びぎにんぐ もしくは チート
───生かせる知識があれば、行くべきは理科室。だがそうでないなら───
「最初の数行で良いんだ! 読んでくれ!」
産まれてこのかた出したことのないような真剣さで俺は赤シャツの目を見つめた。
「お、オゥ」
目を反らしたら負けっぽいので、本を読むという言い訳っぽい態度で彼はページに視線を落とした。
俺の目は二つあるが、カメレオンではないので委員長の方に視線は送れない。
だが、計算通り。
委員長は持ち前の真面目さで赤シャツの後ろから本を読んでくれている。
「あ、あの・・・」
自分達三人以外───教室を飛び出す生徒を制止するという名目で「アメージング!」とか叫んだ先生まで───いなくなったはずの室内からか細い声がする。
見まわす、必要もなかった。
後ろの席で縮こまるように顔の前で拳を震わせた女生徒が一人残っている。
「大郎君、何が起こってるか、分かる、の?」
たどたどしいがきちんと聞こえる小声、という技を彼女が披露する。
・・・はい。スミマセン。
あまりクラスメイトに興味がなかった俺は、この子の名前どころか委員長と赤シャツの名前も知りません・・・。
_∩_
「オレは赤乃上卓だ。ヨロシク、な?」
とりあえず言われたとおり数行、ではなく数ページ読んだ赤シャツが何でこうなった? と首をかしげている。
「自分は四位尊」
委員長の目にはちょっととがめるような色が見える。
たぶん、クラスメイトの名前は初日に覚えるタイプだな、と俺こと大郎束房はしかめそうになる表情筋をなだめた。
「え、たろう君ってつかふさ君だったんだ・・・。あ、わたしは寧々子美春です」
ここにも名前と名字をまちがわれそうな人がいたか。
目を開ければ、腕を組んで「いや、名前はつかふさだから」って何回言ったかなぁとか考えている俺を三人が覗き込んでいた。
「これは興味深いね」
「急がネーとヤベーな」
「・・・?」
本を読んでない寧々子さんはともかく、男二人は今すぐ教室を飛び出して行きそうだ。
「どこまで読んだ?」
「一章目」
「十ページまで」
「なら委員長は家庭科室、赤シャツ君は技術室」
全文読んでいるのは俺しかいない。
二人が飛び出して行くのを見送った俺にも、行くべき所がある。
・・・寧々子さん。何で俺の袖を掴んでいるんですかね?
とりあえず、今日はここまで。
続きはよ! という方。
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