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#19 一見無垢で無防備な女の子は面倒事を引き寄せてしまうらしい。

小説家というアイデンティティが消滅しそうだったので書きました(月曜日の朝にしれっと更新していくスタイル)

大変お待たせしました。

 あれからまた数日が経った。

 最近ではTSにもだいぶ慣れてきたけど、女の子の生活は毎日が新しい発見の連続だ。


(ふんふふん〜♪)


 僕は今日、いつものショッピングモールにひとりで買い物に来ていた。最近少しずつ覚えてきた女の子のオシャレをして、この前買ってもらったカワイイ服を着ている。


 そうそう、聞いて欲しい。今朝この格好で買い物に行くって言ったら、お姉ちゃんと冬華にニマニマされたんだよね。

 僕が支度してる後ろの方で


「ねぇアキ姉っ!!ナツ姉がどんどん可愛くなっていってるよー!?」


「やっぱりナツキ才能(・・)あったのね……このままどんどん染めていくぞ冬華」


「ラジャっ!」


 っていうような会話が当の本人を置いてきぼりにして繰り広げられてたけど、お姉ちゃんと冬華は僕をこれ以上どうしたいというのか。そのあともなにかヒソヒソ話をしてたみたいだけれど、僕は聞き取れなかった。


 ちなみにお父さんとお母さんは可愛いって褒めてくれたけど、同時に心配もしてきて


「ひとりで大丈夫か?可愛すぎて襲われるかもしれんぞ」


「ナツキどこか抜けてるし無防備なとこあるから心配よねー……」


 って言われたんだけど、流石に心配しすぎだと僕は思う。

 だって流石にもう高校生なのだから。スマホも持ってるし。それに、いざとなったらTSという手段もある。男だと分かれば不審者も諦めるだろう。


「さてと、お目当ての本も買えたし、この後どうしよっかな」


 そう呟きモール内をぶらぶらと歩いていると、ふと1軒のアクセサリーショップが目に止まる。


「ああいうアクセサリー、お姉ちゃんと冬華はよく着けてるけど、こういうところで売ってるんだ……綺麗だし、かわいいなぁ」


 今までは目に止まることはなかった。自分には似合わないし、縁のない世界だと思っていたから。


 だけど、女の子になってから、世界が広がった。今までできなかった、できづらかったことができるようになって、似合うようになって。少なくとも、僕はそう感じていて。

 こういうことを実感する度に、「楽しいなぁ」なんて思ってしまう。


「ちょっとだけ、見ていくだけなら、いいよね?」  


 今日はもう本を買ってしまったからあんまりお金は使えないけど、数百円くらいの小物だったら買ってもいいかも。


そう思って、ルンルン気分でアクセサリー売り場に立ち寄り、キラキラしたピアスやネックレスを眺め―――





「ありがとうございました〜」  





(買ってしまった……っっっ!!!)


 最初は見るだけだったんだ。また今度来たときに買おうかなって。

 でもほら、店員さんが「試してみませんか?」って声をかけてきて、気づいたら試着させられて、鏡の前に立ってて、鏡に映る女の子の自分を見て、つい「僕……かわいい……」って思ってうっとりしてしまってて。


 そのまま流れるようにお試し〜からの買い物カゴに投入〜が繰り返されて、 気がついたらお会計が終わってたんだよね……。


「予定外の5000円近い出費……高校生にはつらいよ……トホホ」


 軽くなった財布を握りしめながらため息をつく。


 女の子の買い物って、こんなふうに予定外が増えるんだね……勉強になった。そんなことを考えつつも、全く悪い気はしない。あれだ、「反省はするけど後悔はしない」ってやつ。


