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#08 なにがとは言わないけど男の子より女の子の方が「短い」から我慢がしづらいらしい。

お待たせしました。

〈前回までのあらすじ〉

可逆TS朝おんで女の子になった夏樹(ナツキ)。女の子の服と下着を買いにショッピングモールへ!あらかた買い物を終えたナツキに襲いかかる大ピンチとは!?

「……トイレ行きたいっ……」


 急激な尿意が、今僕を襲っていた。


 ……考えてみれば朝から一回も僕はトイレに行っていないのだから、そりゃあ溜まってもいるはずだ。


(もう少し早く気づいてよ僕……)


 そう思うけど、きっと買い物に夢中になっていた僕は、無意識のうちに意識の外に追い出しちゃっていたんじゃないかな?


ムズ……ムズ……ブルッ


(ひっ……ひぃ〜〜〜…………!!?!?)


 下手に気を抜くと出ちゃいそうで、僕は内腿に力を入れ必死に「流出」を食い止める。

 そんな明らかに不自然な僕の様子に気がついたお姉ちゃんが歩みを止めて振り返った。


「ナツキ……!?どうした、顔色悪いよ?大丈夫?休む?」


「お姉ちゃんっ、あのっ、えっとぉ…………と、トイレ……僕、トイレ行きたいっ」


「あーそれで……理解した。えっと、たしかトイレはこの辺に…………あったあった!ナツキ、あっちだよ!ほらっ」


「う、うん……!」


 お姉ちゃんに連れられて、メインストリートから逸れた路地のような通路に入る。そこにはたしかに、案内看板の通りトイレがあった。


(良かったぁ……これで間に合うよ……)


 そう考えながら、僕は無意識に青い(・・)の看板のある入口の方へと急ぎ歩みを進めて……


「ちょちょちょい!?おーいナツキぃ」


 何故か焦ってるお姉ちゃんに呼び止められた。


「なに、お姉ちゃん?僕今すごく急いでるんだけど。緊急事態なんだけど」


「いや、だって今のナツキが入るべきトイレはそっちじゃないぞ?」


 そう言ってお姉ちゃんが親指をクイッと突き出して指した通路の先には、赤い(・・)看板の入口。


「あのさあ、僕男の子だからそっちにはもう入れないんだよ……?そりゃちいさいころは入ってたけど、今はダメだって」


 お姉ちゃんは全く何を言っているんだろう。

 そんな僕の考えはお姉ちゃんの次の一言で粉々に砕け散った。


「だってナツキ、今は女の子じゃん。それもとびきりの美少女」


 ………………


 …………


 ……


「そうだった!!!?!?!?!!!?」


 そうじゃん今僕女の子なんじゃんっ!?!?

何を言ってるんだは僕の方だ。


 えっ、でも、それじゃあ……


「……僕はどっちに入れば……!!?!?」


 そうなのだ。それが最大の問題なのである。

 たしかに今の僕は女の子だ。本当に100%身体が女の子のものに変わっているか、と聞かれたら自信は無いけど、少なくとも「無い」のは確認してるし、たぶん100人いたら100人が僕のことを女の子だと思うだろう。

 

「普通に女子トイレでいいんじゃない?」


 お姉ちゃんは「何をそんなに迷ってるんだ」と言わんばかりに僕のことを見つめてくる。


「僕が良くないんだよ……変態さんになっちゃう……!!」


 本当に僕なんかが入ってもいいのか、気が引けてしまうのだ。無いとは思うけど、もし何かの拍子に僕が本当は男の子だってバレたら?身分証を出してくださいとか言われたらそこには男の子の僕の写真が載っていて性別:男と書いてある。そうなったら一貫のおわり。僕は変態犯として逮捕され投獄されて世間から非難されて人権を失うだろう。


「そんなことあるわけないじゃん……」


 お姉ちゃんが僕のことを呆れたような目で見つめてくる。お姉ちゃんは美人で背も今の僕より高いからなんだか見下されてるような感覚さえ覚える。って、なんでお姉ちゃんがそれを……!?


