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リュープロレリン

「あ~、スッキリ……」


 有村ユキはカバンを投げてどさりとソファに身を投げ出すように座る。


「は、しなかったけど、まあ、それなりに楽しかったかな」


 家には帰らず、もはや勝手知ったるサザンクロスの控室に、当然のことのように入り込むユキ。それを咎める者などいない。むしろ彼は歓迎されている存在なのだ歓迎されている存在なのだ。


「派手にやったみたいだな、ユキ。私も影で見ていたぞ」


「見てたんなら助けてよ」


 いつの間に部屋の中に入っていたのか、それとも最初からいたのか、山田アキラがユキをねぎらうような、煽るような言葉を言うと、ユキは頬を膨らませて抗議の意を示した。


 とはいうもののどう助けろと言うのか。まさかあそこで鼻息荒くファイティングポーズをとったメイを組み伏せろとでもいうのだろうか。そんなことが出来る人間はいない。


 舞台は整いつつある。


 既にスケロクは社会的(ソーシャル)死刑(エクスキューション)を受けた状態であり、さらに網場(アミバ)に秘肛をつかれて、まだ立ち上がれない状態だと聞く。メイも同僚どころかテレビでその存在が放送されて魔法少女という事が明らかになった。


 三十路のおばさんが魔法少女を続けることに世間の風当たりは冷たい。今も完全に珍獣扱いであるし、次第に彼女の暴力的な一面や、独善的な性格がクローズアップされていけばバッシングは免れまい。


 二人からすべてを奪った後に、山田アキラは彼女達を物理的に消し去るつもりである。


 しかし、最後のピース、二人を物理的に消滅させる策は、今のところない。


「メイを倒すのは君の力だ。君には魔法少女としての力に目覚めてもらわなきゃならない」


 ソファに座るユキの両肩に手を置いてアキラは耳元で囁く。


「どうすれば力が目覚めるんだ? 私が君を『少女』にしてやればいいのか?」

「ちょっ……」


 かぷりと耳たぶを甘く噛み、手早くシャツのボタンを外してアキラの手がユキの制服の中に滑り込む。恐怖で体がすくみ、一瞬止めるのをためらった。そのうちにアキラの指先は少年の胸をまさぐって敏感な場所を探し当てる。


「そんな方法で魔力に目覚めるわけないニャ」


 突然聞こえた声に驚いてアキラは手をひっこめた。ユキもあわてて衣服を正す。


 現れたのは黒猫のフェリア。どこから入り込んだのか、そもそも実体なのか。それすらも分からないが、ユキの母親であるキリエが魔法少女だった時代の彼女のマスコット、御年人間に換算して百歳ほどの魔法生物は年齢を感じさせない軽やかな足取りでローテーブルの上に飛び乗った。


「教師が男子生徒に淫行に及ぶとか普通に大問題だニャ。社会的(セルフ)自殺(エクスキューション)するつもりかニャ。所かまわずサカりやがって」


「フェリアか……ここに来るとは珍しいな」


 ユキにとっては生まれた時からいる同居人ではあるものの、しかし山田アキラがフェリアの事を知っているとは思わなかった。少し不思議そうな表情をする。


「ふふ、フェリアは協力者だ。尤も、目的を同じにはしてはいないがな」


 フェリアはユキに近づいてぴょん、と膝の上に上った。


「ボクの目的は『最強の魔法少女』を生み出す事だニャ。ユキ、君には『才能』がある」


 フェリアを撫でながらぼうっと考え込む。魔法少女にはなったものの、未だに魔法の一つも使える気配がない。自分があのメイを越える、最強の魔法少女だと言われても何の実感もない。


「最強の魔法少女となるには確固たる自己認識(アイデンティティ)が必要だニャ。他の誰にもない自分だけの特別感。それがユキには欠けるニャ」


「ならば、やはりそろそろ()()が必要だな」


 そう言ってパチンとアキラが指を鳴らすとフェリアがユキの膝から飛び降り、それと同時にソファからしゅるしゅると糸が飛び出してユキの身体を拘束した。


「いよいよ始める気になりましたか」


 控室のドアを開けてジャキが入ってきた。ソファに絡みついている糸は彼の能力だ。


「なにを?」


 体を拘束されたものの、まだユキは焦りを見せてはいない。どこか現実離れした、自分の事ではないような感覚がある。


「君だけのオンリーワンが必要だ。トランスジェンダーとしての君の『個性』を確立する必要がある」


「ま、まさか去勢するつもり!? やめてよ、冗談じゃない!!」


 注射器を取り出す山田アキラ。ユキはようやく自分の危機的状況に気付いて抵抗しようとするが、しかし体は身動き一つできない。


「性転換も、ゆくゆくはな。しかし安心しろ。子供にそんな事をするほど我々も早計じゃない。少しの間成長を止めて猶予を持たせるだけだ」


 ここ数年、自身がトランスジェンダーかもしれないと訴える子供の数は増えている。しかしそれと同時に若気の至りで性転換手術や乳房除去手術を実行した後に、「自分はトランスジェンダーではなかった」と気づき後悔先に立たず、という最悪のケースも増えているのも事実だ。


 そもそも自己確立も不安定である少年少女の時代においては自分の性別に違和感を持つことなど不自然な事ではない。その中で悩みながら人は自己を確立していくのだから。


 その過程で後戻りのできない性転換手術を行ってしまえば後々大変な事態になってしまうのは火を見るよりも明らかである。


 では欧米の最新LGBTシーンでは何が行われているのか。


「二次性徴抑制ホルモン、リュープロレリン。これを君に投与する」

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― 新着の感想 ―
[良い点] アキラ、めちゃくちゃだよ(;´д`)
[一言] スケロクさん、社会的死刑。 (*・ω・)(*-ω-)(*・ω・)(*-ω-)ウンウン♪ もしも私も向こうの世界のSNSにいたら、これはネット探偵したい事案です。 「公安エリートが、何かの事…
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