やったぜ!
「は?」
30人ほどの異世界人
そのまとめ役と思わしき少年の言葉に王は間抜けな声を漏らす。
執事として雇うか
だと…?
戦争の道具でしかない『※※』を何故後方に置かなければならない。大臣の言ったように“人質”としてならまだしも、ある程度の自由が許される執事などに…
素人の浅知恵か?
王は、逃亡を図る浅ましい犯罪者を見るような目で少年を見つめる。
ーーしかし
殺伐とした空気が流れる中、少年は誰よりも前に出て堂々と胸を張り
そしてーー笑っていた。
「……!」
頬が震え、膝は笑っている。
それが虚勢の笑みであることなど見て明らかだった。
それでこそ王は衝撃を受ける。
「(恐怖はないと)」
その瞳に、少年の心に恐怖はなく、迷いなき信念を持って私を一国の王を見つめていたのだ。
身一つで投げ出され、武装する兵士の中心で出来る心構えとしては“異常”過ぎる。
「面白い。」
先の言葉を受け入れるは兎も角、王は少年に興味を持った。少なくとも彼の話を聞いても良い。それぐらいには気を許した。
「発言を許そう異世界人、勇者の気風を持つものよ。」
「王よ、一つ提案があります。僕を執事として雇う気はありませんか?」
数秒の沈黙
王は深い笑みを浮かべて告げた。
「発言を許そう異世界人、勇者の気風を持つものよ。」
僕は視線を王に向けたまま視野に収まる範囲で判断する。
ゴミでも見るような冷たい視線からひとまず“王に興味を抱かせた人間”ぐらいの印象アップは狙えただろうか?
驚いたように、慌てて剣から手を離す兵士達を尻目にホッと息をつく。
一先ず第一関門は達成…ここからは舌戦か。
それとも、自己PR『面接』に近いかな?
王が承諾すればこの場は収まり拒否なら血で血を洗う戦場に、、、
いや、どんなブラック企業だよ
あぁ、胃が痛い。
この試練を乗り越えた後、胃薬を貰おうと誓う終夜であった。
では、命がけの演説を始めさせてもらいましょう。
「まず、僕たちに備わった勇者としての能力。これは非常に強力です。」
体感では、調子が良い時の数十倍....ヒグマを殴り殺せるレベルだ。
これだけで十分な戦力となる。
「スキルの向き不向きあれど前線に立つには何の障害もありません。」
しかし、それは兵士だった場合である。
戦争のない平和な世界で育った僕たちには、圧倒的に覚悟が足りない。
佐藤軍は微妙なところだけど…僕たちが『人が死ぬ』そんな光景を目をすれば激しく動揺するだろう。
そこを敵は突いてくる。
…ただ身体能力が高いだけの“人”はそこまで役に立たない、下手をしたら味方に迷惑をかけるだけだ。
「“覚悟”が足りない。そんな僕たちを勇者へと押し上げる力、それが『スキル』
僕はハズレでしたが、例えば龍鵞君の《龍人化》は鋼のような硬さと身体能力を数百倍に引き上げるとか。」
不思議なことに支援・回復系のスキルを持った者はおらず、皆ガチガチの戦闘系スキル(僕を除く)だった。
それも超強力だ。使いこなせば万軍を相手取る事も、戦場で棒立ちになろうとも傷一つ負う事もないだろう。
王が勇者が死ぬ筈ないと思い込んでいた理由も伺える。
これは、死ぬ方がおかしい。
それまでに圧倒的に強い。
「ここにいる皆様は、そんな僕たちが、この国に牙を剥く可能性を考えーーあぁ、そうか彼らが一番信頼している人間を人質に取れば何も出来ないに違いない。幸いソイツは我らでも抑えれるほど強さのようだ。ーー極めて合理的な考えに思い至った。」
“恐れている”とは口にせず、あくまで合理的であると相手を持ち上げる。
「ですが、それでは僕たちの信用を完全に失います。何かの手違いで僕が死んだり、何らかの方法で僕が救い出されれば、どうなりますかね?」
複数の息を飲む声が聞こえた。
想像したのだろう。
万軍を相手取る勇者が復讐の魔王と化して自分達に牙を剥く光景を。
「それを防ぐ為の、執事。ある程度の自由が許されたしかし、貴族位の高い人の下につくことで、仕方なく、人としての尊厳を踏みにじらない程度に行動を制限出来る。素晴らしい意見だとは思いませんか?」
貴族位が高い人というのは、情報を探る上での僕なりの我儘だが…さて彼らはどうでるか。
機嫌をとって僕の意見を丸呑みするか、条件を加えた上での納得か、僕なんかじゃ思いつかない新たな提案を寄越すか、はたまた強行手段に及ぶか。
どの道、僕の最善手は打ち終わった。
結果がどう運ぶかはまさに運次第
誰も言葉を発せないまま沈黙の時が流れる。
…
……
…………
「ーーあははは!」
広い室内に突然響く、笑い声。とても機嫌の良さそうに笑う男はーー王様だった。
人を平気で殺しそうな面構えをしていたものだから、その変わりようにクラスメイト達は目を白黒させる。
だが、終夜はただ一人。兵士達を含む煌びやかな衣装を着た彼らの空気が明らかに“緩んだ”ことを敏感に感じ取った。
「面白い、面白いぞ!貴様名前は何と言う?」
「鬼将 終夜です。」
「シュウヤか!我を前にして臆せぬ度胸気に入った。」
そして、王はゆっくりと立ち上がった。
「聞けーーガナム・ユグドラシルの名において宣言する。シュウヤを我が妹イリスの筆頭執事とする!」
この瞬間、僕は公爵家王位継承権4位イリス・ユグドラシル様の専属執事になった。