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#09 女の子になったからといって特に変わらない日常と心、変化した身体。

おまたせしました。


「みんな〜そろそろごはんよ〜」


 家に帰ってからほどなく、ごはんの時間になった。

 買った洋服の荷解きもそこそこに、お姉ちゃんに買ってもらった猫のぬいぐるみをもふもふし続けていた僕は、階下から聞こえるお母さんの僕たちを呼ぶ声に応える。


「は〜い」

「あいよぉ〜」

「今行くー」


 僕が返事をするのとほぼ同時にお姉ちゃんと冬華も返事をしてぱたぱたと廊下を歩いていく音が聞こえた。

 僕もいかなきゃ。そう思って立ち上がり、ドアに手をかけようとしたところであることに気がつく。


(そういえば猫ちゃん持ったままだった……さすがに食卓にまで持ってくのは良くないよね……汚しちゃってもやだし……えっと……どこかに置ける場所は……ここでいっか。待っててね〜)


 そう心の中で呟きながら僕は猫のぬいぐるみをドア横のタンスの上に座らせると、またねと手を振ってから部屋を出た。





 とてとてと、階段を下りる。


 ちなみに僕たちの自分の部屋は2階だ。リビングやキッチン、それにお風呂は1階にある。

 豪邸ってほどでもないけど、僕たちきょうだい(今は姉妹だけど……)にそれぞれ個室が与えられるほどの大きさなので、そこそこ大きめの家だ。


 前に聞いたところによるとお母さんがあぁしたいなぁ……こうしたいなぁ……とアレヤコレヤ言っていたのをぜんぶ叶えるために、お父さんがちょっと無理をして買ったらしい。そのおかげでお父さんは毎日仕事に忙しそうだ。


「お母さんに惚れた弱みだね。春佳さんの為になら何でもしてあげたくなっちゃうから」


……なんて語りながら幸せそうに笑みを漏らすお父さんに、(当時は)同性の僕でさえ思わず「かっこいい……!」なんて感想を抱いてしまったのは仕方の無いことだろう。うん。

 あ、ちなみに春佳さんっていうのはお母さんの本名だ。これは本編初公開だったと思う。……本編ってなんだろう……?


 あとこれも余談なんだけど、我が家の下の名前が春夏秋冬なのはお母さんが発祥である。

 なんでもお姉ちゃんを丁度秋に産んで、秋奈と名付けたことでお母さんが「これ春夏秋冬いけるのでは」なんて考えついたからだとか何とか。

 むかしお母さんに聞いたらそれとなーくはぐらかされたけど、僕が夏産まれで冬華は冬産まれな以上たぶん絶対狙ってやったんだろう。

 話がだいぶ脱線した気がする。もどもど。


 ……そんなわけで、わりかし広い家の中を移動して、リビングに通じる扉を開けると、何やらかぐわしく鼻をつくピリッとしたスパイシーな香りを感じた。


これは……もしかして……!