「全部顔に出てるんだよ……ナツキ昔から表情がころっころ変わるから見てて飽きないし感情も読みやすいんだよね。嘘とかつけなそうで可愛い」


 さ、さいですか……。

 ここで、僕はあまりにも名案を思いついた。


「そ、そうだ!多目的トイレ!!あれなら男も女も関係ないじゃん!それなら!」


「うーん、ここには無いみたいだね?」


「うっっっそぉぉ……なんでないのっっ……!?!?」


 名案かと思えた僕の天才的ひらめきは3秒で崩れ去った。

 ショッピングモールのくせになんでないんだよぉ……。なんちゃらバリアフリー法とかなんかなかったっけ……??

 ……あれ、お姉ちゃんは……?


「案内板見てきたけど、なんか向こうの1番端っこのトイレにはあるっぽいよ?そこまで行く?だいたい300メートルくらい」


「そこまで保てる気がしないよっ!!!……(ブルル)……ひ、ひゃぃっ!?」


 今の一瞬、声を出すために力を緩めてしまったせいで更に尿意が増してしまった。

 今にも「決壊」しそうで、まさにギリギリを保っている状況。事は一刻を争うだろう。


「やばい……もう限界……」プルプル


 僕は涙目で小刻みに震え、前かがみになりながら小声で言う。きっと今顔も赤いと思う。


「もう変な意地張るのやめて女子トイレ入っちゃいなよ……誰も今のナツキを見て本当は男の子だって気づく人いないから。ただのトイレ我慢して涙目になってる美少女だから」


「そ、そうかなぁ……ほ、ほんとに……?」プルプル


「ほんとほんと。てか今のナツキを男子トイレに放り込む方が迷惑だし。もしナツキになんかあっても嫌だしさ」


「う、うん……」プルプル


「……ほら、行ってきな、荷物は持っててやるから」


「ひぃぃ……わ、わかったよ……い、いてくりゅ……」


 結局僕はお姉ちゃんに荷物を預け、赤い(・・)看板のかかっている入口をくぐる。幸い今中には誰もいないようで、そのことに少し安堵しながら空いている個室へと小走りに走り寄る。


 中に飛び込み、扉を押し付けるようにバタンッと閉め、鍵をかけたところで、迂闊にも僕は一瞬安心した。


 してしまった。


(よ、良かったぁ……間に合っ……)


 スパッツを下に下ろし、スカートをたくし上げ、最後にパンツを下ろそうとした、その瞬間。刹那。


 「何か」が身体の中の管を伝って、外に出る感覚。


 男の子のときの「それ」とは違うものの、感覚的に「それ」だとわかった。


「っ……!?ぁ……っ!?ぁぁああっ……!?!?…………っ」


 僕は急いでパンツを下げつつ、「それ」の放出を止めようとする。

 しかし、何故か、止まらない。

 止めようとしても、いつもと感覚が違うが故に、どこに力を入れればいいのか、わからない。

 いや、女の子は「止められない」と聞いたことがある。一度出始めたら最後、出し切るまで止まらないというのだ。


 急いで座面を座り込み無理やりパンツを下ろすと、流出の先を布地から水面へと変える。


トポポポポポポポポポポポポポポポ……


 ようやく全てが終わったころには、どうしようもなく手遅れだった。


(や……やっちゃった……僕……高校生なのに……おっ……お漏らししちゃった……)


 泣きたい。いやきっともう既に泣いてると思う。だって視界がぼやつくのだ。

 

 一回だけ腕で目をぐっとぬぐうと、僕はおそるおそる、状況の確認をする。


(スカートはなんとかギリギリ無事だけど……パンツは……もうだめだ……太ももにも伝ってる……うぅ……気持ち悪い……)


 とりあえずトイレットペーパーを使って垂れてしまったところと、「それ」の「出口」を拭いておく。

 「無い」「ソコ」を見ちゃったからには気になりはするけど、正直今はそれどころじゃない。あとだあと。


 とにかく、パンツがどうしようもなくダメだ、変えないと。

 このまま履いていくにはあまりにも気持ち悪いぐしょぐしょ具合だし、臭いもするだろうし……。


(か、替えのぱんつは……そ、そうだっ!さっき下着屋さんで買ったのを履いちゃえばっ……!!)


