#11 夏休みに親友の男友達の家に遊びに行ったら、親友がなんだかとても可愛い服を着ていた件。(親友視点)
お待たせしました。
前半パートは片山拓也くんの視点から、
後半パートは神尾家で、姉メインです。
【前回のあらすじ】
女の子2日目に突入したナツキ。前日の疲れから熟睡し、のんびりしていると突然インターホンが!そこにいたのは同級生であり親友の片山拓也くん。ナツキは3日前にした遊びの約束をすっかり忘れていた!慌てたナツキは男の子の身体に女の子のパジャマ姿で応対することに!赤面!羞恥!逃走!
(暑い……)
まだ午前中だというのに地面をギラギラと照らす太陽に、俺は思わず苦言を呈す。
俺の名前は片山拓也、高校1年。身長175cm体重62kg、黒髪黒目のどこにでもいる男子高校生。以上、自己紹介終わり。
俺は今日、同級生で親友の神尾夏樹との家で遊ぶ約束をしていた。そのためこうして道路を歩いているわけなのだ。
俺の家から、夏樹の家はそう遠くない。距離にして1キロもなかったはずだ。だからこそ、わざわざ自転車を出すまでもなく、いつもなら余裕で歩けるのだが。
(選択を間違えたな……)
さっきから汗が止まらない。滲んだ汗はやがて滴となって身体を伝い、地面やTシャツにぽた……ぽたと落ちてゆく。速乾吸収だからすぐ乾くだろうが……少し臭ってしまうだろうか。
俺も普通の男子高校生、二次性徴も終わった今気を抜けばすぐに臭ってしまうことは自覚していた。というよりかは、自覚させられてしまった、の方があるいは正しいのか。
なんてことはない、夏休み直前の授業日に、1限の体育で汗だくになった体操着を適当に丸め袋に入れて持ち帰った。そして夜洗濯しようと袋を開けた瞬間、そう、臭かったのだ。生乾き臭と共に感じる「男」の臭いに自分でもショックを受けた。
家族には大人になったんだねと笑われたが……俺にとってはいたって真面目で切実な問題なのだ……。
ちなみに余談だが、翌日夏樹にそのことを話したら、
「それは大変だね……」
などと言っていろいろと相談に乗ってくれ、
「僕のお姉ちゃんはこれがいいって言ってたんだけど〜」
などと言って制汗グッズなども教えてくれた。
そう言ったことに詳しいのは家族に女性が多いからなのかそれとも彼自身の性質なのか。
そういえば今まで夏樹を汗クサイと感じたことはあまりなかったように思う。そもそもあまり汗が臭わないのか、臭わせないようにしてるのか。それに、本人は知らないだろうが、男であるのに男臭くないともっぱらクラス内の女子にも評判で、人気もある。もっとも、愛玩小動物的な側面で人気であることは否定出来ないが。
見習えるところは、見習っていきたいものである。
(っ……と、着いたか)
そんなことを考えながら歩いていたら、いつの間にか夏樹の家に着いていた。
この暑さの中でいろいろ考えながら歩いていたらぼーっとしてしまっていたようだ。
ピーーンポーーーーン
玄関横のインターホンを鳴らすと少しして、にわかに中から騒がしい音が聞こえるも、なかなか扉は開かない。
なにやら中から声は聞こえるが……厚い扉越しだからよく聞き取れない。……なんか扉の奥がえらく光ってないか?
