#13 僕は男だけどカワイイをするために女の子になる。いざとなったら戻れるし。
本日2話目です。
前話をまだお読みでない方はそちらからどうぞ
午前中は真面目に宿題をし、お母さんが作ってくれたお昼ごはんを挟んで、午後は普通にゲームをした。
僕の部屋にはお父さんからもらったお古のゲーミングモニターに本体を繋げたものがあるので、遊び場所は僕の部屋から変わらない。
「俺の勝ちだな」
「ぐわぁー!また負けたー!!」
9勝33敗。これが今日の僕の成績。……まぁ今日に限らずいつもこんな感じだけど。
壁掛けの時計を見ると、もう夕方の夜に近い時間。窓の外では西日が隣の家の壁をオレンジ色に染めていた。そろそろお開きにした方がいいだろう。
「勉強もできてゲームも強いとかどれだけチート性能なんだよ……」
本体の電源を切りコントローラーを置いた僕は、机に突っ伏しながら嘆く。素直に悔しい。羨ましい。
そんなことを考えている僕をよそに、タクはタクで何かを考えているようで。
……タクが僕のことを見つめてきている?
「あ、いや、こうしているとやっぱりいつもの夏樹だなあと思ってな」
僕が不思議そうな顔を浮かべていたのを察したのか、タクがそう答える。
「それってどういう意味……?」
「どういうって……ほら、今朝の」
今朝の……って、あぁっ!?
課題の勉強とゲームで記憶から薄れかけていた今朝の光景が脳裏に蘇る。
また、顔が赤くなっていく。今日何度目になのかもわからない。
「せっかく忘れかけてたのに……っ!!」
そう言いながら僕は顔を背ける。今自分がどんな顔をしてるのかわからないから。
「すまない、嫌だったか?」
しょぼんとした、大型犬のような表情を浮かべこちらを伺うタク。それは明らかに僕を気遣ってくれているもので、僕はその優しさを振り回している。
僕はあのとき何を感じたんだろう?
「別にいいけど……」
「そうか、良かった」
「あのさ……僕が、高校生の男が、女の子モノのかわいいパジャマを着てて、変だと思わなかったの?」
「変……とは思わないな。さっきも言ったが、多様性の時代だ。誰がどんな趣味を持っていようと自由だし、俺はそれを肯定しようと思う。特に親友に対してならな。
それに、だ。少し驚きはしたが、それはむしろ似合ってたからだぞ?」
「ほんと……!?僕今男なのに?」
「今……?」
しまった!?うっかり口が滑っちゃった。このままじゃTSのことがバレちゃう……ん?バレちゃダメなんだっけ?
別にバレてもよくない?
タクだし。
「ねぇタク。本当は僕が男じゃなくて女の子でしたーって言ったら驚く?」
「それは驚くな。先日一緒に水泳の授業を受けたワケだがもしそうだったのなら夏樹はかなりの変態ということになるから主にそっちで」
「痴女じゃないからね!?!?その夏樹はちゃんと男だから!!!残念そうにするな」
「そうか……でもなんでそんなことを聞いたんだ?
もしかしてあれか?心が女の子ってやつか。安心しろ俺は多様性を受容し配慮できる人間だ」
「違うよ!!!!?!?!?……たぶん」
「んで、それがどの話に繋がってくるんだ?」
「えっとね、なんて言えばいいかな……。
見てもらった方が早いか。みてて」
そう言ってタクの前に立った僕は、心の中で唱える。
(女の子になれっ!)
\ピカーーーーン/
「うわ眩しっ!?」
いつもの謎光が僕を包み込み、数秒後に消えていく。着ていたパーカーがよく言えばオーバーサイズ、悪く言えばぶかぶかになって、身体のバランスの感覚も少し変わる。
光から目を守ろうと手で覆っていたタクがその手を離しながら僕を覗き込み、目が見開く。
「僕ね、女の子になれる能力を手に入れたんだ
すごいでしょ♪」
いつもよりもさらに少し高くなった、透き通るような声でそう言って、可愛さマシマシの美少女スマイルを浮かべてタクの顔を覗き込む。
あ、タク固まった。
◇
「そんな不思議なことがあるんだな……」
再起動したタクにいろいろと経緯を説明し、ダメ押しとばかりに性別を何度か行き来したりして(無理やり)納得してもらえたあとの次の言葉が以上である。
「どういう仕組みなんだ?それ」
「うーん、僕も詳しくはわからないんだよね」
「なんだそれ……そんなんでいいのか?」
「まぁ戻りたくなったらいつでも戻れるし?今はこの超絶カワイイ美少女ボディーを堪能しようかなーって☆」
おどけたように言う僕に呆れ顔のタク。
「本当に大丈夫なのか怪しいが……。
なぁ、ひとつ聞いていいか?」
「なぁに?」
「大元の夏樹は男なんだよな……?本当は元々女で高校は男になって来てたとかじゃなくて。」
お互いに目を見合わせる。タクの目がいつになく真剣で。
「あ、ははは!まさか!大元の僕は男だよ」
「そうか……なら良かったのか?」
「もしも本当は女だって僕が言ってたら?」
「その場合の俺は恋人でもない女子の家に毎度毎度上がり込んでは密室で2人きりになってたヤバいやつだな」
「あーね?それは無いから安心して。大丈夫だよ」
「現在進行形で女になってる奴に言われてもな」
「それもそっか!」
「「あ、あはははは!」」
僕たちの笑い声が部屋に響いた。
◇
「タク帰るよ〜」
「お邪魔しました」
リビングにいたお母さんに一声かけ、帰るタクを見送りに玄関まで行く。
「じゃあな」
「また来てね。今度こそ僕が勝つ」
「宿題もセットだからな」
「えー……。まぁでも、今日一日だけでもかなり捗ったし、やってよかったと思うよ。ありがと、タク」
「……おう」
「なにその間」
「いや、言っていいのか?これ」
「え、なに?気になるじゃん!」
「えーっと、じゃあ言うぞ?
……今日の夏樹めちゃくちゃかわいかったと思ってな、朝の夏樹も、今の夏樹も。うん、すごくかわいい。かわいいぞ、夏樹」
「ふぇ」
「言い淀んだのは男に対してかわいいは褒め言葉にならないか?と思ったからだが……その様子だと伝わったみたいで良かった。
じゃあ、またな」
「ま、またね」
タクが玄関の扉を開けて、外に出ていく。僕はその扉が閉まりきるまでぎこちなく手を振って
カチャリ。ストン。
崩れ落ちるようにして座り込む。ぺたん座りと言うやつだ。
なんであんなにかわいいって言うの?
そして、なんで僕は。
顔が熱い。心臓がバクバクする。
嬉しい。喜んでる。それはわかる。でも、それだけ?
なにこれ。わかんない。
「なつにい〜?あ、なつねえに戻ってる。
…………あきねえ〜?なつねえが女の顔してる〜」
リビングで冬華がなにか言っているのを、僕は聞かないことにした。
身体が女の子になってるのに頭はそのままだって誰が言った?(ニチャァ)
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