 そこまで考えて、僕は僕が今荷物を何も持っていないことに気がついた。


(そうじゃんっ!!!さっき紙袋ごとお姉ちゃんに預かってもらったんじゃんっ……!!)


 折角また名案を思いついたと思ったのに、またダメなのはさすがに凹む……。


(どうしよう……さすがにノーパンはマズイよね……何かの拍子にめくれよう物なら……いやいや、そうじゃなくてもそれこそ痴女だよ……変態さんになっちゃうよ……!!)


(……お姉ちゃんを大声で呼ぶ?そんなちっちゃい子じゃないんだし……。やっぱり外で待ってるお姉ちゃんのところまで行く?いやいやそれこそダメでしょ!!!……で、でも……それしか方法が……)


 もう、そうするしかない。

 僕はそう思ってパンツを脱ぐと、スカートを出来るだけ腰の低い位置にまで下げ、外に出ようと鍵に手をかけて……


 誰かが入ってくる足音が聞こえ、咄嗟に手を引っ込める。


 こ、こわぁ……こんなとこ見られたら……は、はやく中に入ってぇ…………っ!!


「んでさあ〜マジでぇ〜」

「え〜ウケる〜〜!」

「私メイクちょっと直すわ〜」

「え〜じゃあ私も〜」


ガヤガヤガヤ……


 声から察するに、たぶんJK。それもギャル寄りの。

それがよりにもよって、出口近くのパウダールーム?を占領しはじめたのだ!


(む、無理っっ!!この中を出てくのは無理っ……!ど、どうしよう……あわゎゎ……)


 まさに万事休す。

 このまま僕はこの女子トイレに骨を埋めて、トイレのナツキさんになるのかな……はははは。


 そんなことを考えたときだった。

 僕に救世主があらわれたのだ!


「ナツキ〜?ちょっと遅くない〜?大丈夫〜?」


(お、お姉ちゃん……!✨)


 声の主はお姉ちゃん。きっとなかなか出てこない僕のことを心配して、中に様子を見に来てくれたのだろう。


 僕は意を決して扉の鍵を開けると、ほんのちょっとだけ手を出してお姉ちゃんに向けて手招きをする。


 お願いっ……気がついて……


「……ナツキ?」


 困惑しながらも扉に近寄ってきてくれるお姉ちゃんを、僕は、扉の中に一気に引き込んだ……!


「わっ、ちょっ……!?どうしたどうした!?」


「……お姉ちゃん……あの……紙袋……紙袋貸して……?……えっと………………失敗しちゃって………………」


「えっ、別にいいけど何……………………あ、あぁ〜〜…………あーね……?理解したわ。……まぁなんか、ドンマイ」


「ぐずん…………」


「はいコレ、あ、濡れちゃったもの入れるのにあとビニール袋とかいる?コンビニの袋入ってたからやるわ……えぇっと……うん、はい」


「ぐすっ……ありがと……もうちょっと待ってて……外で。」















「えっぐっ……えぐ……えっぐ……」


 あれから数分。午前中に下着屋さんで買ったちょっとだけ良い「ショーツ」を履いた僕は、泣きべそをかきながらお姉ちゃんの後ろをとぼとぼ歩いていた。


「まぁ……そんなに落ち込むなって……私もやっちゃったことあるしさ。小学校低学年の頃だけど」


 そんな励ましてるつもりだろうけどイマイチ励ましになっているのか微妙なお姉ちゃんの励ましの言葉も、右から左へ耳を素通りする。


「ぼくこうこうせいなのに……おとこのこなのにおんなのこになっておもらししちゃうとか……はははは……」


 それにお姉ちゃんには知られちゃったのだ。きっとお母さんや冬華にもバラされて、僕は笑いものにされるに違いないんだはははは……。


「わあこりゃダメだ…………おっ?」


「うわっぷ……!?」


 お姉ちゃんが急に立ち止まったりするから鼻をぶつけそうになっちゃったじゃん!?


