びぎにんぐ
春の空はなんとなくぼーっとしている。
本当にぼーっとしているのは、授業に集中せず窓際の席の恩恵である眺めの良さを楽しんでいる自分なのだが。
ふわーっとあくびを一つ。
入学したの高校の授業はまだ探り探り中学の復習といった具合。
透明なガラスボウルの中にカメラを入れて、上からピンクの色水を流せばそんな風景になるだろう。実際にはありえないその眺めを僕はそう理解しようとしていた。
少子化少子化と叫ぶだけで何もしていない結果、高校入試の倍率は高まった。
おかしな話だと思うが、募集が三クラスが二クラスになったと言われれば納得するしかない。
それまで定員割れで名前を書けば受かると言われていた志望校が、いきなり不合格者を出す普通の高校になったのは受験を控えていた俺にとっては寝耳にミミズな出来事だったが。
はい、そこ。水でしょ? ってツッコむところー。
間違いでも良い。面白ければ。
好きな言葉はげっ歯類。なぜならげっぱの響きが面白いから。ちなみにウサギはげっ歯類ではなくなったらしい。
そんなウサギ好きな高校一年生がこの俺である。
_∩_
「お前、いつも本読んでんな? 何、読んでンだ?」
昼休みにお弁当を食べ終え文庫本を開くと声をかけられた。
顔をあげると制服を着崩した──はっきり言っちゃうとちょっとガラの悪そうな連中のリーダー格が前の机に座っていた。
様々な中学校から集められた生徒が「お前、どこ中よ?」と聞き合う時期は終わっているので、たぶん俺が悪目立ちしていたのだろう。
最近は文章を読む方法も様変わりした。
要はスマホではなく、休み時間ごとに紙の本を開いている俺は少数派だった。
「興味があるなら・・・」「机に座るのはやめたまえ!」
素直に背表紙を見せた俺は、もうどうでも良くなったのだろう。
こちらはピシッと詰襟を止めた委員長が赤シャツとにらみ合い始めた。
ひそひそと話す女子、いや男子もササーっと俺の回りから退避していく。
いや、俺もそちらの輪に加えてもらえませんかね?
机に座るのを咎め立てていた委員長が、午後には率先してそれを破壊し始めるとは、この時誰も考えもしなかった。
_∩_
ちなみに俺はうーん。
五時限目の授業、窓際の席でボーッと雲を眺めながら先生に読む英文を聞き流し、机に座る是非を考える。
わー、わー、わー。
うん、男のケツが載るのは嫌だな。
ワイワイ、ガヤガヤ。
男子高校生として一応のケツ論を出したのはいいが──。
なにやら外が騒がしい。
まだ入学して日の浅い体育の授業は俺のクラスもやった運動能力テスト中のはずだが?
数人ずつ固まった生徒が空を指差している。
そのポーズはとなりの人の肩を叩くたびに「え」とか「わ」とかの発音状態で固定された口の形と共に伝染していった。