#07 鏡に映る自分が美少女だったらそれに見とれてしまうのも無理はないわけで。
お久しぶりです。投稿します
お昼ごはんを食べ終わった僕たちは、モールの中の服屋さんが集まるエリアにやってきていた。
「わぁっ……お店がいっぱい……」
思わずそう呟く。なにせこの階はフロアの端から端までが全てファッション関係のお店らしいのだ。
お姉ちゃんと冬華も「よっしゃ私も新作買うぞー!」「夏モノもうちょっと欲しいな〜」なんて張り切ってて楽しそう。
「ナツキはどこか行きたいお店とかあるん?」
「えっと……」
ウッキウキのお姉ちゃんに聞かれた僕は、返答に詰まる。
……知ってる服のお店、CUとウニクロしかないんだけど。
……だってレディース服のお店とかぜんぜん知らないし。
うん、わからん。
「わからない……」
「あー、まーそりゃそうか。迷ったら端っこから順番に見ていって、びびっ!っときたお店で買えばいいんじゃない?」
「私なつ姉に似合いそうな服のお店探してみるねっ!」
「今のナツキなら何着せても似合いそうだからねぇ!これは腕が鳴るぜ……!」
そう言って妖しげに笑い出すお姉ちゃん。
傍から見るとちょっと変な人だけど、今の僕にとっては心強い存在だ。
「ふ、ふたりともありがとう……!
……じゃ、じゃあお願いしようかな……?」
「「よっしゃ任せろ(て)!!!!!」」
そう応えるやいなや一目散に走り出すふたり。さすがに張り切りすぎ……って!?このままじゃ見失っちゃうよ!?
「わわっ!?待って待ってっ!?……っていうかモール内走っちゃダメだからっー!!!!!」
◇
それから数分後。
「僕、かわいい……」
試着室の姿見の向こうには、流行と定番を掛け合わせたファッションをして佇む美少女が立っていた。
「これが……僕……」
まるで僕が僕じゃないみたい。いやまぁ、昨日までの僕と違うんだからそう感じるのは自然なんだろうけど、そういう意味じゃなくて。
ついついいろんなポーズを取ってみたり、かと思えばじーっと立ち止まってみたり。
女の子になった僕がすごいかわいいっていうのはわかってると思ってたけど
……これはそれをもっと上方修正した方がいいかもしれない。
鏡に向けて手を伸ばすと、鏡の向こうの美少女もこちらへと手を伸ばす。
鏡越しに手が重なって、じっと見つめ合う。
僕は鏡に写る僕にみとれていた。
ドキドキして、胸が高まって、なんだろうこの気持ち……!
「ナツキ〜着替え終わった?おーめっちゃ似合ってんじゃんちょー可愛い流石私のチョイス……ってお〜い、ナーツキさーん?……ダメだ完全に自分の世界に浸ってやがる…………そうだっ、背後からぁ〜脇腹を〜〜〜……えいっ☆」
「ふにゃっ!?!?!?」
◇
それからさらに数十分後。
「ナツキ〜今度こっちの服着てみない〜?」
「えぇと、流石にそれはあざとくない……?スカートめっちゃ短いしなんかふりふりいっぱいついてるし……」
「いやナツキなら絶対似合う何着ても似合う(確信)だから着てみろ」
「お姉ちゃん目が怖いよ……?」
僕は連れ込まれた服屋さんの試着室で着せ替え人形になっていた。
……うん。知ってた。
いやね?最初は僕も頑張って選ぼうとしてたんだよ?
……でも女の子のコーディネートをよく知らない僕が最初に自分で選んでみた服はなんか微妙だったんだよね……。
(自称)ファッションマイスターのお姉ちゃんと冬華曰く、
「中途半端に可愛いを出そうとしすぎてるからコンセプトがはっきりしなくて結果ごちゃごちゃしちゃってるんじゃない?まぁ〜コレばっかりは経験とセンスだからねぇ〜」
とのこと。
……なんかちょっとディスられたような気がしないでもないけど、今の僕には経験が圧倒的に足りないのはそうだと思うから、こうしてお姉ちゃん達の着せ替え人形に甘んじてるという訳なのだ。
「フムフム。想像通りナツキの雰囲気によく合っている。さすが私。さすわた
んじゃこれは購入ね?はい脱いで、んで次はこっちなんだけど」
「なつ姉!今度はこっちも着てみて!絶対似合うと思うのっ!」
「い、いっぺんにはむりだってっ!」
あまりにも次から次へとお姉ちゃん達が服を持ってくるから休む暇もない。
僕の身体はいっこしかないんだからちょっと休ませて……せめて順番で……
そう思って僕は近くにいるお母さんにヘルプの視線を送る。
「こらこら、ナツキ困ってるじゃない〜2人とも順番ね〜
……ところでナツキにはこういうのも似合うと思うの〜」
あ、あれぇ?もしかしてお母さんもそっち側です……?
「かわいいっ!それなつ姉なら絶対似合うっ!」
「よっ、初代ファッションマイスター!」
お姉ちゃんと冬華が囃し立てる。……そ、そうなんだ……やっぱりお母さんもうちの人だったみたい(?)
