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#12 知らない女の子が女モノのふりふりパジャマを着ているのと知ってる男の子が女モノのふりふりパジャマを着てるのではまた話が違ってくる。

お待たせしました。

エタってる訳じゃないんですプロットいっぱいあるんです。最近書く気力が残ってないだけで……(言い訳)

 玄関先でのタクとのエンカウントから少し経って。僕は今自分の部屋のベッドで悶えていた。主にふたつのことで。


 つい先程の出来事。

 ひとつめは、僕のポカミスによってうっかり男の僕の状態で、女の子モノのふりふりの可愛い服を着たままタクに応対してしまったことだ。

 ふたつめは、そうしたらタクがすごく優しかったこと。


 ……自己分析をしてみよう、まずいっこめ。女の子の僕ならいいんだ。僕も似合ってると思うし、女の子の僕に似合うように買ったんだから。女の子が女の子用の服を着たらそりゃ似合うじゃん?


 でもさっきの僕はおとこ(・・・)!女の子状態よりも髪は短いしなんとなく身体は四角いし。たしかに僕は男にしては線が細いけど、いわゆる「男の娘」みたいな、完全に女の子と見分けがつかない見た目なわけじゃない。

 だから男の僕が女の子用の服を着てると、いくら女の子バージョンの自分用に買ったものだとしてもちょっと「浮く」んだよね。それを僕は昨日の朝お姉ちゃんに写真撮られたときに思い知った。それなのになんで一日でまたポカするんだよって?うん僕もそう思う。


 日常生活を送る上でどうしても今まで暮らしてきた性は必要だ。学校とかの問題もあるし、今までの人間関係とかを崩して一からやり直す度胸なんて僕には無い。そもそも家族に僕だってわかってもらえなかったかもしれないし……まぁうちの家族のあの調子ならなんやかんやで大丈夫だった気もするけど……とにかく!僕はいろいろな面倒ごとを回避するために「いつでも戻れるTS」を願ったのだ。

……2日目にして僕有効活用出来てないですね神様ほんとごめんなさい!


……なんか話がかなりそれた気がするからまとめると、僕が今ベッドで悶えているひとつめの理由は、

・自分で自由可変を望んだにも関わらず使いこなせてない自分に対する不甲斐なさ

・自分がミスマッチだと思う格好で他人の前に出たことに対する羞恥の感情が合わさったもの

……なんだと思う。


 冷静に自己分析をしてようやく少し熱さと赤みが引いてきた顔面を両手で一度軽くぺちんと叩くと、いくぶんか気持ちも落ち着いてきた……と思う。

 

「見られたのがタクで良かったけど……」


 そう自分に言い聞かせるようにして、ぽつんとひとりごとを呟いた。それでも、タクで良かったというのは本音だからね。

 いやまぁさ?あれは僕の失態だし、ネタにしたりイジってくるのはいいんだけど、バカにされたりとか、嫌がらせのネタにされたりとかは絶対に嫌だし。

 その点タクはそういうことはしないと信頼ができる。タクは良い奴だから。


 でも、でもさ、「良い奴」で片付けるには、さっきの言葉はちょっとおなかいっぱいだよ…………




(回想)


「……俺は偏見とか持たないからな?可愛いし似合ってると思うぞ」

「っ………………〜〜〜〜!?!?!?」




 なにあれっ!?なんで真顔でそういうこと言えんの?

 親友の「高校生男子」が明らかに女の子モノのふりふり♡カワイイなパジャマを着てたんだよ??自分で言うのも何だけど普通キモいし笑われて当然だと思うんだけど!?


 僕はベッドで足をジタバタさせてもがいた。部屋にあるちっちゃなほこりが舞うのでほんとやめて欲しいな僕。折角冷静になりかけていた顔がまた熱を持ってほんのり赤くなる。


 ……これがふたつめ。僕は親友のイケメンムーブに危うく堕とされかけていた。

 ……いや堕ちないからっ!?親友の男になんて絶ッ対に堕ちないから僕はっ!!!……いやフリじゃないからね!?


 あのときの情景が頭から離れない。僕はチョロクない。

 明らかに「女装」した僕を見てタクは動揺して、僕は馬鹿にされるかもしれないって怖くなった。

 でも、それなのに、なんでもない事のように、それでいて大切なことのように肯定されて、そう、頭がバグってるだけだ。

 うん、絶対にそうに決まってる。そうじゃないとおかしい。そういうことにしておく。……おかないと、思考が変な方向に向かってしまいそうだ。

 そもそも前提からして、タクは僕のことを男子の友達として見てるんだから、そういう意味では無いのに。


 そうして落ち着くまでに5分。僕は更に時間を費やした。




 

 さすがに友達と遊ぶのに(ふりふりであってもなくても)パジャマは有り得ないのでシンプルな無地のパーカーに着替える。

 階段を下り、リビングへ。扉に手をかけて、ひと呼吸。よし、大丈夫。


「タク、ごめんほんっっっとおまたせ……」


 壁掛けの時計を見てみればそれなりの時間が経ってしまっていて、そのあいだ折角遊びに来てくれたタクをリビングに放置したという事実に罪悪感を感じる。


「いや、大丈夫だ。秋奈さん達と喋ってたからな」


 そう言って何も気にしていないとアピールするタク。さりげなく僕に罪悪感を感じさせないような言い回しを選ぶあたり、やはりタクは優しいと思う。


「麦茶、ありがとうございました」


 手元のコップに半分くらい残っていた麦茶をグイッと飲み干すとタクはそう言って立ち上がり僕の方へ向かう。その横にはニコニコ顔のお姉ちゃんとお母さんが僕の方へと視線を送ってきていた。

 僕が上にいる間にタクと一体何を話してたんだろう……?