……とりあえずなんでもいいから開けてくれないだろうか。今待っているこの間にも、太陽はさんさんと俺の身体を熱し、汗が頬を伝う。
そうして待つこと少し、ガチャリ、と鍵が回る音がして、勢いよく玄関扉が開く。
「―――――!?」
「え……?……あ、タクおはよう。待たせてごめんね」
扉が開いてる中で、後ろからなにか慌てたような女の人の声が聞こえる。お姉さんの秋奈さんだろうか?何をそんなに慌てて……
そう思った俺は、今目の前に現れた幼馴染で同級生の親友(男)を見て、固まった。
服めっちゃ可愛いなおい。
パジャマだろうか。ふりふりのついた、いかにも女の子らしい服。到底男子高校生が着るようなものではないと思っていたのだが。
当の本人といえばきょとんとして、まるでなにが起こっているのか理解していない様子。気がついていないのか、そもそも気にしていないのか。
「……えっ、なに、どうしたの……?僕、どこか変…………?」
どうやら俺が言葉に困りしばらく夏樹をじっと見続けていたら不安になってきたらしい。不安げな、弱々しい声に、思わずドキッとしてしまう。夏樹は男子にしては声が高い方だし、ハスキーな女子と言われればそう聴こえるぐらいだ。
ここまで来て、俺はある考えに至った。
むしろいいんじゃないかと。
今は多様性の時代だ。誰がどんな格好をしていてもいいし、別にそれでとやかく言われる時代では無い。性的少数者についてもひと通り授業で習うし、それで差別なんてしようものがないのだ。そして目の前にいるのは気心の知れた親友である。なにを迷う必要があるのだろうか。夏樹が「そう」ありたいのであれば、それを認め応援するのが親友では無いのか。
「えっ……ほんとなに……っ!?」
俺はもう一度目の前の可愛いパジャマ姿をした夏樹を見る。少し丈があっていない要な気もするが、思ったよりも全然、むしろ結構似合っていて、男子高校生のむさい女装感はない。良し。
この間一秒。方向性は決まった。夏樹がどんな趣味をしようと受け入れる。
そう決意した俺は、未だ困惑と怯えを浮かべる目の前の夏樹に話しかけた。
「いや……、今日は随分と可愛らしい格好をしてるんだなぁと思ってな」
俺の言葉に呆ける夏樹。しかしすぐに言葉の意味に思い当たったのか、自分の姿を確認して―――
「あっ……あっ…………」
わなわなと身体が震えはじめ、次第に顔が紅潮していく。
「……俺は偏見とか持たないからな?可愛いし似合ってると思うぞ」
「っ………………〜〜〜〜!?!?!?」
俺の言葉を聞いた夏樹は処理落ちを起こしたパソコンのようにカタカタと震え、熱を持って動かずにいた。
ふと夏樹の後ろを見てみれば、秋奈さんが「あちゃー」と言いたげな表情を浮かべていた。いや、肩が少し震えだして、口元が歪んできている。……笑ってるのを堪えてる顔だなこれ。
目線を戻すと、顔から湯気が出そうになって、少し涙目になっている夏樹の姿。……いや、こいつ男なのに可愛いな?
夏樹はすごく、表情が顔に出やすくていいと思う。それにくらべ、俺は表情の変化がないとよく言われる。今だって、動揺してはいるが、顔には出ない。出せないのだ。表情の変化が乏しいことが自分でも悩みであった。
そうした俺に、恐らく自分だけが空回りしていると思ったのだろうが、空気に耐えられなかった夏樹は涙目になって、
「た、タクはリビングで待っててねっ!?着替えてくるからっ!!!」
そう言い切るやいなや、俺を置いて走り去ってしまったのだった。
◇
「外暑かったでしょ?冷たいもの飲む?麦茶でいい?」
「すみません。ありがとうございます」
取り残された俺はとりあえずリビングに入れてもらい、クーラーの効いた部屋で夏樹が落ち着くのを待つ。
しかし、あれほどまでに慌てるとなると、夏樹が「そう」いうあり方をしたい、という訳ではないのだろうか。俺にはわからない領域だ。
「はい、麦茶ね」
そう言って目の前にグラスに入った麦茶を置いてくれた秋奈さんに礼を言い、グイッと喉を潤す。
うまい。キンキンに冷えているところが最高だ。うだるような暑さの中、汗をかきながら歩いてきた身体全体に染み渡っていくようである。ん、思わず全て飲みきってしまった。
リビングには神尾家の女性陣が勢揃いしていた。夏樹とはこれまでも何度もお互いの家で遊んだ中だから全員面識はあるが、それにしても自分の家族以外の女性3人に囲まれているのはなんとなく落ち着かない。
「顔真っ赤にしたなつにい可愛かったね!たくにい」
そう言うのは夏樹の妹、冬華ちゃんだ。先述の通り家族ぐるみでの付き合いがあるので、彼女がちいさい頃から、よく夏樹と一緒に遊んであげていた。その甲斐あってか、外面が無口無表情の俺にも割と懐いてくれている。
