第50話 平和を愛する俺は、武力行使の軍隊に心理戦を仕掛けました。
「……なんなんだね君は」
ガルムの村の入り口、俺はシンデレラが乗ってそうな乙女チックなデコレーションをされたピンクの馬車の窓から顔を覗かせるちっさいオッサンと対峙していた。
どうやらこのオッサンがマーシャルの父、マルソウ王国の王様らしい。
「テメェいきなり村に火ぃ放とうとしてんじゃねーよ」
馬車の周りには百は超えるだろう鎧の兵士達が右手から火の玉をスタンバイしている。
俺が駆けつけた時には今にもそれを村に投げつけそうな間一髪の状態。
ったく、この辺に住んでる奴皆イケイケ過ぎて治安悪ぃよ。さいたまが恋しくなってきたぜ。
「何? 可愛いマーたんに悪影響を与える施設を焼き払って何が悪いのだ?」
オッサンがもっさりとしたクルクルな金髪をかき上げながらしわがれた声で言う。
なんかウザいオッサンって声でわかるよな。
「悪影響って?」
「……しらばっくれなくてもわかるのだ! 最近マーたんは毎日ピアーノのお稽古をサボってここで遊んでいるのだ!」
だから焼き払うって、こいつ子供かよ。ったくこれだから苦労を知らねぇ上流カイキューな野郎はウゼーんだよ。
「……それでここがなくなりゃマーシャルはピアノを真面目にやるとでも?」
「当たり前なのだ! マーたんは本来ならば将来立派な王女になる為に一生懸修行中なのだからな!」
えっへん! って感じでふんぞり返っている王様。なんかこーやってみると老けた小学生って感じだ。これで結婚して子供いるってんだから嫁さんがどんな女にのか気になるぞ。
「マーシャルが元からバカたからこの村があろうが無かろうがサボるって可能性は?」
「こいつ、……マーたんになんてことを! 総員、撃つのだーー!!」
王様が叫ぶと、兵士たちは火の玉を俺に向かって一斉に発射する。
ふっ、オッサンのまえでマーたんをdisったらこうなることくらいは予測済みだ。
「ビッグエアリズム!」
両手を上げると空気の層が俺を包み、それが無数の火の玉を上に逸らせる。
名前の通り、空気を含んで身体から熱を逃す衣服からアイデアを貰って考えた魔法だ。ふっ、俺って奴ぁなんて賢いんだ。
「な、なんだと⁈」
空気の層に吸い上げられて遥か上空で爆発する火の玉の集合体。
目を丸くして驚く王様に俺はクイクイと挑発的に手招きしながら言ってやる。
「ま、そんでもヤるってんならいいんじゃねーの? ……かかってこいよ?」
「……くっ、総員次弾発動、フォーメーションブリザードなのだ!」
王様のオッサンがそう叫ぶと、兵士たちは手に今度は青い球を渦まかせる。
「おうおう! 何べんやったって無駄なんだよ、俺ぁお前、おにのよーに強ぇーんだからよぉ?」
言いながら右手を前に突き出し光の球を作る。
中学ん時、息子が家から盗んだ金で後輩に居酒屋奢ってドヤ顔してる所を発見した瞬間の木村のかーちゃんの阿修羅のような顔を思い出しながら念を込める。
フォーーン。
「な、なんという魔力だ」
ふっ、ビビってるビビってる。
紫と黒の入り混じった光の渦が俺の掌の上でクルクルと回転する。
テーマはそう、怖い魔法だ。
ブオォーーーー!
敵を鎮圧するのに1番強いもの。
それは力じゃない。
そりゃあヘタレなヤローがゴネてるだけならぶん殴っちまうのが1番早いだろうけど、こいつらは兵隊だ。
日常的に暴力に触れ、命を張ることにも慣れてるだろう。
ならばそいつらに有効なのは剣でもペンでもないし、勇気なんかじゃ勿論ない。
「うぅ、……あ、足がすくんで」
それはハッタリ。
最も理想的な戦い方ってのは、相手を殺さずに『殺される』と思わせること。
俺ぁホントは勝負はガチンコの喧嘩が好きなんだけど、こいつらは多分死ぬまで向かってくる。
知らねー奴らとはいえ、こんなくだらねぇことで死んで欲しくはないからな。
「キムラ・ザ・オニババー!!」
俺が叫ぶと同時にドス黒い魔力が兵士達&王様のオッサンに襲いかかる。
「「「うわぁーーーーー」」」
その瞬間、男達は頭を抱えてその場で倒れ悶絶する。
まぁそれも当たり前のこと。こいつらの脳内には今、あの時あの瞬間の木村のかーちゃんの顔が顔面ゼロ距離に迫って来てんだからよ。
あん時ゃ木村はビビってウンコ漏らしてたし、この俺だって相当ビビったんだ。
木村のかーちゃんには申し訳ないが、その怖さは最早ヤクザもプレデターも目じゃないレベル。
あんな怖ぇ顔、あん時以来見たことねーよ。
「お、鬼が、鬼が来るぅ!」
「くわれる! 食われる!死ぬーー!」
「……ごめんなぃ、……ごめんなさいぃ、ひぃ」
……ちっとやりすぎたかな。
って思いつつ王様の方を確認する。
……おっと。
「ふん、くだらぬのだ!」
なんと王様のオッサンも同じ現象を食らってる筈なのにあっけらかんと平気な顔。こいつ心とかないのかな。
「……テメェ、まさか魔法を無効に?」
「ふん、あんなババァの顔が見えたからなんだと言うのだ! キレた我妻、イナズマブレット王妃の方がよっぽど怖いのだ!」
「まじかよ」
……そうなってくると話は変わってくる。こいつの嫁が木村のかーちゃんよりも怖いのならば、もしもそいつがこいつと同じくらいバカで過保護なのならこの村と俺自身は消し炭にされるのは避けられないだろう。
ブルブル。
あの時の、消し炭になるんじゃないかと言うほど殴られてた木村の断末魔を思い出して身体が震える。
……麦茶入ったままのアレで頭いかれてたもんなぁ。
仕方ない、かくなる上は。
「おいっ! ケーちゃん、出番だ!」
後ろを向いて叫ぶと、何処から飛んできたのか俺の隣にシュタッと着地する。
「ふっ、主人よ、我の状況再現波を欲しておるのだな?」
「いや、別にそれじゃなくてもいーけど、何か適当に卑怯くさいやり口でこのオッサン追い込んでくれよ?」
「……我は卑怯なのか?」




