#18 男の子の身体で朝に起こるアレは自然現象だから仕方がない。
先週の連続投稿のおかげでアクセス数と総合評価がかなり上がっててホクホクで書きました。
このまま毎週一回くらいは投稿したい所存。
朝。目が覚めて布団の中でぼんやりしていると、枕元に置いていたスマホがピロン♪と音を立てた。
「ん……朝からなんだろ」
ぼんやりした頭で考えながら、腕だけを伸ばし手探りでスマホを探す。身体が動いたことで長い髪の毛が顔に掛かって、反対の手で払い除ける。女の子の身体で寝るとこういうことが起こるのが面倒だ。……今度ナイトキャップでも買おうかな。
ガサゴソと枕元を漁る。うーん…なかなか見つからない。ちなみに僕のスマホは電話とメールだけ通知音が鳴るように設定している。だから通知音がなったということは誰かからメールが来てると思うんだけど……。よし、スマホめっけた。
顔認証をしようとして、今の女の子の僕の顔登録するのを忘れてたことに気がつく。仕方がないからパスコードを押してロックを解除。
画面を見ると、美月ちゃんからRINEが来ていたみたいだ。
(なんだろう……?)
そう思いながらトーク画面を開いてみる。
『夏樹くんにちょっと相談というか』6:24
『助けて欲しいんだけど』6:24
『ちょっと言いづらいんだけど』6:26
『朝起きたら、男の子のアレが、元気になっちゃう』6:27
『私変なこと考えてた訳じゃないのに』6:27
『ほんと』6:27
『信じて』6:27
『男の子ってこういうことあるの』6:28
『?』6:28
『(切なそうにしている謎のキャラクタースタンプ)』6:28
………………
…………
……
……!?
あまりの内容に、思わず口をあんぐり開けて固まってしまった僕。思わず、「えぇ……?(困惑)」という声が漏れる。
寝ぼけちゃったかと思って、目を擦ってみるも、画面に映る文字列は変わらず。なんてこったパンナコッタ。
いや、よく考えてみれば、美月ちゃんの気持ちは分かるかもしれない。僕も性別が変わって初めてのとき、いろんなことが不思議で混乱したのだから。
男の子の身体で朝に「アレ」が元気になるのは病気じゃなくて、生理現象なんだ。
嫌だなぁ、やめて欲しいなぁなんて思うけど、残念ながら止めたくても勝手になっちゃうのだから仕方がない。よくあることなんだよって、ちゃんと伝えてあげよう。ネットで見た記事を思い出しながら、返信を考える。
『美月ちゃんおはよう』7:12
『えっとね、』7:12
『男の子の身体だと朝にそういうことが起きるのは自然なことで仕方ないよ』7:13
『恥ずかしいかもだけど、まぁよくあることだと思う』7:13
『ほら、ネットにも『朝勃ち(医学的には夜間陰茎勃起現象)は健康な証拠』って書いてあったし、大丈夫だよ』7:14
『(https://から続くURL)』7:15
送信ボタンを押して、僕はようやく胸を撫で下ろした。
朝からびっくりしたよ……まぁでも、美月ちゃんもびっくりしたんだろうな。
そこまで考えたところで、お母さんからごはんのお呼ばれ。「今行く〜!」と返事をして、ベッドから起き上がった。
◇
朝ごはんを食べていると、またスマホがピロンと鳴った。箸を置いて画面を見る。美月ちゃんからのRINEだ。
『ありがと』7:28
『変なこと聞いちゃってごめん』7:28
『事情を知ってて、相談できそうなのが、夏樹くんしかいなくて』7:28
『あのあと深呼吸とかしてしばらく放っておいたらなおった』7:28
『でも男の子の身体がこうなっちゃうのは変だと思う』7:29
『ぶっちゃけ不便』7:29
『(困惑したような謎のキャラクタースタンプ)』7:29
読んで、思わず苦笑いしてしまった。
確かに変だよねって気持ちは分かる。僕も男の子のときにはそう思うもん。残念なことに男の子の身体でいる以上は慣れるしかないんだ、だってそういうものなんだから。
朝ごはんを食べ終えて、返信を考えながら皿を片付ける。
「食事の最中にスマホを見るのはお行儀が悪いわよ〜」ってお母さんからやんわり叱られちゃったけど、「友達からの重要な連絡で〜」って言ったらじゃあ仕方ないと許してくれた。
『変だって思う気持ちはめっちゃわかる』7:34
『嫌だなぁと思ってても勝手になっちゃうんだから、面倒だし不便だよね』7:34
『(それなと書かれたキャラクタースタンプ)』7:35
送信して、スマホをふわっと投げ出しソファに座る。美月ちゃん、今どうしてるんだろうか。朝の現象が起きたってことは、少なくとも寝るときには男の子だったってことだ。
もしかしたら、男の子の身体でいろんな初めてを経験しているのかもしれない。美月ちゃん、好奇心旺盛だから……。
ピロン♪という着信音とともに、またRINEが届いたようだ。慌ててスマホを手に取る。
『仕方ないのはわかった。でも恥ずかしい』7:38
『昨日は男の子になって、いろいろ見てた』7:38
『男の子の身体は不思議がいっぱい』7:39
『すごくオカルト』7:39
『朝からテンション上がっちゃって困る』7:39
『(照れたような謎のキャラクタースタンプ)』7:40
ついクスッと笑ってしまった。美月ちゃんらしいな。朝からテンション上がるって、オカルト的な興奮もあるのかもしれない。
僕も女の子になったとき、顔の輪郭とか、骨格の違いとか、膨らんだ胸とか、スッキリとした股間にテンションが爆上がりしたものだ。……いや自分の身体だからね?