 今下りてきた階段をまた上り、僕の部屋へ。この間掃除をしたばかりだからタクを入れても特に問題はない。


 タクには座布団を用意して座ってもらう。この部屋に人数分のイスなんてものは無いからね。タクも慣れた様子で床へと座り胡座をかく。


 ……ちょっと空気が篭ってるかな?窓開けて換気しよっと。

 窓を開けると、夏特有のむわっとした生ぬるい空気が部屋の中へ入り込んでくる。……あんまり長い時間は開けてられないな。ちょっとしたら閉めよう。


「ところでタク、今日は何する?スイッチ?ボードゲーム?」


 窓際から振り返りタクのいる方へ数歩戻りながら僕は聞く。遊びに誘っておいて特に何をするのかも決めていないなんてと思うかもだけど、これが僕らの日常だ。だいたいいつも何となく、今日はこの気分ってものを適当に遊ぶのが習慣になっていた。


「いや、今日はいつもとは違うことをしようと思ってな」

「なになに」


 タクが新しいことを提案したことに驚きつつも、僕は両手をつき前のめりになってタクの言葉を待つ。どんなおもしろいことなのかと期待でわくわくして……いたんだけど。次の言葉を聞くまでは。


「夏休みの課題やるぞ、夏樹」

「やだ」




「……」

「……」




「後にやるか今やるかの違いだろ」

「やーーーだーーーあ」


 僕は両手をだらんと突き出し、座卓に突っ伏してただをこねた。

 そう、タクが言う「いつもの違うこと」とは夏休みの課題をやること。僕達の通う高校では、小中学生よりは量は少ないものの、決して一日では終わらない程度の夏季課題が出されていた。


 つい先日課題を配布したときの教科担任の悪い顔が頭をよぎる。


「どうせね、キミたち、夏休みの間遊び呆けて一学期にやったこと全部忘れるだろうから。残念だったね。忘れさせてやらないから(笑)」とはその先生の言葉。

 夏休みくらい忘れたかったよ……。


「そう言って昨年は8月27日まで忘れてた挙句俺に泣きついてきたんだろうが……

 それに、今からやって終わらせておけば後半は気にせず自由に遊べるんだぞ……?」


「うぅ……そうだけど……」


 たしかに、タクの言う通りだ。今のうちにやっておいた方が楽なのは間違いない。僕が面倒ごとは先延ばししがちなところもよくわかってるし、本当にもっともだと思うんだけど。


「うぅ……ああぁ……」

「なんの音だよ」

「葛藤してる……」

「そうか、頑張れ」


 僕はどうしても宿題というものが好きになれないんだよね……。ただ単に好き嫌いなので、やろうと思えばやるし、はじめてしまえば終わるまでできるんだけどさ、なかなか最初の一歩が踏み出せずにズルズルと行ってしまうタイプなのだ。


 だからタクがこうやってやるきっかけを作ってくれるのは本当はすごくありがたいんだよね。それはそれとして遊びたいって気持ちもいっぱいあるんだけどね。だからこその葛藤。タクは僕の先延ばし癖を知っていて、気遣ってくれていて、だから今年はわざわざ課題を一緒にやろうとしてくれているわけで。


 なんて良い奴なんだ。持つべきものは優しい友である。


 そんな優しさを無下になんか出来ないよね。


「よし、覚悟できた。やろっか」


「そうか。じゃあ最初のページから。お互い解いて、わからないところがあったら考えるという感じで問題ないか?」


「おっけー、それで大丈夫だよ」


「じゃあまずは数学IとAからやろうか。……露骨に嫌そうな顔するな。大丈夫だ覚えれば簡単だから」


「その覚えるまでがつらいんだけどね……」


 口ではそういいつつも、僕は課題として出されていたワークとノートを引っ張り出し、タクの向かいに座って問題を解き始める。


 ちなみにタクはかなり頭がいい。テストでも毎回学年で1位2位を争っている。

 僕……?毎回30番とか40番とか。まぁほら、良くもなく、悪くもなくって感じ?


 やり始めてしまえば意外とスラスラと解けている。まだ学期末試験で勉強した記憶が新鮮だからなのかもしれない。

 オマケに隣にタクという先生がいて、適度に監視されつつも、詰まったり解法がわからない時にはマンツーマンで教えてもらえる。しかもタクは教え方が上手いし、優しい。すき。……いやこれはあくまで友達としてだから!!!

 

(……夏休みの最初の方に宿題やるのも意外と悪くないかも……)


 そんなこんなで、ノートが十数ページ埋まる頃には僕はそんなことを考えていたのだった。

 我ながら現金だなぁ。

長くなったので分割してみます。

次は本日18時に投稿します。

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