スタジオズブリ
「メイ……てめえ、何してやがんだ」
スケロクが睨みつける。一方のメイはというと。
「てへっ、めんごめんご。今まで二十年間ずっと一人で戦ってきたからこういうのに慣れてなくて」
即ち、自分とジャキの戦いが一区切りついてスケロク対網場の戦いに移った時点で自分の仕事は終わったとばかりに何もせずに二人の戦いをのんきに見学していたというのだ。何もせずに。その間もジャキは何とかして網場の戦いをサポートしようとして隙を伺っていたというのに。
一対一の戦いが2セットではなく二対二の戦いであれば、一人が何もしていなければ自然と二対一の戦いにシフトして各個撃破される。そんな簡単なことの分からない彼女ではないが、しかしなれない『仲間』の存在にそこがすっかり抜けていた。
そして、ここまでジャキは「糸を操る魔法」を自身の筋力アップとダミーアームにしか使ってこなかったが、『糸』であればこういったトラップ系は本来なら最も警戒しなければいけない戦い方である。この点はスケロクも抜けていた。
「メイ先生! 早くスケロクさんを助けに行かないと!!」
「待って!!」
アスカが声をかけて、すぐにスケロクの元に駆け寄ろうとするが、それをメイが手で制止した。
「ふっ、賢明な判断ですね」
ジャキがほくそ笑む。
アスカが立ち止まってよくよく目を凝らしてみると、ホールの中に数本の輝く糸が見えた。いや、数本ではない。既に部屋中に糸が張り巡らされていたのだ。
「スパイダーウェブ」
「どうやら、誰かが暢気に見学してる間に既に罠は完成していたみたいね」
お前だ。
しかし、如何ともしがたい状況。
スケロクは糸に絡め捕られ、スパイダーウェブを張られメイとアスカは身動きが取れない状況、さらに助け出したいユリアは糸の向こうなのだ。
しかしこの状況で唯一敵を攻撃できる人物がいる。アスカだ。
すぐにそれに気づいた彼女は両手を前に出して魔力を練り始めたが、しかしそれをスケロクが止めた。
「よせ、アスカ……」
この期に及んでもなおスケロクは彼女にどんな副作用があるかも分からない魔法を使わせることに躊躇しているのだ。
「で、でも……この状況じゃ」
「よすんだ……ユリアを助けに来たのに、そのために別の子を犠牲にしたんじゃ本末転倒だ」
「ははははっ、その通りだ。俺は何も貴様らの命まで取ろうとは思わん。ユリアが俺のモノになればそれでいいのだ!!」
高笑いをしてまるで自分がボスかのような発言をする網場。これには一瞬夜王もイラッとした表情を見せたが、しかしとりあえず喋らせてみようということか、そのまま黙し続けた。
「どうだユリア? お前から望んで俺達に協力し、この男を忘れるというのならこいつらを見逃してやらんこともないぞ」
「だっ、誰があなた達なんかに……スケロク様だけが私のご主人様です」
白石浩二にもご主人様と言っていたような気がするがそこはまあいい。この言葉は予想通りだったのか、網場はにやつきを絶やさずに、動けなくなったスケロクに近づいて彼の身体をひっくり返した。
「ならお望み通り殺してやろう。そらっ!!」
「ぐむっ!!」
そしてそのまま高く突き上げられたスケロクのケツの間から金的を蹴り上げたのだ。声にならない悲鳴を上げてスケロクが悶絶し、その場にいた男性陣が恐怖に震えた表情を見せる。
「なんてことを!! 子種が作れなくなってしまいます! もうやめて!!」
網場はスケロクのケツを足蹴にし、ユリアの方に振り返る。
「ユリア……俺を愛していると言ってみろ」
「ん!?」
「ちょっ、網場さん!?」
完全に趣旨が変わってきている。夜王とジャキが非難の意を示すが、しかし完全に『イイ気持ち』になっている網場は止まらない。もしや、彼もダッチワイフに魅了されてしまったのだろうか。
「誰がそんなことを……スケロクさんを殺せば、私も死にます」
「ほう、それほど言いたくないのか」
強い瞳で反逆の意思を示すユリアに網場は笑みを見せ、スケロクの腰辺りに手をかけた。
「ちょっ!?」
ずるりと、パンツごとズボンが下ろされる。ケツを突き出した姿勢のまま突っ伏しているので全てが丸見えである。
アスカは気まずそうに目を逸らし、メイは手で口を押さえて必死で笑いをこらえている。夜王とジャキ、アキラは眉間に皺を寄せて死ぬほど嫌そうな表情をしている。ユリアだけが真剣な表情である。
「これが何かわかるか?」
そう言って網場が取り出したのは長さ十五センチほどのピンク色の棒数本。よく見れば小さな球を連ねたボコボコとした形状をしている。
「ふひゅっ」
アスカは何なのか分からず疑問符を浮かべているが、その隣でメイが思わず息を吐き出して屈みこんだ。どうやら先ほどよりもさらに大きな笑いの波に堪えているようである。
「それは……アナルパール!!」
「ッ、ッ……ッ……ククッ……」
即答するユリア。
笑い声が漏れ出すメイ。どうやらスケロクの姿勢とこのアイテムから、この後何が行われるのかをなんとなく察してきたようである。
そして予想通り網場はそのうちの一本をずぶりとスケロクのアナルに突っ込んだのだ。
「俺は経絡秘肛の研究をしていてな。スケロク、お前には新たな秘肛を見つけるための木人形になってもらおうか」
「そんな……ひどい! せめて、せめてローションかワセリンを使って!!」
しかしユリアの悲痛な叫びも通らない。網場はさらにアナルパールを追加で突っ込む。
「何本目に死ぬかな?」
「ぐあっ!!」
スケロクの野太い悲鳴が響く。いくら前立腺上級者のスケロクといえどもローションもなしで複数の得物を突っ込むなど正気の沙汰ではない。
「俺を止められるのはお前だけだ。お前のたった一つの言葉でいいんだ」
ちらりとユリアの方に視線をやる網場。
「強制はせん。自分の意思で言うんだ」
そう言いながらも網場は手を止めることはなく、スケロクの嬌声が響きわたる。地獄絵図である。
「網場、殺すなら早く殺せ……」
アナルパールで人は死なないと思うが。
「よかろう、殺してやる! お前の存在自体が気に食わんのだ!!」
網場は残りの四本のパールを全て一度にスケロクのアスタリスクに捻じ込んだ。
「んほおおぉぉぉぉおぉぉお!!」