そんな彼女がソファーから身を乗り出して、少し興奮気味に語る。彼女も、秋奈さんも、なんならママさんも、神尾家の人間はみんな夏樹に甘い気がする。
まぁ、正直、気持ちはわかる。あの顔は、夏樹が男だとわかっていても「クる」ものがあったし。そんなことをしょっちゅうやって、コロコロと表情を変化させる夏樹は、なんというか、見ていて飽きないのだ。
「わかる」の意を込めて頷いた俺に、冬華ちゃんは満足そうな顔を浮かべた。
しかし、確かにそうは思っていたが、ああいう可愛い服を着ているのは予想外であった。夏樹はどのスタンスを取っているのだろうか。
「ただ可愛いものが好きなだけ」なのか、「女装がしたい」とか、はたまたそういう性別の違和感があったりするのか。非常にセンシティブな問題であるがために、あまり踏み込むのもどうかと思うが……。
「夏樹は……どうなりたいんでしょうか?」
場合によっては今後の対応を変えていかないといけない。俺は夏樹と今後もいい関係を築いていきたいのだ。知らぬ間に地雷を踏んでしまうことは避けたい。
「うーん、たぶんあいつそこまで深く考えてないと思うよ」
俺の問いに答えたのはテーブルを挟んで向かいのイスに片足を立てながらスマホを見ていた秋奈さんだ。そう言うと彼女は足を下ろしてスマホを置き、こちらをジッと見てくる。
「夏樹はもともと可愛かったし、私達の影響かもしれないけど、可愛いものが好きだった。それが最近は成長とともにあまり表に出さなくなったんだよね。たぶんだけど、「こんなの男には似合わないよね」みたいに思ってさ」
そう語る秋奈さんの目は優しいもので、少し物憂げでもあって。
「でもさ、これまでずっと好きだったものが急に無関心になることなんてそうそうないわけよ。だからナツキはちょっと無理してるんじゃないかなーって思っててさ」
「それが昨日、いろいろあって、またそれが出来るようになってさ。すごく明るくてキラキラしてたんだよね、昨日のナツキ。あんなに楽しそうなのを見たのは久しぶりなんだ……」
そう言って目線を天井に向ける秋奈さん。
天井からはなにやらドッスンバッタンといった音がしていた。夏樹はなにをやっているんだろうか。
「だから私達は、この変化を好意的に、「良かったな」って思ってる。ただまあ、これからナツキは今までとは少し変わっていくかもしれない。お姉ちゃんとしては、拓也くんにはもしナツキが変わっても、今のまま接してやって欲しいなって思ってるんだ」
「どう?」
そう言って俺を真っ直ぐ見つめる秋奈さん。
そんなもの、とっくに答えは決まっている。
「夏樹は夏樹です。それは変わりません」
俺は彼女に目を合わせ、はっきりとそう言った。
「そっか……ふふふ。ナツキも良い友達を持ったねぇ」
「ありがとう拓也くん。これからもナツキを、よろしくね」
俺の言葉は満足のいくものだったのか、秋奈さんは笑みをこぼし、いつも間にか隣に来ていた夏樹ママ、春佳さんも、いつも通りのおっとりとした口調で話す。
どんな夏樹でも、受け入れる。
そう心に決めた。
◇
「はいどうぞ」
「ありがとうございます」
二杯目のキンキン麦茶を受け取り、今度は半分くらいまで喉に流し込む。うまい。
玄関先の件から既に15分は経過しているが、夏樹はまだ準備が出来ないのか、2階から降りてこない。かといってこちらがずかずかと入っていくのは無遠慮すぎて憚られるので、結局はまだ神尾家のリビングにいた。
「ところで、昨日は夏樹になにがあったんでしょうか」
ふと、先程の話の中で俺が個人的に気になっていたことを聞いてみる。
「うーん、それって私たちの口から言っていいの?」
「本人から言わせた方がいいんじゃないかしら」
俺の問いに秋奈さんと春佳さんは相談するも、やはり夏樹本人から直接聞いた方がいいとのこと。俺もその意見に異論は無いので大人しく引き下がる。あとで夏樹の部屋に行ったときに聞くとするか。
しかしそうは言っても気になるものは気になる。夏樹がはやく落ち着いて呼びに来てくれるのを心の中で催促するしかないものか、そう思ったときであった。
「あのね、タクにい。なつにいの、なつねえは、すっっごく可愛いんだよ。タクにい惚れちゃうかもね」
耳元でそんな囁きをしたのは冬華ちゃん。言葉を言い終わると満足そうにソファーの定位置へと戻って行った。
ネタバレなのか、しかし一体「なつにいのなつねえ」とはなんのことなのか―――。
◇
「タク、ごめんほんっっっとおまたせ……」
それから数分後。
シンプルな無地パーカーに着替えた夏樹が俺の事を呼びに来るまで、俺はその言葉の意味を考え続けていた。
神尾家がやたら順応して女の子になったナツキを受け入れたのはそういった訳もありました。
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