 そう講義しようとお姉ちゃんを見上げると、当のお姉ちゃんはニヤッと笑いながら僕に語りかけた。


「ねぇねぇナツキ、このお店、ちょっと寄り道してかないっ?」











「おまたせ〜〜!!」

「待たせてごめんっ……!」


 それから更に十数分。

 僕とお姉ちゃんはお母さんと冬華が待つ駐車場にとめた車に乗り込むことができた。


 お姉ちゃんも僕も車を止めた場所を覚えきってなくて、ちょっとぐるぐるしちゃったのは内緒である。


「貴女たち遅かったわね〜。そんなにいいモノあったのかしら?」


 お母さんのその言葉に僕は背筋が凍る。

 きっとさっきのことはこれから報告されてしまうのだろう。……そう思ったんだけど。


「いやぁ〜新作が沢山出てて迷っちゃってさぁ!あれもこれもっ!って見てるうちについつい時間忘れちゃって。ね、ナツキっ」


「ふぇ?……あっ、うんうん、そう!」


 助手席に座ったお姉ちゃんが僕を見てウインクしてくる。どうやらさっきのことはみんなには内緒にしてくれるということらしい。


 お姉ちゃんっ……!!


 僕の中のお姉ちゃんの株がかつてないほどに急騰している。今なら臆面もなく「お姉ちゃん大好き♡」とも言える。



……ピコン♪


 着信を知らせる通知音に、仕舞っていたスマートフォンを取り出して内容を確認してみると、お姉ちゃんからメールだった。


『今日のことはみんなには秘密にしといてあげる。貸1ね』


『ありがと。お姉ちゃん大好き』


『はぅぁっ!?』(絶命スタンプ)











 車はショッピングモールを出て、一路我が家へと向かう。


 後ろの席に座った僕は「あるもの」を袋から引っ張り出してさわっていた。


「あれ?なつ姉それって……?」


「へ?あ、これ?えへへ、いいでしょ〜」


 ふっふーん。そう擬音が付くくらいにドヤりながらそれを抱きかかえて冬華の方に向き直ると、僕は得意げにそれを見せびらかした。


「へぇ〜かわいい〜!!!ネコちゃんのぬいぐるみだ〜〜!え、なつ姉が買ったの?こういうの好きだったっけ」


「う、うん……実はちょっと、ううん、結構好きなんだよね。

あ、あとこれはお姉ちゃんに買ってもらったんだ!」


 そう。「あるもの」とは、さっきにお姉ちゃんと「寄り道」して入ったかわいいものを沢山扱っていた雑貨屋さん。そこで偶然目に止まった、猫のぬいぐるみだった。


 ふわふわで、ふにふにで、ついついモフりたくなってしまう心地いいやわらかさに、僕は虜になっていた。


「へぇ〜!いいねいいね!……それはそうと?あき姉ぇ〜!!!なつ姉だけずるい!不公平!不平等!わたしにもプリーズ!」


「……ふっふっふっ。そう言うと思って冬華の分も買ってあるのだよ☆

ほら、冬華はうさぎさんね」


「わーいやったー!ありがとっ!あき姉大好き♡」


「ちょろいぜ」「ちょろいわね〜」


「えぇ〜〜!?」



 みんなの明るい笑い声に包まれる夕暮れの車内で、僕は猫のぬいぐるみをぎゅっと抱きかかえながら、なんとなく幸せな気持ちに包まれていたのだった。

次回、お風呂。おたのしみに。

感想コメとかあれば励みになりますのでよければ……

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