 そんなことを考えながら、またモール内を歩き始めた、そのときだった。


「ねーねーそこのおねーちゃん、ちょっといいー?」


「はい?」


 突然声をかけられて振り向くと、目の前にいたのは大学生くらいの男の人。

 髪を明るく染めて、チャラそうな雰囲気が漂ってる。顔立ちは悪くないとは思うけど、なんだろう、「遊んでる」感をひしひしと感じてしまう。


「うわっ、キミマジで可愛いねぇ、俺と連絡先交換してよ。イソスタやってる?この後友達とカラオケ行くんだけど一緒に行かない?お代は奢るからさ〜」


 こ、これって……ナンパってやつだよね?噂には聞いてたけど、こんなリアルにあるなんて……。


「ねぇ〜いいじゃん笑今日は俺の友達もいるしさあ、一緒にいろんなコトをシて遊ぼうぜぇ〜」


 ナンパ男がニヤニヤしながら近づいてくる。笑顔がなんだか貼り付いてるみたいで、ちょっと怖い……っ!?手首を掴まれた。僕まだ何も言ってないよね!?こいつ、沈黙は肯定と受け取っちゃう人?


 振り払おう、そう思って力を込めるも、ナンパ男の力が強くて全然動かない。……いや、これは、僕の力が弱い……?

 どうしよう、どうしよう。



 あれ、こういうときって、



 どうすればいいんだっけ……?










「お待たせ夏樹、行こう」



 突然、後ろから肩に手が置かれた。


 (今度はなにっ!?)


 そう驚いて咄嗟に視線を動かし、気配のする斜め右上を見上げると、そこには見覚えのある男の人が立ってた。


 み、美月ちゃん!? どうしてここに……?


 困惑する僕に、美月ちゃん(男状態)は表情をあまり変えず、ほんの少しだけ微笑んだ。

 長い前髪がめの大部分を隠していて、いつも通りクールでミステリアスな雰囲気だ。だけど、その髪の隙間から除く目はいつも以上に鋭くて、笑っていない。場が冷え込んでいくのを感じる。


「へぇー、キミナツキちゃんって言うんだ〜。ところでそっちの男の人はどなた?」


「わた……俺?俺は……彼氏。彼氏だから」


「ちょっ!?」


「し。話、合わせて」


 急な彼氏宣言に思わず声が出た僕は、美月ちゃんは小声で静止される。有無を言わさぬといったその言葉に、僕は思わず黙って頷くしかなかった。


「え〜聞いてないよ〜笑じゃあさ、ほらここであったのも何かの縁?ってことで?笑連絡先だけでも……」


「夏樹が困ってるのがわからない?あんまりしつこいなら、人呼ぶよ?」


 美月ちゃんが目を細め、鋭い眼光でナンパ男を睨みつける。その迫力に、僕まで圧倒されてしまった。


「わ、悪かったよ」


 ナンパ男が慌てて手を引く。美月ちゃんは僕の肩に手を置いたまま、さっさと歩き始めた。


「行こう」


 後ろをちらっと振り返ると、ナンパ男は一瞬項垂れたように見えたかと思えば、すぐ別の女の子に声をかけていた。……なんて懲りないやつ……。


 ちなみにその女の子は僕と違って上手くあしらっていて、一定の距離を取りつつ最後は無視して突破していた。なるほどかしこい。



 メインの通路から少し外れた、人の少ない休憩スペース。そのすみっこにあるベンチに腰掛けて、僕たちはようやく息を整えた。


「あーびっくりしたあ!ありがとう美月ちゃん。おかげで助かったよ」  


 美月ちゃんは手でブイの字を作り、得意げな顔をする。


「買い物に来たら、偶然、絡まれてるナツキを見つけたから。困ってるみたいだったし、見て見ぬふりをするのも違うし。助けられてよかった」


 そこまで言って、美月ちゃんは急に真面目な顔になって、僕の目をじっと見つめた。


「女の子の夏樹くんは美少女なのをもっと自覚した方がいいと思う。男の子の感覚のままでいちゃだめ。もっと警戒感を持たないと、ナンパよりもタチが悪いのが来るかもしれないよ?」


「例えば……」  


 そう言いながら、美月ちゃんが身体をぐっと近づけてくる。長い腕が僕の背中側に回る。男状態の美月ちゃんは身長も体格も大きくて、圧迫感がすごい。顔が近いのに、前髪のせいで表情が読みづらい。


「み、美月ちゃん……!?」  


 困惑していると、美月ちゃんがさらに顔を近づけてきた。息がかかるくらいの距離で、僕は思わず後退りしようとしたけど、背中がベンチの壁に当たって動けない。身体を倒そうとしても、美月ちゃんの手が背中にあってそれ以上下がれない。  何が起こるのか、何故だか、息が詰まる。


