#01 プロローグ――そして僕は女の子になった。
はじめましての方ははじめまして。湊みらいです。
まほぐうから来てくださった方、ありがとうございます。
唐突に別のテイストの話が書きたくなり、ノリと勢いだけで新規連載を始めました。よろしくお願いします。
僕、神尾夏樹にはある秘密があった。
それは、「TS願望」。
平たく言うと、「女の子になってみたい」ってことだ。
「女の子の身体になってみたい」
「かわいらしい洋服を身につけて、街や店を回ってみたい」
「かわいいと言われたい」
「チヤホヤされたい」
そんなことを考えたことは?
きっと男なら誰もが1度は考えたことがあるんじゃないかな。
それでも、それをずっと考えてる人はあまりいないだろう。
その「あまりいない」の中に僕は入っている訳なんだけど。
僕は昔からずっと女の子に憧れてきた。
あ、性同一性障害とかそういうのじゃなくて、ただ単純に「女の子になってかわいい服を着てかわいいと言われたら楽しいだろうなぁ……」とかそんな感じだ。
僕が中学生になるぐらいまではお姉ちゃんや妹に着せ替え人形にされて遊んでいたんだけど、最近はやってない。
……だって一般男子高校生がJKの姉の服を着てるとか変態じゃんっ!
そして中2ぐらいで二次性徴が起こる。
幸い僕はあんまりごつくならなかったし、声変わりも少ししただけだった。
それでも、やっぱり男だなぁって分かるぐらいには成長してしまっている。
僕はその当時かなり落ち込んでしまっていた。そんな時に出会ったのがTSF作品たちだ!
「男の子が女の子になる描写」
これは当時の僕にとっては衝撃だった。
そして、それがものすごく羨ましく感じた。
それからというもの、僕はTSモノの作品を読み漁り立派なTSスキーになった。
……それが立派なのかどうかは置いておこう。
TSモノを読み漁っていく中で、僕の女の子になりたいという願望は強まっていた。
でも、TSFは物語。現実でなんか起こる訳ないんだよなぁ……
そう思いながら、また今日もTSモノの小説を開いた。
◇
7月19日金曜日
「えー明日から夏休みになりますがー……」
今日は高校の1学期の終業式だ。
担任の中山先生が諸注意を話すと、号令が掛かって授業が終わる。
僕が荷物を纏めていると、隣の席に座っていた僕の友達の片山拓也が声をかけてくる。
「夏樹、夏休みの予定ってなんか入ってるか?」
拓也の聞き方はなんとなく回りくどい。
「素直に遊びに行ってもいいか?って言えばいいのに。」
僕がそう言うと、タクの顔はしょぼん(´・ω・`)とする。
あっ、タクっていうのは拓也のあだ名ね。
「それで、どうなんだ?」
「もちろんいいよ」
僕がそう言うと、タクの顔はぱぁっと明るくなった。
いや犬かっ!
「あっ、でも明日はちょっと用事があるから、明後日以降でもいい?」
「わかった。じゃあ月曜日でいいか?」
「うん。大丈夫だよ」
そこまで話したところで下校の予鈴が鳴ったので、僕たちは急いで教室から出て下校した。
◇
7月20日土曜日
夏休みの初日。
僕は電車を何回も乗り継いで、あるところに来ていた。
「うわっ……すっごい田舎」
木造の小さな駅舎を出て、国道沿いを進む。
あたりは田んぼと山と森だらけで店どころか家1軒すら見えたらない。
しばらく歩くと道はアスファルトから砂利に変わり、遂に土と草になった。山道だから緩やかな登り坂になっていてそれもまた体力を消耗させる。
それでも僕は、そこに向かって歩き続けた。
真夏の空の下を歩くこと2時間。
遂にその場所へと到着した。
「ここが……性転神社……」
そう。僕が今日こんな田舎に来た理由は、この神社に行くためだったのだ!
