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清潔のスキル

三日経った。


比較的この状況に馴染んでいる佐藤君や一番強いスキルに目覚めた龍鵞(りゅうが)君。

そして万年学年トップ、文句無しの才女である副委員長に僕の代わりにクラスメイト達を引っ張ってもらうお願いを終えてから馬車に揺られて、やっとのこと件のお姫様のお屋敷に着いたらしい。


彩飾からしてかなり高級な馬車を宛がって貰ったのは分かるけど、ショクアブソーバなんてないものだから兎に角揺れが酷くて、ごわごわとしたソファーで寝泊まりしたせいか、身体はカチコチだ。


「主どの。警護は某に任せて欲しいでごさるよ」


僕の肩には、《忍者》というスキルに目覚めた黒髪ロングの子こと、出席番号9番の黒野(くろの)風夏(ふうか)さんから『影分身』からの『小型化』という重ね技で小さくなった護衛がついている。

僕の握り拳ぐらいしか大きさはないけど、これでもドラゴンを瞬殺出来るぐらいには強いそうだ。


何それチート。と佐藤君が呆然と呟いていたのは印象的だった。

佐藤君は佐藤君で《深淵の魔術師》というその気になれば昼を夜にしたり、炎や竜巻とか十分派手なスキルを持っていたが、それなりに体力を消費するそうで、反対に影分身は発動に多少面倒な行程を挟まないといけないものの、無制限に出来るというから佐藤君の言葉にも納得である。

それでも、完全に弱点がないわけではないらしく強い衝撃や一定量ダメージを受けると消滅してしまうらしい。


「張り切りでごさるよー!」


影分身の黒野さん。記憶や経験は全く同じらしいが影黒野さんはオリジナルのような穏やかさとは正反対の性格をしている。

黒野さんはこんな彼女を恥ずかしそうにしていたが、普段はあまり口を開かない黒野さんがこうも元気一杯だと新鮮で会話も弾むものだから旅の間は退屈しなかった。


僕は気付かれると不味いからあんまり大きな声を出さないように影黒野さんに注意して、前方の屋敷を見上げる。


「でっかいでござるな。副委員長のお屋敷よりも大きいのではないでごさるか?」


そう言えば、黒野さんは副委員長の家に行ったことがあるんだっけ……。


副委員長は有名財閥のお嬢様だったから、それなりのお屋敷に住んでいるとは噂に聞いていたが、それよりも上なのか。


「どうぞ、此方でおくつろぎ下さい」


流石、異世界。と感心する間もなく、通された少し埃っぽい部屋に数度咳き込む。


着いた日時が深夜だったこともあって、当主であられるお姫様は就寝なさった後らしい。

僕は住み込みのメイド達が休めるようにと本館から離れた場所に建てられている別館の一室を借りて今日はもう休むことになった。


「ごほっ、ごほっ……それにしても、ごほっ。ここで寝るのはちょっと無理があるかな……ごほっ」


「大丈夫でごさるか……?」


こう見えて僕は体が弱い。小さい頃は喘息持ちだったし、ハウスダストアレルギーのせいで、生活スペースの掃除は欠かせなかった。

この世界の病原菌に対して勇者は免疫があるという話だったが、流石に持病等が克服される都合のいい話ではないようだ。


「ほら、主どの。外の空気を吸うでござる」


ゴホゴホと咳き込む自分を見かねて、飛び出した影黒野さんは窓を開けて手招きする。


僕は有り難く招かれて外の空気を吸うが、心持ちが少し楽になったものの、咳は止まらなかった。


「むっ、どうしようでごさる……」


空気清浄機でもあれば少しは変わるんだけど、と無い物ねだりをしてふと思い出す。

戦闘スキルではないから皆との訓練で試したことはなかったけど、僕のスキルは《清潔》は正にこういう時の為に用意されたものではないか。


「主どのはスキルを使いたいのでごさるか?」


影黒野さんに使い方を聞けば、強く願って適当な単語を呟けば、自ずと頭に正しい使い方が浮かんでくるという話なので、それにあやかって早速試してみる。


「――――お掃除開始」


その瞬間、僕の体が発光した。







「………………あれ?」


体が一瞬光ったと思ったらそれだけだった。

佐藤君のように倦怠感を感じたり、黒野さんのように頭に使い方は浮かばない。

まさか、失敗したのだろうかと影黒野さんの方に視線を向けると、「ふへー、まるでモデルハウスに来たみたいでありますよ」


ピカピカの室内。


「主殿の、スキルは凄いでごさるな、このシーツだってしわくちゃで黄ばんでいたのに、見て下され!新品同様でごさる」

シミ所かシワ一つないシーツを広げで、瞳を真ん丸と感心していた。


「これが僕のスキルなんだね」


いつの間にか咳は止まっていた。


長い間使われていなかったのか窓際の縁のササクレや水アカのこびりついた窓。埃を豊潤に含んだマットレス。

それらがまるで、真新しい物にすげ替えたように輝いている。


《清潔》確かに戦闘向きではないけど、これはこれで充分チートだと終夜は思う。


日本ならどれほど重宝されるだろうか。

少なくとも清掃業においては引く手が止まないに違いないと、小さくほそくんだ。


(まぁ日本にこれが持ち帰れたらの話だけど……。)


当分の目標は僕らが日本に帰れる確証を得ることと、此方の世界での生存権を得ること。

皆が危険な戦場で頑張っているんだ、僕も頑張りなきゃ。


「明日に備えて今日は寝ようか」


「了解でごさる!」


ふわふわのベッドで眠りにつく。

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