返信しようとスマホを手に持つ。
『わかるあれ恥ずかしいよね』7:44
『慣れの問題かなぁ……』7:46
『僕も女の子の身体に慣れるまでは大変だったし』7:47
『美月ちゃんならすぐ平気になると思うよ』7:47
『(応援するキャラクタースタンプ)』7:47
送信して、スマホをテーブルに置いた。僕と同じく、自ら望んで転換の能力を手に入れた美月ちゃん。気がつけば僕たちの間には仲間意識が芽生えていた。お互い事情がわかっているからこそ、諸事の中でも特に他の人には相談しづらいさっきみたいなことでも言える。それがすごく安心する。
少しして、またRINEが鳴った。画面を開く。
『慣れるといいな』7:50
『でも意外』7:51
『夏樹くんは男の子だったのに』7:51
『男の子でも嫌だと思うんだ』7:51
『……むしろ、嫌だと思ってたから、女の子になりたかった?』7:53
◇
美月ちゃんからのメッセージを読んで、少し考え込んでしまった。
確かに、男の子の身体で不便だなって思うことはたくさんあった。朝のアレとか、皮脂が出やすいとか、汗をかいたときのにおいとか。僕は周りの男子と比べればまだマシな方だったとは思うけど、それでもそれらから逃れることはできなくて。それに、三きょうだいで、僕だけが男の子。ちょっとだけど疎外感を感じることもあったわけで。お姉ちゃんや冬華の着ているかわいい服が羨ましいと思いつつ、周りの目を気にしてなかなか言い出せずにいて。
そういうことの積み重ねがあったから、僕は女の子になってみたかったのかもしれない。
スマホを手に持って、返信する。
『理由はそれだけじゃないけど、たしかに、だから僕は女の子になってみたかったのかも』8:10
送信して、ソファに座り直す。美月ちゃんの言葉で、なんだか自分の気持ちに気づいた気がする。男の子の身体が嫌いだったわけじゃないけど、どちらかと言われれば、女の子の身体の方が楽しくて、僕に合ってるような気がする。
少しして、ピロン♪とRINEが届いた。画面を開く。
『夏樹くんは女の子のときのほうが、楽しそうに見える』8:15
そのメッセージに、僕はまた少し動揺する。
もちろんその自覚はあった。女の子になってからの日常は、いろいろあったけどすごく刺激的で飽きなかった。女の子らしいかわいい服を着たり、女の子らしいかわいい声を出している自分にすごくワクワクする。
だけど、別に男の子の身体も嫌いではないのだ。そもそも十数年間共にしてきた身体、勝手はとっくにわかっている。運動したり重いものを持つときには便利だし、男親友のタクと部屋で二人ゲームをするのも僕が女の子なら難しかっただろう。
そういうこともあって、なかなかどちらがどう、とか、そういうことを決めることは、今の僕にはできなかった。
……ということを美月ちゃんに話すと、こんなメッセージが返ってきた。
『どっちも楽しめばいい』8:28
『私達は、どっちにもなれるから』8:28
そうだ。今の僕はどっちかの性別しか選べないんじゃない。どっちにもなれる能力がある。なら、両方楽しめばいいだけだ。
男の子と女の子のいいとこ取り。ちょっとずるいかもしれないけど、そう思ったらなんだか心が軽くなった気がした。
『ありがとう』8:33
そうメッセージを送るころには、僕はすっかりいつもの調子を取り戻していた。……美月ちゃんの相談に乗ってたはずなのに、いつの間にか僕の方が助けられちゃったな。
『人生は楽しまなきゃ損』8:36
『写真』8:36
美月ちゃんからメッセージが返ってくる。間を置かずに送られてきた写真には、今度は少しオーバー気味なメンズものの服を着て自撮りをする美月ちゃんが写ってて。服にタグが付いたままだったから、買ったばかりなのかな?
「人生楽しまなきゃ損」を体現してみせる美月ちゃんの様子に、少しクスッとして、なにかメッセージを返そうと、僕はまたスマホを開いた。
TS女体化男子が女の子の身体に戸惑っているのと同じくらい、TS男体化女子が男の子の身体に戸惑ってるの、すごくかわいいと思うんです。
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