表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

嫌がらせ

作者: 棚田もち

「お前との婚約は破棄だ」

 通い慣れた王子の私室の一つである青の間に入った途端の台詞に、婚約者である伯爵令嬢ミミアは目を丸くした。


「まあ、いきなりなんですの」

 挨拶する間も無く、王子が詰め寄ってくる。


「マイに嫌がらせしただろう」


『マイ』とは、ここ半年ほど王子が親しくしている子爵家の娘だ。ミミアが王宮に上がる時には、高確率でマイが王子を訪ねて来ているのでそれなりに付き合いはあるが、嫌がらせの心当たりは無かった。


「私はしてません」

「ふん。それはお前が他人にやらせたという自白か?」

 腕組みをした上に鼻を鳴らす品位に欠ける行為に自然と眉根が寄る。

「いえ本当にしていませんよ」


「嘘をつくな! お前、マイの食事に毒を盛っただろう!」

「盛りましたけど、嫌がらせではありません!」

「確かに嫌がらせのレベルを超えている。殺意があった事を認めたな!」

 毒を盛ったとアッサリと肯定され、勢い込んでいた王子は些か拍子抜けするが、追及の手を緩めるつもりはなかった。


「そんな! 違いますっ」


「それだけじゃない。貴様は彼女の乗る馬の鞍に細工をして、事故死を目論んだ」

「事故死だなんて、私はそんな――」

 白くなるほど拳を握りしめ、首を横に振りながら必死に否定しようとするミミアを、王子が遮る。


「既に証拠は上がっているんだ。他にもある。泳げないマイを湖に突き落としただろう。春で幾らか軽装であったとはいえ、ドレスを着た彼女を助けるのは困難で、危ない所だったと聞いている。昼日中の犯行で、目撃した者も多い。これでもまだしらを切る気か!!」


「だって王妃教育だもの!!」ミミアの叫びを聞いた王子の顔がドス黒く染まった。


「お前の王妃教育と、何の関係がある!!」

「彼女が言ったんだもの。これは王妃に必要なものなのよって」

「何故彼女を殺す事が教育に繋がるんだ。マイは関係ないだろう! 王家に暗殺の教育など無いわ! 」

 代わりに行う者がいるので必要ない。


「彼女に責任をなすり付けるつもりか。どこまでも腐った奴だ」

「違います、逆なんです! 私に足りない物を彼女が教えてくれたんです。彼女は恋敵なのに私の為を思って行動してくれた、素敵な人で……だから、殿下はそんな彼女を王妃にしたいんだろうと思って、私、私は彼女がしてくれた事を返そうと思って……だから、だから」


 涙目で言い訳をするミミアの姿は、庇護をそそるものだったのかもしれない。しかし発言内容も支離滅裂で、最初に毒混入の自白を受けた彼が絆されることは無かった。


「……彼女から受けた恩を仇で返した訳か」

「だって、彼女が私に毒を盛ったんだもの!」

「この期に及んで――!」再び王子が激昂する。

「二人きりで話したいって言って、お茶に毒を盛ったんだもの! のたうち回る私に彼女は、これは王妃教育だって、国と王を守る為には毒に慣れなさいって! あと、これで死ぬような妃は必要ないって」


「一体何を……」

 話が理解出来ず、王子の勢いが止まる。


「馬だって、どんな事態にも対処出来ないとダメで、これも経験の内って、落馬して動けない私に言ったんだもの」


 王子の脳裏に、婚約者が落馬した知らせが来た時の事が蘇った。

 その日マイを乗馬に誘ったが、友人と先約があるからと断られ、大人しく執務をこなしているところに一報が入ったのだ。ミミアは友人と一緒だったが、動転した友人が役に立たず、連絡が遅れたと聞いた。

 治療の遅れた彼女は、今でもほんの少し脚を引きずっている。


「湖の事だって私の時は冬で、しかも夜だったわ! 水は冷たくて本当に心臓が止まるかと思った。ドレスは重くて湖に引き摺り込まれるようだったわ。あまりにも辛かったから、彼女は春の暖かい昼間にしたのに!!!」

 絶叫が響き渡り、ドアの向こうは騒がしくなっていた。


 拳を握りしめ、肩で息を切らしていた彼女がポツンと漏らした。


「私、嫌がらせされてたんですの…………?」


「いや、それは殺されそうになってたんだ」






 捜査の結果、子爵令嬢マイは殺人未遂で逮捕された。

 王家の外聞を守る為、王子が婚約者の様子からマイを疑い捜査に一役買った、とされた。

 婚約者であったミミアは、簡単に騙された上に犯罪行為を行った。手習は優秀なれど王子妃には不適格であると上層部に判断され、婚約は解消。彼女は教会へ預けられる事となった。


 教会でシスター見習いとして奉仕に勤しむ彼女は、シスター達にこう言った。


「やっぱり殺そうとしてたなんて大袈裟よね。だってこうして生きているんだもの。アレは、まあちょっとした嫌がらせだったのよ、きっと」

「そうですね。貴方がそのように感じたのなら、それもまた真実であったのだと思いますよ」

 純真な彼女をシスター達はにこやかに見守る。


 この疑う事を知らない令嬢に、自身のとった行動が殺人未遂にあたるという事実は、きっと受け止めきれないだろう。皆は口を噤む。そして一生ここで守って行こうと誓うのだった。

 ミミアの小さな呟きは、誰の耳にも届かなかった。


「だって私が本当に殺そうと思ったのなら、直接首を掻き切ってやるもの」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 面白かったです! テンプレ見せかけでの意外な流れからの、意外なオチ!
[良い点] ミミアの殺意の純度が高くて惚れる。カッコ良い! そりゃ毒とか馬とか池とか児戯にも等しいですわ。 格が違う。 眠れる虎を起こすようなことがなくて本当に良かったですね。王子、お前のことだぞ…
[良い点] 落ちが気持ち良かったです! [一言] ミミアみたいな寛容そうに見えて、怒らせたらいけない人、現実世界にも多分居るなあと思って、怖かったです笑
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