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「私、レイヴン様に必要なのはやっぱりお勉強だと思うんです」

「……礼儀作法は学んでいるが」

 飲んでいた紅茶を置いて、口を開いてみれば思っていたよりも不貞腐れた声が出てしまった。ブルーベルはきょとんと目を丸めた後、クスクスと口元を押さえて笑う。

「礼儀作法のことではありません。魔法のことですよ」

「……」

 家庭教師すら恐れ慄いた魔法を、ひけらかすつもりはない。魔力制御の魔鉱石が備わった手首のブレスレットと首のチョーカー、足首のアンクレットをつけてなお、壁が破壊されるほどの魔法を放ててしまうのだ。出来る限り、魔法は使いたくなかった。使わなければ、こちらからは誰も傷つけることはない。

「レイヴン様が怖がるのもわかります。ですが、魔法は生活に必須のもの。逃げていても、いつか使わねばならない日が必ず訪れます」

「……」

「魔力の制御ができないのなら、少しずつ放出する魔力量の制御の練習を致しましょう。私もお手伝いいたします」

「やめておけ、君が怪我をするぞ」

 レイヴンに魔力の制御はできない。通常、幼少期から魔力制御を学ぶはずだったが、レイヴンは泣けば暴風が起き、怒れば何かを破壊した。家具、食器、メイド。何もかも構うことなく、レイヴンの周りを壊し尽くす。

 だから、レイヴンは感情を抑え込むことしか出来なかった。魔法を──魔力を少しでも体外に放出した時誰かを傷つけないことはなかったのだから。

「大丈夫です」

 にこりとブルーベルが微笑む。

「レイヴン様は大丈夫です」

 何故か、ブルーベルの言葉にはそうかもしれないと思わせる力があった。じっと黒い瞳が青い瞳を見つめる。黒と青が混じり合い、決して逸らされることのないそれに最初に音を上げたのはレイヴンだった。

「……わかった。ただし、魔法制御の魔道具は多めにつけておく」

「かしこまりました。ご配慮ありがとうございます」

「できる限り、君を傷つけないようにする。治癒魔法使いも用意できるか皇帝に確認してみる」

 きっと、皇帝は治癒魔法使いをこちらに派遣しないだろう。様々な魔法はあれど、他人を治す治癒魔法使いは貴重な存在だ。そんな存在をわざわざ呼ぶようには思えない。

「三年後には入学もありますし、今のうちに扱えるようになって困ることはないでしょう」

「……そうだな」

 頷いて紅茶を飲む。ミルクも砂糖も入っていない紅茶はレイヴンの舌には苦く、しかし目の前の少女が同じものを顔色変えずに飲んでいることもありメイドを呼ぶこともできない。

「エルガルド嬢はどんな魔法が得意なんだ?」

「私ですか?」

 突然の質問に、気分を害すことなくブルーベルが食べていたマカロンを飲み込んで、片手を上げた。手のひらの上に青く光る陣が浮かび上がり、そこから宙に浮いた水が現れる。球体のそれはくるんっと回った後、ブルーベルのカップの中に落ちた。

「私が得意とする魔法は水魔法です。飲めるんですよ」

「へえ、便利だな」

「ふふっ、そうなんです」

「……やはり、俺達の年齢で得意な魔法もわからないというのはおかしいんだろうな」

 執事やメイドは年齢が離れていてレイヴン自身も同年代と殆ど関わりを持ったことはなかった。じわじわとした焦りがやっとレイヴンの胸にも宿る。そんな様子のレイヴンを見て、ブルーベルが首を横に振った。

「そんなことはありません。得意な魔法とは自分の魔力と波長のあった属性です。私の家系は代々水魔法を得意としていましたから、すぐに覚えたのです」

「…そうか」

「レイヴン様は、自身が魔法を使う時の陣の色は覚えていますか?」

 その言葉に首を傾げた。

「……黒だ。だが、魔法の本に黒の陣についての記載はなかった」

「そうですね。基本の四大元素魔法の色は決まっていますし、治癒魔法の色は白です」

 ブルーベルが使った水魔法は青。火は赤。土は黄色。風は緑。そして、治癒魔法の白。レイヴンが発動させる黒はどれだけ本を漁っても、家庭教師に聞いてもわからなかった。

「……私、思うのですが」

「なんだ?」

「他の色を混ぜ合わせると色は黒になります。だから、レイヴン様は全ての属性を得意としているのではないでしょうか」

 今度はレイヴンが目を丸めた。そんな壮大な魔法使いであればどれだけよかっただろうか。夢のある発言に思わず吹き出した。

「ふ、ふはっふふ」

「わ、笑わないでください!私、真剣に──」

「わかっている。……ありがとう、ブルーベル嬢」

 顔を真っ赤にしたブルーベルに微笑む。それを真正面から受けた彼女はぐっ唇を噛み締め、しかし初めて名前を呼ばれたことに気づいたのだろう、恥ずかしそうに笑った。

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