「あ、なつ姉ようやく来たぁ〜」


「ナツキ遅いぞ〜私は待ちくたびれた」


「秋奈だって今来たばっかりでしょうに……ナツキも運ぶの手伝ってくれる?」


 そう言ってお母さんが運んできたお皿に乗った、ほかほかの白米と……


「ふっふっふっ……今日の夕ご飯はカレーよ」


「やったぁ! 」


 何を隠そう。僕はお母さんの作るカレーだいすきなのだ。

 本人は「時間ないし手抜きだよ〜カレーなんてだいたい誰が作っても美味しくなるし」なんて言ってるけど、僕はお母さんの作るカレーが1番美味しいと思っているのだ。


 マザコン?なんとでも言え。かわいくて美人で優しくてノリのいいお母さんとお母さんの作るカレーへの侮辱を僕は許さない。



 このあとめちゃくちゃ準備のお手伝いした。



「あ、ナツキ量はどうする?」


「めちゃくちゃ不服だけど、お昼の反省をふまえていつもの7割くらいで、、、」


「ふふふ、了解」


自分の分をよそって貰って席に運んだところで、どたどたという重い足音。見なくても誰かわかるお父さんである。


「遅くなった。おおっ今日はカレーか。春さんの作るカレーは絶品だからなあ」


 そう言っていそいそと準備するお父さん。いや、同士よ。


 用意を終え全員が席に座ったことを確認したら、みんなで手を合わせて、、、


「「「「「いただきますっ!」」」」」



 カレーは今日もめちゃくちゃおいしかった。







「ご馳走様でした〜」


「美味しかったあ」


「満足満腹」


「ふふふ、ありがとうね」


 ご飯を食べ終わった僕は食器をシンクに持って行く。


「ナツキこれよろしくぅ〜」

「あっ、そこに置いといて」


 大体おなじタイミングで食べ終わったお姉ちゃんや冬華の食器も回収すると、スポンジに洗剤をつけて泡立て、食器の汚れを落としていく。


 我が家では家族で家事を分担していて、食器洗いは僕の担当だ。お母さんは料理、お父さんは掃除、お姉ちゃんは洗濯、冬華はお風呂掃除を毎日やる。

 あ、もちろんその人がいない時は別の人がやることになるんだけど、そこらへんは阿吽の呼吸で手の空いてる人がやるって感じかな。


 そんなことを頭の中で考えながら気がつけば食器の大半を洗い終わっていたので、残るカレーを作った鍋にとりかかる。


 カレーの鍋ってこびり付くからちょっと面倒くさいんだよね。ちなみにそういうときは鍋の中に水を入れてこびり付いたのを浮かせるとラクだったりするんだけど、お母さんもそれをわかっててあらかじめ食べる前にシンクの方に移動させて水を入れておいてくれたみたい。


 1回汚れを浮かせた水を捨てて、もう1回水を入れながらスポンジで擦って、最後にもう1回すすいで、はい終了。


 僕は鍋をシンクから下ろしコンロ下の収納へ仕舞おうと鍋を持ち上げようとする。



「……!?……お、重い……!?」



 大きい鍋とはいえいつもなら簡単に持ち上がるはずの鍋がやけに重い。


 なんでっ……って……!?あ。

 そういえば僕って今女の子だったんだっけ。


 性別が変わった時に筋力も落ちてるとすれば、鍋がいつもより重く感じるのも納得だよね……。

 

 さいわい鍋は持ち上がらないほどじゃなかったから、「えいやっと」なんてちょっと年寄りみたいな掛け声を出しながら収納へ仕舞ったのだった。






 食事のあとは団欒タイムだ。リビングでぼーっとテレビを見たり、みんなと話したり。

 特に話すこともなければ自分の部屋に行ってしまうときもあるけど、基本的にみんなリビングで過ごすことが多い。

 まぁそれには理由があって、それが―――


「お風呂上がったよぉ〜一番風呂いただっき〜次誰入る〜?」


―――これだ。

 うちのお風呂は1階にあるので、お風呂があいたら湯冷めしないようスグに次の人が入るのが我が家の暗黙の了解。お風呂掃除は冬華の仕事で自分で沸かしたお風呂にご飯を食べ終わると直ぐに入っている。彼女曰く、「特権」とのこと。だから僕たちはだいたい二番風呂以降になる。……まぁ、お湯が極端に減ってたりしなければ気にしないけど、ね?


「私今テレビいいとこだから後で〜」


 お姉ちゃんがソファーでぐでーっと半分溶けながらテレビを見ている。なんとなくだらしない感じだから、家族じゃなかったらちょっとこの姉はお出しできない。ちゃんとすればかっこかわいい美人なんだしさ……。


「ナツキ入ってきたらぁ?ほら、買ってきたパジャマ着てみなよぉ〜」


 そのままバターみたいに液体になるんじゃないかなってくらい溶けたお姉ちゃんが溶けた声を発す。ふにゃふにゃしてて可愛い。……じゃなくて。


 確かに今日買ってきたふわさらのかわいらしいパジャマを丁度着てみたいと思っていたのだ。ふふふ……昨日までの僕なら恥ずかしくて着ることもなかっただろうけど、今の僕はカワイイから可愛い服を着ても問題なかろうなのだ。


「わかった。じゃあ先入るね」

「あいよぉ〜」


 お姉ちゃんの気の抜けた返事を聞きながらリビングを出てお風呂に向かうべく廊下に出る。

 ドアを閉める直前、お姉ちゃんが何か言いかけたような気がしたけど、やめたようなので気にしないことにした。



「あっ、ナツk……まぁあとででいっか。おwこの芸人おもしろw」






\カポーン/



 お風呂。お風呂である。自宅だから本当はカポーンとかそんなに鳴らないけど、とりあえずお風呂場である。



 そして僕は今、大変な事実に、直面していた。



……




 そうだよ僕今女の子じゃん!?!?!?!?




