、スケロクはそんなことお構いなしにスマホを弄っている。女児以外の感情には無頓着な男である。
「俺があのババアと付き合う? なんで?」
「なんでって……」
普通であればその「相手にしない」ような態度にさらに激怒するところであったかもしれないが、しかしコウジはそのあまりにも「なんでもない」態度に毒気を抜かれてしまったようだった。
「その……あんな無理なプレイをメイさんとして、僕の病院に担ぎ込まれてきたんじゃないんですか?」
「アスカちゃん同伴で?」
確かにそれは少し思った。仮にメイとスケロクがハチャメチャなアナルプレイをした結果ああなったのだとしたら、それにアスカが同伴しているのはおかしいし、さらにアナルに魔力を流し込むのもおかしい。
辻褄は合わないのだが、考えないように、直視しないようにしていたため、思考からすっぽりと抜け落ちていたのだ。ただ「メイとスケロクが付き合っている」という大きな疑惑から目を逸らしたいばかりに枝葉末節のそれを否定する事象からも目を背けていたのである。
「じゃあ、メイさんとスケロクさんはつきあってない……?」
「だからなんで俺があんなババアと付き合わなきゃなんねえのよ」
「じゃ、じゃあ、別にセフレでもない……?」
「俺が童貞じゃないと魔法使いになれんだろうが」
言われてみればそうである。
そうであるが、しかし納得がいかない。
今回網場との戦いで怪我が悪化し、体調が悪くなったのはまだわかる。しかし前回のあのアナルパールは一体何だったと言うのか。DT騎士団との戦いによって敗北し、ケツの穴にアナルパールを突っ込まれたとでも言うのか。
「そうだよ」
それではあまりにも酷い。まるでDT騎士団が変態の集団みたいではないか。
「そうだよ」
「そうなのか……」
もうこの際それは置いておくしかあるまい。全てを理解する事など人間には到底できないのだ。理解できないものは、理解できないまま受け入れるしかあるまい。スケロクのアナルがパールを受け入れたように。
「で、SNSがどうかしたの? 俺コミックL〇の作家陣と村田レンジくらいしかフォローしてないんだけど」
危うく忘れるところだった。ユリアの居場所なのだ。重要なのは。
「そうだ。これを見てください」
そう言ってコウジは自分のスマホの画面を見せる。
― 探しています! 【拡散希望】
― 名前:有村 ユキ
― 身長146cm 女の子みたいだけど男の子です。
― 三日前から行方不明で家にも帰ってません。友達も家族も心配してます。私の親友です! 何か情報あったらDM下さい!!
「スケロクさん、これって……!」
「キリエのガキだな……あいつ、行方不明に?」
その投稿には、有村ユキの人探しの内容と彼の簡単な情報、そしてハッと気づいたような仕草をしてコウジに語り掛けた。
「これ、なんかおかしくないか? プロフィール見るのってどうやるんだっけ?」
「アイコンをタップしてください」
「タップ? タップってクリックのこと?」
「そうですよ! アイコンをタップするんです!」
「アイコン? アイコンってどのアイコン? 投稿者のサムネのこと?」
「おじいちゃんですかあんたは!! 貸せッ!!」
珍しく乱暴な口調になってコウジがスケロクの持っているスマホを取り返し、そして彼のスマホも取って操作を始める。どうやら同じ内容の投稿をスケロクのスマホで表示しているようである。
「ホラ、ここで投稿者のプロフ確認できますから! あとは自分でやってください。
……ったく、これでどうやってツイッター使ってたんですか」
「いや、よくわからんから作家のフォローは如月にやってもらってたから……」
そう言いながらもスケロクは集中してスマホの操作をし、ぶつぶつと独り言を言う。
「え……? 如月さんってよく見舞いに来てる女の人ですよね? あの人にコミックL〇の作家陣探させてフォローさせたんですか? さすがに蛮勇が過ぎるのでは」
しかしそれを問うても仕方あるまい。こいつはそういう人間なのだ。
メイのことにしたって同じだ。だからこそ、コウジにとってスケロクは信頼できる人間なのだという事を、彼はようやく思いだした。本当に、ロリ以外は眼中にないし、それを隠す事すらしない。レットイットビー。
「堀田さん、コミックL〇ってなんですか?」
「え? 知らない」
「さっき自分で言ってたじゃないですか。知らないはずないでしょう」
「いや、知らない。言ってない」
コウジとアスカがとりとめもない会話をしていると、スケロクがスマホに向けていた顔を上げて、口を開いた。
「間違いないな、ユリアはユキと一緒にどこかにいて、DT騎士団はそれを必死で探してる状態だ」




