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パワポ

 ボッ、と指先にオレンジ色の光が灯り、そして消える。


「揃いも揃ってろくな考えも出せないの? あんた達の首から上は飾りなのかしら」


 ランウェイを彩るモデルのように左右に体を揺らしながらマリエは悠々と男どもの間を歩き、そして一番奥に座っていたユキの顎の下に人差し指を添え、顔を上向きにさせて自分と目を合わせる。


「ああいやだいやだ。オス臭い脳筋の匂いしかしないわね」


 刹那、彼女の手を払おうとするユキの動きを読んでいたかのように躱して夜王の方に向き直る。その、自分の存在を歯牙にもかけていないような態度に腹が立ったのか、ユキは彼女の背中を睨みつけている。


「何者だ」


「魔法少女だよ。例の三人組の一人」


 ユキの言葉を受けて、夜王はゆっくりと目の前の少女に視線を戻す。


 訝しむ表情。魔法少女と言えばスケロク達とは仲間同士のはずである。不登校児童として偶然施設を頼ってきたユキとは事情が違う。


 しかも挑発的な態度をとってはいるものの、彼女はどうもこちらに協力する意思があるようなのだ。


「まあ、余計な登場人物が増えてきたからね。私もキャラクターの整理がしたくなったのよ」


 言っていること自体は意味不明である。


「だから。スケロクさんのアキレス腱になりうる『弱点』を教えてやるつってんのよ。細かい事気にして前に踏み出せないから童貞なのよあんた達は」


 夜王とジャキのこめかみに血管が浮かび上がる。


「どう使うかはあんた達次第だけどね」


 そう言ってマリエは入ってきた入り口から出ようとしたのだが、しかしさらに新たな人影が現れて彼女の行く手を阻んだ。


「いけないな」


 マリエの口の上から右手で鷲掴みにして押さえ、逃げられないように左手で右手首を締め上げる。


「!?」


「こんな時間に夜の町に遊びに来るなんて。教師として捨て置けない」


 姿を現したのは山田アキラ。


 ユキとマリエにとっては教師でもあり、そしてマリエにとっては一度は直接対峙した強敵でもある。


 全く歯が立たなかった。その時の記憶が蘇ったのか、先ほどまで生意気な口を叩いていた彼女が身動きを取る事すらできずにいる。恐怖が彼女の心を支配しているのだ。


「ひ……」


 アキラが手を放すとマリエは二歩、三歩と後ずさりして、置いてあるソファにへたり込んだ。


「メイ達を裏切るのか? 一体どういう心変わりがあってそんなことを?」


 マリエは暫く自らを落ち着けようとゆっくりと呼吸をしていたが、やがて落ち着いたのか、ようやく反論を始める。その恐怖は如何ほどの物だったのか。少し瞳が潤んでいるように感じられる。


「あ、あの女が気に入らないのよ。分かるでしょう。そもそも教師って奴が嫌いなのよ私は。あんたも含めてね!」


「ふん、たしかにあまり子供に好かれる性格はしてないな。いいだろう。そういう事なら君も不登校児童支援の保護を受ければいい。ここへの出入りもしやすくなる」


「ちょっと待ってよ!!」


 二人の会話に割り込んだのはユキであった。


「ボク山田先生がいるなんて聞いてないんだけど!!」


 夜王に食って掛かるが、当の夜王は「何をいまさら」といった風である。彼からしてみれば山田アキラはサザンクロスの幹部と対等の立場、外部アドバイザーとしての協力者なのだ。それをいちいち利用者であるユキには言ってはいなかったが。


「そもそもボクが不登校になった理由が山田先生なんだけど!? 何このマッチポンプ!!」


「ん~、何のことかな? ふふふ……」


「まあいいや」


 しかし一度怒ったように見えて立ち上がったユキはあっさりと引き下がってソファに座りなおした。元々彼は副担任の山田アキラによって母親のホスト狂いがバラされたことと異様な依怙贔屓によってクラスメイトから気味悪がられ、距離を置かれたことで学校で孤立していったのだ。


「どっちにしろ学校で勉強する意義があんま感じられなかったからね。こうやって社会に出て、自分の目で物を見て、人脈を広げる方がよっぽど有意義だよ」


「あら、そこは私と意見が合いそうね」


 ようやく元気を取り戻したマリエも彼に同意を示した。


「おいおい、学校の先生の前でそういうことを言うか? まあ俺もあんなもんに意味はないと思うがな」


「努力が報われず、ただ沈んでいくだけのこんな終わった国で勉強したって何の役にも立たないわよ。そんな無駄なことしてるくらいならさっきの夜王さんの話の方がよっぽど魅力的ね」


 先ほど山田アキラに恐怖心を示していたマリエであるが、今は随分と親しそうに話しかける。


「そもそもそのスケロクの『弱点』ってのは何なんだ? こんだけ自信満々な物言いをしておきながらショボいネタだったら承知しないぞ」


 改めて威圧するようなことを言うアキラであるが、今度はマリエは怯んだりはしない。むしろにやりと口の端を上げて自信ありげな表情を見せた。


「ふふふ、前回の鏡の中の世界の戦いは私も知ってるわ。魔法少女に対して有効なのは物理的な接触よりも社会的(ソーシャル)死刑(エクスキューション)だという事もね。さらにこれは上手く使えばあなた達の戦力にもなる。一石が二鳥にも三鳥にもなる最強のコマよ。詳しくはパワーポイントにまとめてあるからご覧あれ」


 そう言ってマリエは持っていたリュックの中からノートパソコンを取り出して立ち上げた。


「むっ……これは」


 山田アキラ、夜王、ジャキの三人、それにその後ろからぴょんぴょんとユキがジャンプして覗いている。


「むぅ……パワーポイント一枚にまとめるとは……!!

 絵と写真を中心に分かりやすくまとめ、文字数を少なくし、パッと見た時に直感的に情報が入りやすくしておる」


「それだけじゃありません、夜王様。概要は一枚にまとめつつも、詳しく説明を求められた時のために後のページに詳細なデータまで……完璧だ」


「……にわかには、信じられん話だが……これが本当なら俺達は相当に有利になる」


 三人が唸る。マリエの持ってきた情報とは。


「ダッチワイフが……歩き、喋るだと?」


 なんと、ユリアの情報であった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] スケロクにユリアをぶつけるのか……淫らな未来しか見えないです(;´д`)
[良い点] コウジさん、ついに魔法使いに…! 当初、魔法使いとしてではなく 医師免許所持者として求められていたとは… たしかに医師が身内にいればやりやすい コウジ先生、なかなか良い人材だ それにし…
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