……


 ……いや、そりゃそうだ。そうなんだけれど。

 今日1日ずっと過してきて、なんか慣れちゃたってたのか、特に違和感もなく来ちゃったんだよねっ!


 せめて脱衣場で気づけよって……?ブラとかあったろって……?残念今日はまだお姉ちゃんに借りてたブラトップだ。

 女の子の服だって吹っ切れたし、そもそも「おっふろーおっふろーバッ○るのおっふろーおっさきー」なんて鼻歌を歌って注意力散漫だったのかもしれない。


 だから。だからと言ってだ。


 お風呂場の扉を開ける。するとそこに正面に全身が映る大きな1枚鏡。そこに写る、裸の美少女。


 おっ○いから大切な所まで、ぜんぶまる見えの、めちゃくちゃ美少女。


 が、キョトンとして。次第にあわあわしだして。いやまぁ、僕なんだけど。

 それで今に至る。


 いや、これが今の僕なんだから、罪悪感を感じる必要はない。ちょっとびっくりしちゃっただけで、本来気にすることじゃないんだから、そう自分に繰り返し言い聞かせる。


 そうだ。僕の身体なんだから。僕が見たってなにも不思議じゃないもんね。


 まだドキドキしながらも、意を決して目を開ける。そこに写っていたのは、やっぱり全裸の美少女で。

 でもなんだろう。背徳感と罪悪感的なドキドキはあるにせよ、そこまで危惧していた変な気持ちは湧いてこない。具体的に言うと、その、ムラムラ……!というか、なんかえっちなやつ。

 自分の身体だからなのか。はたまた女の子の身体になったからアタマも女の子になっているのか。説明が難しいんだけど、とにかく不思議な感じで。

 華奢で、しかしメリハリのある、胸はちょっとちっちゃいけど(伸び代、あるよね……?)、超絶美少女の裸を前にして、寧ろ羨望まで感じる。いや、僕の身体なんだけど。……そっか、この美少女は僕なんだもんね?僕ってばめちゃくちゃかわいいじゃん。


 ちょっと脱線しかけた思考を無理やり元に戻す。

 それにしても、僕ってばほんとに女の子になれちゃったんだなあ……。なんて、今更しみじみと感じる。いや朝も確認したろって、それはそうだけど。

 よ、よし。まずは……


 そうな心の中で呟いて、僕は目線を下に向ける。

 身体の中心より上、胸のところで、ちいさいながらも明らかに存在を放つ二つの双丘。


 ……せ、折角女の子になったんだし?自分の身体なんだから?ほら、自分の身体のことをちゃんと知っておくのって大切じゃん!?こ、これはあくまで観察なんだから!!


 そう心の中で言い訳しつつも、手はそこに伸びていき、触れる。両手のひらで包み込むようにして両丘を何度か揉んでみる。


「ん、んん〜……?」


 なんだろう。特に気持ちよくもなんともない。虚無、が近いかもしれない。お姉ちゃんが「所詮胸なんて脂肪の塊なんだよぉっ!」って言ってた理由がわかった。うんだってこれただの脂肪だし。


となると……残るは……


 僕は胸から手を離すと、床におしりをついて座り、自分の両脚をグイッと外に広げて、そこを見る。

 つるつる。そして、あったはずのものがなくなっていて、なかったはずのものがある。やっぱりどこからどう見ても女の子だ。

 こ、これは観察!これは観察なんだから……!!(2回目)


 そうして僕がそこに手を伸ばしかけたそのとき。


「ナツキ〜!更衣室入るよ〜!!いやぁやっと見たかったコーナー終わったよ〜」


「んにゃ!?……ぐえっ!?いったあ……」

 

 突然のお姉ちゃんの来訪にびっくりした僕は姿勢を崩して頭を壁にぶつけてしまう。


「なんか大丈夫そ?」


「う、うん……平気だよ……お姉ちゃんゆーは何しに脱衣所へ……?」


「あーほら、バスタオル洗濯乾燥して畳んだまま持ってくるの忘れてたからさ、このままじゃ拭くものなくて困るだろう、って思ってさ」


「そ、そっかあ。ありがとね」


「あいよぉ〜……あそうだ、ナツキ、今髪長いんだからしっかり丁寧に洗ってトリートメントしてちゃーんと乾かさないとだめだよ?髪痛むし、生乾きとか嫌でしょ」


うっ……確かにそれは嫌だ…………


「それならしっかりやること。私もお風呂入りたいからあと30分くらいで頼むよ〜ではでは」


「はーい」


(髪と身体洗って、乾かすのに30分も掛からないでしょ)