「ま、まだ着るのぉ!?もうそろそろいいんじゃない?あ、ほ、ほらそろそろお金も……」
そう、今日僕が貰ってきたお金は5万円。お小遣いとかで多少は増えるとしても、それに比べれば微々たるものだ。
そして午前中の下着屋さんで結構なお金を使ってしまったので、実はそこまで残っていない。
……女の子の下着って高いんだね……。
お母さんが出してくれるにしても、そんなに手持ちは多くないはず……って!?
「お母さん!?無言でクレジットカード掲げないで!?」
お母さんがお財布からにこやかにクレジットカード(ブラック)を抜き出して、「このカードが目に入らぬかー」とばかりにこちらに突きつけている。
「ナツキ、お金のことなら心配しなくていいわ。これでも結構稼いでるんだから。かわいい息子がかわいい娘になったところで変わらないわ。それに初期投資は大切よ?ここでケチってるようじゃオシャレは楽しめないんだから」
「お、お母さん……!」
「んで、本音は?」
「かわいいナツキのかわいい姿がもっと見たいっ!」
「だよねーそうだと思ったっ!」
「2人とも?好きにやっちゃいなさい!」
「「あいあいさー!」」
「「ナツキ(なつ姉)!次はこれ着てっ!?」」
「まだやるの〜〜〜〜〜!?」
僕は若干めんどくさそうに、だけど悲壮感はない声色で、今日何度目かもわからない返事をする。
だけどふたりは僕のためにわざわざ考えて、選んで、持ってきてくれている。その想いを無下にすることなんか僕にはできやしないし、
なによりちょっと、こういうのも楽しいかな、なんて思う僕もいるのだ。
次はどんな服が着られるのかな?その服を着た僕も、きっとかわいいんだろうなっ!
そんなことを考えながら、お姉ちゃんが持ってきていた服の一式を手に取るのだった。
◇
「長かった……」
「いやぁ〜大漁大漁」
あれから更に数時間、僕は着せ替え人形にされ続けた。
パンパンに膨らんだ買い物カゴ2つ分をお会計したときには、なんだか目を疑うような金額が出ていたけど、お母さんが「いいのよ〜」ってぜんぶカードで払ってくれた。
うちのお母さん優しすぎ……?
そのお母さんと冬華は今、下の階の食品フロアで夕ご飯のお買い物中。
お姉ちゃんは僕の服を買うのに熱中しすぎて自分の服を見るのを忘れていたからと別行動を申し出たので、僕もお姉ちゃんについて行っている。
特大の紙袋を持って食品フロアに行くのがしんどかったのもそうだけど、お姉ちゃんのファッションセンスをちょっとでも勉強出来たらななんて思ってのことだ。
「お姉ちゃんかわいい……!!」
「めっちゃかっこいい……!!」
「オシャレ……!!」
……あまりにも知識が無さすぎて感想が小並感つよめだったのはキニシナイで……。
そうしてお姉ちゃんに付き合うこと数十分、お姉ちゃんも自分のお目当てのものを見つけられたようで、ホクホク顔で僕の隣を歩いている。
上機嫌なお姉ちゃんは、クール系の凛々しさに可憐なかわいさも合わさって、とても美人だ。
だからお姉ちゃんと一緒に歩いていると、よく周りからの視線を感じる。
「めっちゃ見られてるね、流石お姉ちゃん」
「まぁ私ですから(キリッ)。……でも今は、見られてるのは私だけじゃないっぽいよー?」
「ふぇ?」
「あれ、気づいてなかった?ナツキもかなり見られてるよ。っていうかナツキ無防備そうだし私より見られてるんじゃない?」
「えぇ!?」
……確かになんだか視線をよく感じる気がしたけど、気のせいじゃなかったんだ……!
「僕なんか見ても楽しくな……」
そこまで口に出して、さっきの鏡に映る僕の姿を思い出して、今自分がものすごい美少女だったことを思い出す。
「……!!」
「今頃気づいたかぁ……今のナツキはめちゃくちゃかわいい女の子なんだから。気をつけなきゃダメだぞっ?」
お姉ちゃんが茶化し気味にそう言ってくる。
うぅ……なんだか意識しちゃった途端に恥ずかしくなってきたよ……。
「……赤くなってるナツキかわいいかよ……
まぁなんにせよ、自覚出来たなら良かったのかな?おっと」
なんだか急に心細くなってきた僕は、お姉ちゃんの服を摘んで斜め後ろに隠れるようにして歩く。
お姉ちゃんがなんだか悶絶していたけど、僕はそのままお姉ちゃんについて行くのだった。
◇
お母さんと冬華とは駐車場で集合にしていたので、僕たちもそこに向かう。
このショッピングモール、かなり広いから駐車場までもそれなりに歩くのだ。
でもそれは大した問題じゃない。
それよりも大きな問題が、今僕を襲っていた。
「……トイレ行きたいっ……」
次回は言うまでもなく。