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噂ですか?

 次の日、ワイバーンはあっさりと見つかり、というよりワイバーンの方からハルトたちを襲ってきて、昼頃には難なく倒してしまい、クエスト内容のワイバーンの瞳も無事手に入れることができた。


 Bランクの魔物は小さな村であれば簡単に壊滅させられるような、一歩間違えれば災害とも言えるが、ハルトたちにとっては強敵ではない。油断はもちろんできないが、普段通りの戦術で戦えば、怪我ひとつなく倒すことができる。


 謎のパーティーバフ。正直、前例がなく、何が原因で起きているのか分からないため、一応パーティーバフという名目でハルトたちは呼んでいる。ハルト、マナツ、ユキオ、モミジの四人が一定の距離にいるときに発動するものであり、基礎的な筋力、瞬発力などが大幅に上昇し、魔力でさえも増幅する。

 共通する点は、四人の職業が全員魔剣士だということ。あとはパーティーを追放された者の集まりということだけだ。しかし、ギルドマスターの実験によって、前者は否定され、後者も追放された者たちでパーティーを組んだのはハルトたちだけではなく、ハルトたち以外のパーティーにはこの力は発揮されていない。


 同じ職業でパーティーを組むことは邪道だ。というのも、前衛だらけのパーティーになってしまえば、火力が足りず、後衛だらけのパーティーならば守りが手薄になってしまうからだ。

 しかし、前衛も後衛も()()こなすことのできる唯一の職業が、何を隠そう魔剣士なのである。とはいっても魔剣士の純粋な利点というのは、ポジションに縛られないという一点のみである。

 前衛も後衛も中途半端。メイン火力にはなれず、メインタンクにもなれない、いわゆるお荷物職業である。


 まあ、お荷物職業であったが故に今の仲間と出会えた。そして、大切なものを護るだけの力も得ることができた。そう考えると、魔剣士であったことに感謝するべきではないだろうか。


 そんなことを考えているうちにソーサルへと着いた。もう既に街は暗闇に包まれていた。

 中央通りを通り過ぎ、ギルドへと向かう。ギルドに併設されている酒場の席とりを三人に任せ、ハルトはクエストの完了報告を行う。いつもならば、職員の受付嬢が対応をしてくれるのだが、なぜかこの日はギルドマスターであるロイドが直々に対応をした。


 ロイドは手渡したワイバーンの瞳をまじまじと見ている。見ているというよりは鑑定している、という表現の方が正しいかもしれない。品定めしているような、そんなイメージだ。


「ふむ、よいだろう。クエスト完了だ」


 ハルトの目の前に、報酬である十三万ガロがドサっと積まれる。


「ありがとうございます。でも、なぜギルドマスターがわざわざ対応してくださったんですか?」


 ロイドはワイバーンの瞳を手元で凍らせながら、チラッとハルトを見る。


「これは、少し大事な儀式みたいなものに使う品らしくてな」


「……らしい?」


「あぁ、大本の依頼主は国の重鎮だ。なぜ、ワイバーンの瞳なんぞ欲しがるのかは分からんが、他にも色々と各地から魔物の素材を集めておるようじゃな。ワシは儀式に使う、としか知らされとらん」


 ちょうど魔法を終え、ワイバーンの瞳がカチコチに冷凍保存されると、ロイドは踵を返し、そそくさとギルドの奥へと行ってしまった。


 国が魔物の素材を集めている。ロイドの様子を見る限り、長く生き、多くの経験を積んだ彼でも予想がつかないようだ。最近の出来事と何か関係があるのだろうか。


 考えたところで答えは出まい。なんせ、ハルトはそこそこの数いるBランク冒険者のうちの一人でしかないのだから。


 卓に置き去りにされたガロをそそくさ袋に詰め、三人の元へと向かう。既に卓上には木樽のジョッキに注がれた醸造酒や、肉魚などの料理が並んでいた。


 積もる話がないような、あるような、微妙な感じではあるが、ひとまず乾杯をして、腹をある程度満たす。その間も相変わらずたわいない話を重ねる。


「それで、国のお偉いさんが魔物の素材を集めてんだってさ。ギルドマスター曰く、なんかの儀式に使われるらしいけど」


 度数の高い蒸留酒をちびちび飲みながら、語った。見ると、マナツもユキオも頬が若干赤らんでいる。多分、ハルトも赤くなっているだろう。モミジはいつも通り、というべきだろうか、あまりペースが早くないのでまだケロリとしている。


「儀式ねぇ……。んー全く想像もつかないなぁ」

 

 マナツの声はやけに大きい。容姿に似合わない豪快な飲みっぷりで、酒樽を空にする様はやっぱり男勝りだ。


「儀式って、魔法なのかな? だとしたら、何かの召喚とか?」


「魔物の素材を使って、魔物を召喚するんだとしたら、聞いたことある……と思う。魔導師でたまに召喚魔法を使える人がいるらしい……。召喚魔法で召喚された魔物は使役できるらしいけど、召喚魔法には触媒が必要になるって聞いたから、もしかしたらそれのための素材なのかな……」


 でも、だとしたら儀式なんて言い方するのだろうか。普通に召喚魔法のための素材と伝えるのではないだろうか。それに、国が集めている素材はいずれもBランク以上の魔物の素材だ。

 召喚魔法を見たことはないが、それだけ高ランクの素材を使うということは、召喚されるものも高ランクになるだろう。


 ふと、後ろの卓の会話が耳に入って来た。酒場は狭く、卓と卓の距離はかなり近いため、否が応でも会話が耳に入って来てしまう。先ほどまでは意識してそちらに耳を向けないようにしていたのだが、不意に気になる単語が聞こえたのだ。


「あくまで噂だけどもよ、人体錬成らしいぜ」


 思わず振り返ってしまった。幸い、後ろの席の冒険者はハルトに目もくれなかった。


「人体錬成だぁ? んなことできっかよ。噂だ、噂」


「で、でもよ、最近明らかに怪しいじゃん。よくわかんねー素材集めるクエストたくさん見るし」


 人体錬成……? つまり、人を生み出すということだろうか。もしくは――人を召喚する……?

 

「なーに、あの会話。アホらし……」


 マナツが横目でハルトの後ろを見ながら呟いた。


「で、でも魔物が召喚できるなら、人を召喚できてもおかしくはないような……」


 そういうモミジも疑問を口にしただけで、人体錬成について信じている様子ではない。


 というか、そもそも人を召喚することに何の意味があるのだろうか。奴隷にする? 戦わせる? まぁ、大方思いつくのはこんなところだ。

 魔物を召喚させることについては特に何も感じずに、人を召喚することについては禁忌なように思えてしまうのは、果たしてエゴなのだろうか。


「ほーら、ハルト! もうそろそろ帰ろーよ!」


 呼びかけられ、我に返る。


 まだジョッキに半分ほど残った蒸留酒を一気に煽って、立ち上がる。


 口の中に苦味が充満した。

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