終話 愛が迫る
梅雨も中ごろの六月半ば。
その放課後。
「吾妻くーん!」
「おお、亜里沙。どうした?」
「先ほどの授業で分からないとこがありまして……」
「いいぞー」
亜里沙はもう人目を気にせず、俺と過ごすようになった。
「ここなんですけど……」
「ああ、ここはな……」
正解を教えていく。
とはいえ、完全に理解しないとお話にならない。
ちゃんと覚えたか、似たような問題を出してやる。
それにもちゃんと答えると、よくやったと頭を撫でることにしていた。
「えへへ……」
幸せそうにする亜里沙。
はぁ、とため息を吐いたのは、何故か俺の教室に遊びに来ているゆずちゃん。
「近いです、亜里沙先輩」
「いいえ、親友ですから!」
「親友程度なら退いてください。こちとら妹ですよ」
「従妹でしょ君……」
血のつながっている妹と、微妙にしか繋がってない従妹の違いは大きい。
なんか、オタク界隈では血のつながった妹こそジャスティスとか、やっぱ義理だよねーとか、そう言う派閥争いが後を絶たない。
可愛ければ何でもいい派の俺的にはどうでもいい。
ゆずちゃんは可愛いので、全然ありだ。
「とりゃーっ!」
有栖先生が飛び乗ってくる。
胸はないけど、体自体はとても柔らかい。
やっぱり、男女は違うんだなあと冷静に思ってしまう。
「せ、先生!?」
「こっちは先生だもんねーだ。あずにゃんに最初に目を付けたの、わたしだし! 譲らないよーっだ」
「む、むぅ……!」「強敵……!」
「あ、貴方たち! 離れなさい!」
そこに現れたのは、我らが冷血爬虫類、郡山先生。
珍しく赤い顔をしながらそう言うものの、有栖先生があっかんべーをする。
「ヤダよー、みーちゃん。ねー、あずにゃんもおっぱい当たって嬉しいでしょー?」
「え、感触がしない……いていて、耳引っ張らないで」
「……」
何故か、恐る恐る、郡山先生が抱き着いて来る。
ふにょん、と柔らかな感触が……。
「……う、嬉しいかしら」
「ど、どしたの、郡山先生」
「美咲よ、私の名前」
「……み、美咲先生」
「よろしい」
「えー、なになにー! あずにゃんほしいのー?」
「妹がこんなのと結婚するくらいなら、私が人身御供になってあげるという話よ」
「お姉さま! 吾妻君を侮辱するのはやめてください!」
「いいえ、郡山先生のは建前ですね」
ゆずちゃんに指摘され、
「……ええ、そうよ! 東雲君、お付き合いをしましょう。大丈夫、私処女だけど都合のいい女でいいから」
やけくそ気味に美咲先生がそうまくしたててくる。
「ええええ!? あんたそんなこと考えてたの!? 相変わらず鉄面皮過ぎんだろ!?」
「そ、そこがチャームポイントよ!」
分かりにくいな!?
「な、何をやってるんですか何を!」
「おお、頼子先生! 助けて! なんでか、修羅場に……!?」
「これから東雲君は、ワタシと少女漫画で語りつくすんです!」
「ら、ライバルですね!?」「頼子ちゃんもかー」「手ごわい相手です……」「…………」
全員が牽制しあってる中、俺は立ち上がってダッシュ。
蒼汰と肩を組んだ。
「うわっ、何だこのハーレム野郎!」
「蒼汰ー! 一緒に逃げようよー!」
「いいじゃねえか、愛が欲しかったんだろテメェ!」
「冷たいこと言うなよー!」
蒼汰は溜息を吐く。
「しゃーねえ。バイクに乗せろよ。ヘルメットは用意してんだろうな」
「予備の持ってるからそれで」
「っしゃ。カフェ行くか。お前のおごりでな」
「ああ、それでいいからさっさと逃げよう!」
待ちなさい! と言われるが、知らんふり。
俺達はさっさとカフェに逃げ込んだ。
「その年で修羅場かい、面白いね」
「いや面白くないっすよマスター!」
「まー、一人を選ばなかったお前のツケだ。せいぜい悩めや」
「うう、蒼汰きゅん冷たい……」
アイスコーヒーを飲みながら、急接近してきた魅力的な女性たちを思い描く。
……。
亜里沙。
美咲先生。
有栖。
ゆずちゃん。
頼子先生。
…………。
……。
「うーん……」
「はは、悩め悩め」
「うむ、ハーレムでもいいんだよ」
「マスター、それ好きっすね……」
答えは、まだ出そうにない。




