変わったデザインのペン立て
晴丘市の中心部からほんの少しだけ外れた場所。深夜となっているその肛門科は当然ながら明かりは落ちていたが、メイとアスカに両脇を支えられたスケロクはアスカのスマホを借り受けてどこかに連絡を取った。
(堀田肛門科……まさか? ……まさかね)
メイはなんとなく嫌な予感がしたがその可能性を振り払った。
「当然鍵がかかってるわね、医者に連絡は取れたの? そいつが来るまでここで待ってる?」
「いや、正直立ってるのも辛い……悪いが中に入らせてもらう」
そう言ってスケロクはポケットから鍵を取り出した。
彼が言うには晴丘市が異常事態になっていることはその医者も知っていて、「もしも」の時のために念のため合鍵を借り受けていたのだという。
二人に支えられて何とかスケロクは診察室のベッドの上に仰向けに横になった。
「それにしても無茶苦茶しやがるわね」
「はうっ!?」
メイが興味本位でアナルパールにちょん、と触れるとスケロクは予想以上に大きなうめき声を上げた。
「し、素人が触るな! 先生が来るまで待て!!」
「なによ! ここまで運んできた礼も言わずに!! あんたのせいでどんだけの人に迷惑が掛かってるとおもってんのよ!!」
「デカい声を出すな……前立腺に響く」
前立腺に響く……なかなか日常生活では聞くことのない言葉ではある。二人がそんなとりとめもないやり取りを続けていると、アスカが何かに気付いたようで二人に声をかけた。
「誰か来たみたいですよ……ここに入室してることは伝えてあるんですよね?」
「ああ……来てくれたか、堀田先生が」
「えっ!?」
その時診察室のドアがガチャリと開けられた。そして姿を現した男性医師。その姿は紛れもなくメイの想い人、堀田コウジであった。
「あっ……」
「あっ……」
二人の視線が交錯し、思わず言葉を失って硬直してしまう。
そしてやがて、堀田コウジの視線は少しずれ、ケツ丸出しのスケロクに注がれる。
「ああっ!?」
またもや硬直。
スケロクからの緊急連絡。
「またなんかやらかしやがったな」と思いつつもメイとの仲を繋いでもらった手前無碍にもできず家を出て職場に来てみれば、ペン立てになったスケロクの尻と、そして魔法熟女の服装の葛葉メイ。
此は如何なることぞ。何故斯様な仕儀と相成ったのか。
「それは……その……」
思わず口ごもるメイとアスカ。
「何があったのか」と言われると非常に説明しづらい。
話の流れからすればコウジもDT騎士団の一件の関係者ではあるので説明することもやぶさかではないのだが、一つ一つの流れは理解していても、全体として「なぜそうなったのか」が非常に説明しづらいのだ。
ユリアを取り戻すためにサザンクロスに行った所まではまだいい。そこでスケロクが網場に破れ、ケツの穴にアナルパールを突き立てられた。
事実を並べることは出来る。
出来るのだが、この「網場に敗れ」のとこから「アナルパールを突っ込まれた」のところが上手く繋がらないのだ。なぜそうなったのかが当事者であるはずのメイ達にも上手く説明することが出来ない。もちろん作者にもできない。
「それはともかく……」
二人が言葉に詰まっているとコウジが口を開いた。
「メイさんのその格好……何かの罰ゲームですか?」
やはりこの格好は他人から見ると罰ゲームに見えるらしい。というかこんなやり取りを以前にもしたことがある、とコウジは記憶の糸を手繰り寄せる。
そうだ。そうなのだ。たしかにこの衣装に彼は見覚えがあった。
「やっぱり、そうなんだ……あの時、鏡の中の世界に引き込まれたのは……夢なんかじゃなかった!」
もはやごまかしようのない事である。メイもバツの悪そうな表情をする。もう隠すことは出来ない。
「今まで黙っていてごめんなさい……確かに私は、魔法少女よ……この町を守る、魔法少女なの」
「少女……?」
そこは触れないであげてくれ。
「じゃあ……スケロクさんのこの惨状も、罰ゲームではなく……?」
罰ゲームだとしたら悪ノリが過ぎる。
「そこはうまく説明が出来ないんだけど。色々あってそういう事になってしまって、コウジさんを頼ってきたの」
「まったく……」
呆れなのか、怒りなのか。なんとも言えない表情でコウジは手術着を着て消毒を始める。患者のプライベートにまでは彼は干渉しない主義だ。
「何度も何度も肛門に訳の分かんないもの入れて担ぎ込まれてきやがって! あんたの肛門は生け花の花器じゃないんですよ!! 経肛門にて、異物を摘出します!」
その気迫に誰もが気圧される。
「無麻酔で!!」
「何度も? そんなしょっちゅう来てんの? スケロクは……」
おぞましい物を見るような目で(実際おぞましい物を見ている)メイはスケロクの方を見る。
「メイ……男にはな、他人には語れない、冒険心があるんだ」
「うるせえ!! そんなことにチャレンジすんな!!」
「んほおおおおあぁぁああぁぁああ!! 先生! もっとやさしく!!」
この期に及んで言葉で誤魔化そうとするスケロクに切れたのか、コウジは無理やりアナルパールを引っ張り出そうとするが、しかし全く抜けない。
「ま、待って下さい! 先生!!」
鬼気迫る表情のコウジをアスカが止めた。
「スケロクさんは、ローションもなしでこれを突っ込まれたんです。無理やり抜こうとしたら裂けてしまいます」
「もう裂けてると思うけど」
しかしコウジはアスカの言葉に踏みとどまり、考える。
(アスカちゃん、何でそんなこと詳しいんだ? まさか、これを突っ込まれる場面に立ち会ってたのか? そうじゃなきゃローション無しで突っ込まれたことなんて分からないはず)
次に彼はメイの方に視線をやった。メイは眉間に皺を寄せて口に手を当て、ドン引きしているようだった。
(メイさん、まさかあなた、自分の生徒同伴で……スケロクさんとそんな変態プレイを……?)
追い詰められたコウジの妄想は、留まるところを知らず悪い方向へと暴走していく。
(もしかして今まで搬送されてきたのも……一人で遊んでたんじゃなく、メイさんとのプレイだったのか……? 二人の関係は、まさか)
コウジは頭をぶんぶんと振って雑念を払う。今はそんな事よりも目の前の哀れな豚をどうにかすることが先ケツなのだ。患者が第一である。しかしだからと言ってこんなゴミ屑に貴重な麻酔も使いたくない。
「コウジさん、麻酔を使った方がいいんじゃ……」
「メイ」
恐る恐る意見するメイをスケロクが諫めた。医療行為に素人が口を出す事に抵抗があるのか。
「先生を信じるんだ。俺のケツから異物を抜くために生まれてきたような人なんだから」
「人の人生を勝手に定義しないでもらえます?」