#1_始祖吸血鬼の目覚め
ん……うぅん……?
ここ……箱の中?素材は……木材かぁ。棺とかその辺かなぁ。
と言うか俺、死んだはずじゃ……何で生きてるの?ここ死後の世界?
うーん……よく分かんないからとりあえずテキトーに蹴ってみよっと。
ゴン!……バキッ!
……あ、箱の蓋割れちゃったっぽい?割れた隙間から光が入ってくるけど……すごく、眩しい。
俺光苦手だったっけ?まともに目を開けられないや。
…………声がする。二人くらいかな。男の人と、女の人。いや……ヒトじゃない。男吸血鬼と女吸血鬼だ。
なんか、直感的に吸血鬼だって分かった。……性別も。
声が結構近くで聞こえるようになった。途切れ途切れだけど、会話が聞き取れる。
内容をまとめると、ずっと始祖様が眠っていたハズの棺から大きい音がしたから、確認に来たらしい。
大きい音って、さっき俺が箱――もとい棺を蹴った時に出た音だよね、絶対。
と言うか、始祖様が眠ってたってどう言う事?そもそも始祖様ってなんの始祖様?確認に来てるのが吸血鬼なら、吸血鬼の始祖様かな?
とか考えている間にその吸血鬼二人は棺の横に立って、棺の蓋を開けた。
沢山の光が、俺が入っている棺の中に降り注ぐ。とても眩しくて、思わず手を顔の上に被せる形で光を遮る。
「ほらっ!やっぱり始祖様起きてるって」
「……みたいだな。始祖様〜おはようございます。とても長い間お眠りになられていましたね」
女吸血鬼が起きていると言った後に、男吸血鬼がとても長い間眠っていたと言った。
……というか、始祖様?俺が?
「ん……えっと、始祖様って俺のこと?」
俺は直球で疑問をぶつけてみた。すると、吸血鬼達はキョトンとして……
「始祖様は始祖様だよ?何言ってるの〜?」
「俺らの始祖様は貴方様しかいませんよ。長い間お眠りになられていたので、ご自分が吸血鬼の始祖であること、忘れてしまわれましたか?」
そう言って、二人とも肩をすくめて苦笑い。
え、俺が?吸血鬼の始祖?……でも、仮にそうだとすると、辻褄は合う。
ただ蹴っただけで壊れた棺の天井。異様に眩しく感じる光。棺を壊した事で確認しに来た吸血鬼。直感的に分かった種族と性別。
……全て、俺が始祖の吸血鬼であるのなら、説明できる。
蹴っただけで棺の天井が壊れたのは、始祖吸血鬼の身体能力。光が異様に眩しく感じるのは、目が光よりも暗闇を得意とするから。棺を壊した事で確認に来た吸血鬼は、始祖が眠っていて長い間物音がしなかったからだろう。直感的に種族と性別が分かったのは、俺が始祖吸血鬼であり同族だったから。
つまり……
――俺は始祖吸血鬼に転生した……と。
そういう事かな〜。
まあ、転生って事は一回死んでるんだけどね……。
なんか、最近よくテレビや漫画とか、ネット小説とかで見かけたりする、異世界転生モノってやつ?
……まあそんな事は良いや。
そう言えば、俺の名前ってなんだろう。元の世界の名前は……なんだっけ?思い出せないや……。
「ねぇ……俺の名前って、なんだっけ?」
「始祖様の名前は〜……確か――」
「――ヴァイス=ヴァンピーア……だと、古い書物に載っていた」
「そうそう、それ。カッコいいよね〜」
「ヴァイス=ヴァンピーア……それが、この世界での俺の名前か」
ボソッと、俺は小さくそう呟いた。吸血鬼二人には聴こえてないみたいだ。
俺は改めて、吸血鬼二人をよく見てみる。
女吸血鬼は銀の短髪で、毛先に向かって黒色に変わっていってる。髪には、黒色のコウモリの髪飾りを着けている。目は、丸くて可愛い。目の色は血の色よりも深く濃い赤色。顔立ちは整っていて、全体的に可愛い。服は、黒色のゴシックドレスを着ている。
可憐で無邪気な印象を受ける。
男吸血鬼は金の長髪で、毛先に向かって雪のような白色に変わっていってる。髪には、赤色のコウモリの髪飾りをつけている。顔立ちは女吸血鬼と同じ。ただ、全体の印象としてはカッコかわいいって感じ。服は黒色のすごくカッコイイ服。名称が分からないよぉ〜……とにかく、服はただただカッコイイとしか言えない……。
落ち着いていて冷静な印象を受ける。ただ、ぱっと見は完全に女の子だけど。
なんか、二人ともパッと見た感じがお人形さんみたいなんだよね。すごく可愛いけど。そういえば……
「二人は、名前なんて言うの?」
俺は、二人の名前を知らない。だから、聞いてみた。
「僕はシルナ。よろしくね〜始祖様っ!」
元気よく、女吸血鬼――シルナが自己紹介をする。続いて……
「俺はルド……よろしくお願いします、始祖様」
丁寧にお辞儀をして、男吸血鬼――ルドが自己紹介をした。
俺は体を起こして、棺の壁に寄りかかる。
「シルナに、ルドね、よろしく〜。後、名前呼びでいいよ〜。始祖様って、堅苦しいじゃん」
俺はそう言って、シルナとルドに微笑みかける。
「分かった〜よろしくね、ヴァイス様っ!」
ニコッと、可愛い笑顔でシルナはそう言った。
ヤバイ、すごく尊い。
「分かりました。よろしくお願いします、ヴァイス様」
そう言うと同時に丁寧にお辞儀をするルド。
ヤバイ、こっちもすごく尊い。
え、何この子達。尊すぎてヤバイんだけど。え、これ大丈夫?俺の心持つ?
――こうして、久しく眠っていた始祖の吸血鬼は、長い眠りから覚めた。
これからも、始祖吸血鬼改めヴァイス君をどうぞよろしくお願いします。