 そんなことを考えながらも、お姉ちゃんがわざわざ忠告してきたのだし、従ってあげるとしよう。

 ……真面目に洗うか。



キュイ…………シャワアアアアアアアアアアアアア…………







「遅い」

「滅相も御座いません」


 ただ髪と身体を洗って乾かすだけ。それなのに、女の子のこの身体だとこうも時間がかかるとは思ってなかった。うぅ……まさか、あれから45分もかかるなんて。

 特に髪が全然乾かないのなんの。タオルドライしてもそのあとにしつこいくらい風をあててようやくなんとか乾いてくれる。

 ……女の子って、めんどくさい。


「まぁいいや、そのうち慣れるでしょ。そう落ち込むなって!ほら、そのパジャマ似合ってるよ?ナツキかわいい。よっ、美少女」


「ふぇ、え、あ、そぉ?そ、そうだよね!僕かわいいから!……ありがとう」


 我ながらチョロイとおもう。


「ふっふっふ……このデザイン、ナツキにピッタリだとチョイスした私の眼は間違っていなかったようだ……ピキーン」


「自分の口で効果音出すなし」


 それから少しの間、リビングには暖かな笑い声が響いたのだった。






 みんなにおやすみを告げて自分の部屋へと上がる。


 布団に潜り込み、今日の出来事を思い出して、今日はすごく濃い1日だったなぁ……と、改めて思い返す。


 女の子になった僕はとびきりかわいくて、美少女で、夢が叶ってすっごく幸せだった。


 家族のみんなにも信じてもらえて、一緒に買い物に行って、……下着屋さんに連れてかれた時はびっくりしたけど、普段なら絶対着れないような洋服を試着したりするのはすっごく楽しかった。……ちょっと、いや、結構かなりの失敗もしちゃったけど……

ほんと、この世界って、「やさしい世界」だと、しみじみ思う。


 女の子の僕は今日うまれたといっても過言ではないだろう。これからどんなことをするのか、どんなことができるのか、楽しみだ。


「だいぶ眠くなってきちゃった……」


 そうポツリと呟いて、ふわぁっと欠伸をする。


……なんだかちょっと物寂しい気がして、なにかないかと視線を流していると、ふと目に付いたのはお姉ちゃんから貰ったぬいぐるみ。起き上がると抱きかかえながら布団に戻る。


 もふもふ……もふもふ……えへへ。


 ぬいぐるみってもふもふでほんといいよね……男とか女とか関係なくぬいぐるみは良いものだ(断言)。


 ……でも男の子でぬいぐるみが好きって人はあんまり多くないと思うし、ましてや高校生がそれをやってるのもあんまりよく思わない人も中にはいるだろう。だから、昔はよく遊んでいたのを、最近はちょっと控えていたのだった。


 そして、お姉ちゃんはそのことを知っていて、そんな僕を見てたのだろう。


 だから落ち込んで沈んでいた僕を元気づけるために僕の好きなものをあてがってくれたわけだ。


 えへへ……全くこれだからお姉ちゃんは。

 

 それに今の僕は女の子、それもとびきりの美少女なのだ。かわいい子がかわいいぬいぐるみを抱いて遊んでいてもきっと許される。


 ううん、それだけじゃない。

 ほんとうはかわいい服も大好きだ。ちいさいころはよくお姉ちゃんに着せ替え人形にされていたけど、内心満更でもなかったのだ。


 今日お姉ちゃんやお母さんや冬華に着せ替え人形にされてたときに、なんとなく昔のことを思い出したのだった。


 徐々に眠りに落ちて行くのを感じる中で、ふと


(今日は人生で1番楽しかったな。願わくば、明日からも、この日々が続きますように―――)


 僕はそんなことを考えるのだった。

1日目がおわりました。2年かかりました(激遅)

こういうノリの作品なので不穏にはなりません。

これからもこういうテイストで続きます。

もし良ければいいねb、感想、評価、お待ちしております。

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