十話 誕生日
「お兄さん、誕生日おめでとうございます」
今日が誕生日なのは知っていた。
まぁ、普段は意識しないと思いだせないのだが。俺の誕生日は六月二日なんだけど……。
毎年、ちゃんと当日に思い出せる。
というのも、毎年、兄貴から朝一――日付変更の直後に電話がかかってくるからだ。
翌朝にはプレゼントが届いているのも毎年恒例。今年は、プラチナで出来た月の形のループタイだった。
藤間学園は基本的にネクタイだが、ループタイでも代用可能。
であるからして、今日はループタイで通っていたのだ。
今に戻るが、放課後。
わざわざ、ゆずちゃんが教室にまでやってきて、おめでとうを言いながら小包を渡してきたのだ。
「へー、何? 開けていい? ていうか開けるよ」
「相変わらず容赦ないですね」
開けてみると、バイクのグローブのようだった。
「おお、ありがとうゆずちゃん! 使わせてもらうよ!」
「ええ、そのために選びましたから」
「あれ? こんにちは、柚葉ちゃん」
「こんにちは、亜里沙先輩」
「あれ、なぜプレゼントを?」
「ああ、今日俺の誕生日なんだ……ってあれ。どうしたの、亜里沙。顔が青ざめてるけど」
「ご、ごご、ごめんなさい吾妻君! わたくし、知らなくて……!」
「いいよ別に。言ってないんだし」
「いいえ、わたくしの気が収まりません! ど、どうか、夜に! 夜にお時間をください!」
「あ、ああ。そりゃ構わないけど……」
走り去っていってしまった。元気なようで何よりだ。
入れ替わるように、有栖先生と頼子先生がやってくる。
「やっほー、あずにゃん。はい、お誕生日プレゼント。ホントは生徒には渡さないんだけど、あずにゃんはトクベツ」
「あざーっす! ……うわ、可愛いマグカップ! 嬉しいなぁ!」
ネコの尻尾の形をした取っ手に、黒猫がプリントされてるマグカップを頂いた。
包装を綺麗にもどして、鞄の中に入れる。
「大事にするよ、有栖先生!
「ん! 大事にして。頼子ちゃんからもあるよ!」
「はい、どうぞ。大したものではありませんが……」
「ん? なんだろう……」
封筒だった。
中身は――綺麗な、金色の四葉のクローバーの栞が。
「おお、きれー! 可愛いじゃん、これ! ありがたく使うよ、頼子先生!」
「お気に召したなら、良かったです。ケーキも焼いていますから、帰ったら届けますね」
「いやー、何から何まですみません……。ゆずちゃんは、十一月六日」
「はい」
「有栖先生は八月の十六日」
「うん」
「んで頼子先生は三月三日」
「は、はい。よくご存じですね」
「まぁ、楽しみにしといてください」
数少ない交友関係だ、せめて誕生日くらいは把握して祝いたい。
「どうせならあずにゃんの家でパーティしようよ!」
「そうですね。お買い物、東雲君手伝ってくださいますか?」
「いえ、兄の代わりに妹が手伝います。主賓を手伝わせるわけには……」
「まぁ、ありがとうございます、椎名さん」
「いやー、こんなに賑やかなの、いつぶりだろう」
思い出せもしないな。
そりゃそうだ、そんな記憶ないもの。
我ながら寂しい人生だな、と思うが、別にいい。今日祝ってもらえるんだから。
「では、あずにゃんの家へレッツラゴー!」
「おー! って、俺は先に帰って掃除してるから……」
「あ、そうだった。あずにゃんバイクだったね」
「じゃあ三人で買い物行きましょうか」
「うん!」
……掃除しよう。
そりゃいつも割かし綺麗に使ってるけど、気合を入れて掃除する機会がなかったからな。
いい機会だ。
「ふっふっふ、ピッカピカってレベルじゃねえな……キランキランだ!」
いつもの部屋が輝いて見えるぜ!
と、インターホンが鳴る。
「へいへーい」
三人かな、と思ったら。
二人だった。
しかも予想していなかった二人だ。
「あれ? 郡山先生に、亜里沙? 家、知ってたっけ」
「愚問ね。教師だから、生徒の個人情報なんて余裕で見れるわ」
うわぉ、なんか怖い。
「まま、上がってください」
「ええ。お邪魔します」
「お邪魔しまーす!」
亜里沙と郡山先生が上がってくる。
「へえ、割と綺麗なのね」
「まぁね」
「というわけで、プレゼントです!」
「え、何かな?」
差し出されたプレゼントを開けてみる。
……。
有名ブランドの紅茶セットだった。
「わたくしの一番好きな銘柄にしました!」
「おお、ありがと! 亜里沙の好みがわかりそうで嬉しいよ!」
「えへへ……」
「はい、東雲君。私からも」
「おりょ、珍しいですね。こういうのは渡さないと思ってましたけど」
「貴方には色々あるし、一番近い生徒だもの。祝うくらいはするわ」
そう言う風に思ってくれてたのか。
さー、なんだろなー。
……。
「アマズンギフト券、一万円ぶん」
「これで好きなものを買いなさい」
「まぁ、ある意味もらう人のことを一番考えてるプレゼントっすね! ありがとうございます、大事に使うっす! エロゲーでも買おうかなー」
「そ、そんな使い方はあんまりじゃないかしら!?」
「冗談ですよー! いやぁ、嬉しいなぁ!」
「そう? 貴方なら結構祝われてきたんじゃないの?」
「兄貴になら。家族以外で祝われるのって、実は初めてだったりするんです」
「うん、私もそうだったわ」
「わたくしもです」
なんだ、似た者同士だったのか。
「ちなみに、郡山先生は九月二十一日、亜里沙は十一月十一日」
「!?」
「え、あの、ご存じなのですか、わたくし達の誕生日……」
「そらまぁ、親しい人たちですし。ウザいくらい祝うんで、覚悟しといてくださいね!」
「……ええ。わかったわ」
「はい!」
その後、買い物を済ませた有栖先生達と一緒に、深夜までバカ騒ぎしていた。
みんなが帰った後、何故かノックの音が聞こえた。
「はーい。ってあら、郡山先生」
「忘れ物をしたのよ」
「言えば届けるのに」
「主賓にそんなことさせられないわ。あった、これよ」
「……ケータイっすか。気づかなかった……」
気づけよ、俺。
「……あ、あの」
「なんすか?」
「……亜里沙の事、好きなの?」
また直球だな。
でも、いい機会だ。ちゃんと答えておこう。
「可愛いとは思うけど、明確な恋なのかどうか、まだわかんないんだ。告白されてドキッとしたけど、あれ以来、心が熱くなる感覚がまだ戻ってこない」
「そう」
「で、それが何か――」
いきなりだ。
唇を、奪われていた。
郡山先生の、甘い体臭が鼻孔を抜けていく。
淡い色の唇が離れていく。
「……熱くなったかしら」
無言でうなずくしかなかった。
亜里沙からされた告白と同様に、気持ちが上がって、熱くなってくる。
「……わ、私、ヘタレだから、今日はここまでで。この続きは……もっと、仲良くなってからよ」
「い、いいんすか、妹の好きな人で……教師と生徒で……」
「知らないわ、そんなの」
突っ込みを入れる余裕もなく。
出て行った郡山先生を見送って、その場にへたり込んだ。
「……いきなりは、反則でしょ……」
今夜は、寝れるだろうか。