この神社のことはネットで知ったんだけど、情報はあるのに何故か誰も行ったことがないらしい。
「行ってみた!」というブログを見ても、「辿り着けませんでした」が大半で、場所も様子もあやふやだったのだ。
唯一、あるブログの運営者が行き着けたようだけど、写真が殆ど載ってなかったし情報量も少なかったからあんまり当てにならなかった。
だけど、このブログに書いてあったある言葉に僕は惹かれたのだ。
「夢が叶いました」
それは一見すると別に全然大したことないように見えるかもしれない。
だけど、この神社は他の神社とは一味違う。
曰く、「性転換専門の神社」なんだそうだ。
最初はなんだそれと思ったんだけど、八百万って言うぐらいだし、御神体は結構有名な性を司る神様の分体らしいから、そういうのがあってもおかしくない。
僕は春からネットを巡回してこの神社の様々な情報を集め、割り出したおおよその位置を元にしてここの近くまで来た。
あとは見つけられるかの勝負だったんだけど、案外簡単に見つけることが出来た。
……みんななんで見つけられなかったんだろう?
僕は鳥居をくぐると、石畳に草が生い茂った境内を歩いていく。
本堂が見えてきた。
……まぁ本堂と言っても、祠の大きいやつぐらいの大きさなんだけどね。
うん。いや、まぁなんて言うか……ボr……ね、年季の入ってる感じだなぁ!
僕は賽銭箱の前に立つと、財布を取り出して中からお札を出した。
1万円(ピン札)。
これは僕が今日のためにお小遣いをコツコツ貯めて銀行に行って変えてもらったものだ。
これを用意する為に購買で買うパンを3つから2つに減らしたり、飲み物を買うのをやめていつも水筒を用意したりした。
……頑張ったなぁ、僕。
しかし!それも全部今日のため!
神様だって小銭より大金の方が嬉しいに決まってる!
いわば、そう!性の神様への赤スパってこと!
僕は1万円札を賽銭箱の中に落としこむと、二拝してかしわ手を打つ。
パンッ!パンッ!
「僕をめちゃくちゃかわいい女の子にして下さいっ!!
あ、でも日常生活に支障出るから好きな時に女の子の姿と元の姿を切り替えられるようにしてください。」
僕はそう言ってもう一度二拝すると、その場を後にする。
……まぁ流石に本当に女の子になれるなんてうまい話はきっとないだろうけど、気持ちだけでも伝わればそれで良かった。
そう思いながら、鳥居まで戻ってきた時点で僕は呟く。
「これ……また2時間歩くの……」
2時間かけて駅に着いたけど、1時間以上電車が来なかった。……まぁローカル線だからね仕方ないね。
ようやく来た電車に乗り途中で何回か乗り換えて家に帰ると、もうかなり遅い時間だった。
何時間も歩いて疲れていた僕は、シャワーだけ浴びて自分の部屋の布団に倒れ込むと、そのまま寝てしまった。
◇
7月21日日曜日
ピピピピッ♪ピピピピッ♪ピピピピッ♪
目覚まし時計の電子音が聴こえる。
普段日曜日は鳴らさないんだけど……そう思ったところで、昨日はすぐに寝てしまったことを思い出す。
うーん。うるさいなぁ……とにかく止めよう。
ええっと、よいしょっ!
僕は目覚まし時計のある方向に手を振り下ろす。
スカッ!
……ん?ミスったかな……?もう一度。
スカッ!
んんん??どうしたんだろう?
僕はまだまだ眠たい目を開くと、手の方を見る。
なんか……小さい?
それに僕の腕ってこんなに細くはなかったはずだ。
触ってみると、すべすべして気持ちいい。体毛も生えてない。
……
…………
まさか!?
僕は布団から飛び起きると、クローゼットにしまってあった姿見を取り出して、自分の姿を見てみる。
そこに写っていたのは、
だぼだぼの服を着た「美少女」だった。
「や、やったぁあああーーー!!!」
夢が叶った。僕は思わず声を出して喜んでしまう。
口から出たその声も、かわいらしい女の子のもの。
それがさらに僕のテンションを上げる。
しばらくの間、僕は姿見に写る自分を見つめていたのだった。
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