「今の私が今の夏樹くんに襲いかかったら、夏樹くんは太刀打ち出来ないんじゃないかな。

 今の夏樹くんは、小さくて、華奢で、力が弱い女の子なうえに、私から見てもとびきりの美少女。

 悪い男に狙われないように、ね?」


 顔を更に近づけて、ほぼ耳の真横まで近付いてきて、長い前髪の隙間から僕をまっすぐ見つめて、耳元で囁いてくる。僕は体温が上がって、顔が火照っていくのが分かった。


「き、気をつけます……」


「愁傷な心掛け」


 美月ちゃんは満足そうに、いつも通りの乏しい表情に戻る。僕の顔が火照っていて、心臓がなんだかバクバクと五月蝿いのは、きっと、突然のことにびっくりしたからだ。そう思うことにして、それ以上考えないようにした。


「女の子は、こういうところが面倒。男に力で迫られたら振り払うことができない。男の子の身体は、そういうのは少ない。便利」  


 姿勢を整えながら、美月ちゃんはまた得意げな顔をする。確かに、さっきのナンパ男の力強さを思い出すと、女の子の身体だと抵抗しづらいって実感したところだ。


「優劣をつける訳じゃない。どちらにも、得意不得意、便利不便がある。最近はそれを特に実感できて楽しい」  


美月ちゃんが少し口元を緩める。あれからも何度かTSしてるんだろうな。楽しそうなのが伝わってくる。


「そういえば、美月ちゃんは何を買いに来たの?」


「私は、服を買いに来た。メンズの。流石に自分のレディースは変だし、第一サイズが合わないしで着れないけど、メンズの服なんてほとんど買ったことがないからどんなのがいいかとかわからなくて」


「今着てるのは?って顔してる。これは、通販。ただやっぱりサイズ感とかが微妙に合ってないから、お店で買いたいと思って」


 なるほど。男状態の美月ちゃんの服は、確かに緩い感じがする。通販だとサイズが難しいよね。 わかる。まぁ大っきい服でもオーバーサイズといえばそれはそれでいいけど、やっぱりサイズがちゃんと合った服は欲しくなるものだ。


「良かったら僕も服選びついていってもいいかな。ほら、僕これでも15年間男やってきたんで。ちょっとはわかるよ思うよ?」


「それは助かるけど……夏樹くんの買い物はいいの?」


「僕のはもう終わったから。それにさ、さっきのお礼もしたいし」


「気負わなくていいよ。でも、来てくれるのはありがたいから、お願いする。よろしく」


「うん。僕に任せて」


 そう言って、立ち上がろうとしたところで、あることに思い至った僕はふと呟いた。


「あ、そうだ」


「?」


「今の背格好で「みつきちゃん」は事情を知らない人からしたら変に思うかもしれないし、悪目立ちするのもよくないと思うから、人前でTSしてるときは、美月くんって呼んでもいいかな?」


 僕がそう言うと美月ちゃんはきょとんとしたようで動きを一瞬とめたあと、少し何かを考えて、また向き直って了承した。


「わかった。私は別に気にしないから、どっちでもいい。でも折角だから美月「くん」って呼ばれてみようかな?ふふふ……こんな体験ができるとは……これはオカルトより面白いかも」


「気に入って貰えた……?なら良かったよ」


「ん。それじゃあ、夏樹くんもその姿のときは夏樹ちゃんって呼んでもいい?」


「うん、大丈夫だよ。……ちょっとまだ慣れなくてこそばゆい感じだけど……」


「んふふ、了解。よろしく、夏樹「ちゃん」」


「うん、よろしく、美月「くん」」


 こうして、僕たちは事情を知らない人前での敬称を性別によって変えることにしたのだった。



「じゃあ、行こっか。どこか気になってるお店とかある?」


「んー、とりあえず、任せる」


「わかった」


 そう言って僕達は服屋のある方に足を向け、ショッピングモールの中をまた歩き始めた。

リアクションとかいただけると嬉しいのでよければ。

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