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バカですか?

 少しだけ、いや猛烈に予想外だった。そもそもこんな裏路地で、偶然死にそうな時に偶然助けてもらうなんて意味がわからない。


 ハルトは荒れ狂う脳内を放棄し、ただただ目の前のテンプルナイトを眺めた。金色の短髪で細い目をしている。首と手元には、動くたびにジャラジャラとけたたましいアクセサリーを身につけ、細身のレイピアを携え、金の箔をところどころに(あしら)ったフルプレートに身を包んでいた。騎士を思わせる風貌だが、いかんせんアクセサリーが邪魔すぎる。完全にミスマッチでしかない。あと、うるさいし。


 彼はハルトを見た瞬間、何かを恨めしむような、少しだけ嫌な顔を見せた。しかし、数拍おいて頭を大きく振ると、ハルトのよく知る彼に変わった。


「……あれれー? なんか死にそうな人を助けたら、ハルトくんじゃーん。あれでしょ。マナツのとこのリーダーさん。いやー偶然偶然。ベリーベリー偶然!」


「いや、本当に助かったよ。スミノ。でも、なんでこんなところに?」


 スミノはレイピアをくるくると手元で回し、少しだけ考えるようなそぶりをとった。


「いやいやホントに偶然! ……って言いたいところだけど、実はハルトっちを尾けてきたんだよねぇ。たまたま路地入ってくの見えたからさー。俺ちゃんも仲間とはぐれちゃってたから、まぁ尾いてくかーくらいのテンションでふらふらーとね」


「……はあ? 物好きなの?」


「いやいやー尾いてきたのにはちゃんとした理由があるんよー。だって俺、デッドリーパーと戦うハルトっち見てたもん。ライズさんのパーティーを颯爽と助けたときは、俺ちゃんビックリボンボンだったわー!」


 デッドリーパーの戦いをあの場で見ていたのは、門兵くらいだと思っていたが、まさかスミノが見ていたとは予想外だ。そもそも、スミノは若干、というかかなり苦手だ。独特の明るいオーラがなんとも鼻につく。隠キャなハルトからすると、どうにも取っつきにくい。


「ふーん……。じゃ、俺行くわ。助けてくれてありがとな」


「ちょちょーい! それで終わり!? もうちょっとなんか、ほら! 会話! コミュニケーション!」


「うーん……。俺、お前のこと苦手なんだよなぁ。前もマナツにちょっかい出してたし。そもそも性格が無理だし……」


「うっはー! 辛辣! 俺っち泣くよ? 泣いちゃうよ? というか、マナツのことに関しては許してほしーっつーか、むしろ協力してほしい? 的な?」


 支離滅裂に聞こえるのは自分だけだろうか。許して欲しくて、かつ協力してほしいは結びつかないと思うんだが……。


「いやいやーだって俺っち、マナツのことずっと好きでさー。やっぱり? パーティー的に追放ってカタチになっちゃったわけだけど、どうしてもこう、ときめくっていうか! 見ていると意地悪したくなるっていうか! あっ、ハルトっちも男ならわかるよねー? うんうん!」


 ……何を言っているのだろうか。

 奇妙に身をくねらせる騎士は、過去の愚行をちょっかいの類だというのだ。まぁ、確かに少しからかわれて反応したのはマナツだけども。いや、そもそもそれ以前にマナツのことを好いていることに驚きだ。


「うん……? たぶん、マナツはスミノのことかなり嫌っていると思うけど……」


「うそ! わっつ???? どうして!!」


 気が付いていないということに驚くというよりは、呆れた。少しだけ取っつきやすくなったのは内緒だが……。


 要するにチャラいだけのやつだと思っていたが、チャラくて、なおかつバカなのである。それも、かなりのバカ。もちろん、ハルトの中で印象は百八十度変わった。苦手は苦手だけども……。


 ひとまず、先を急ぐことにした。ようやく落ち着いた脳で冷静に考えると、アホみたいな恋愛話に惚けている暇はない。もちろん、スミノもしっかりとハルトの後ろに追随している。

 苦手といえど、個人技の得意なテンプルナイトが一緒に行動してくれることは、非常にありがたい。


 道中、ゴブリンもどきと、蜘蛛を想像させる魔物であるポイズンスパーに出くわすが、二人になったことで難なく突破。ものの十分でギルドの裏手までたどり着くことができた。


 息の詰まる細道を抜け、ひらけたギルド裏手に出ると、やはりいくばくかの冒険者が立ち往生していた。皆、同じことを考えて人の少ない道を辿ってギルドの裏手までやってきたのだろう。ギルドの門は開いている。しかし、ここで道草を食っている人たちは、ハルト同様に仲間を待っているのだろう。


「おりょ?? 俺ちゃんの仲間みっけー! そんじゃ、ハルトっちここでばいにゃらー! あっ、さっき言ったマナツのこと考えといてねーん」


「それは無理。助けてもらったことには感謝するけど、マナツの件に関しては無理」


「うっひょー! てっきびしー!」


 スミノの走る方向に目を向けると、ハルトよりも体格の良い女性と、凄まじい猫背で肩までつきそうな長い髪の男性がいた。ハルトは軽く会釈をすると、しっかりと返してくれた。どうやらスミノと同じような種の人間ではないようだ。


「さて、みんなは……まだ来てなさそうだな」


 少し、先に誰かが待っていてくれれば、という淡い期待も虚しく、目指した通りハルトは一番乗りでギルドまでたどり着いた。

 もちろん、ギルドまで来たからとはいえ、油断はできない。魔物は街中に散らばり、もちろんここにもくるのだから。先ほどから端のほうでは、魔物とバチバチやりあっている冒険者がいる。しかし、さすがはここまで残って来た冒険者だ。難なく魔物をねじ伏せている。


 ギルドの裏手に到着し、五分ほど経過した。依然、三人の姿は見えない。もしかしたらギルドの中に既にいるのではないかと思い、確認してみるも、それらしき人物は見当たらなかった。

 ついでに慌ただしく駆け回る職員に話を聞くが、現在ギルドマスターと街の領主、それと貴族たちが会議をしており、それが終わるまでは指示の出しようがないらしい。


 さらに十分が経過。徐々に嫌な想像が胸を支配し始めた。

 もしかしたら、また人を助けて遅くなっているだけ? それとも迷った? ……何か起きている?


 胸のざわつきが治らない。挙動不審のごとく視線を左右に揺らし、三人を探すが、見当たらない。


 今すぐ駆け出して、みんなを探しに行きたい気持ちを必死に押さえつける。


「ハルトくん……?」


 不意に声をかけられ、体がびくりと硬直する。声の主を確認した瞬間、思わず力が抜けた。ほんっっっっとによかった。


「モミジ……!」


 彼女は乱れた髪を思い出したかのように急いで整え、ホッと息をついた。


「ハルトくん、早かったね。私、ちょっと魔物に苦戦しちゃって……」


 よくみると、身につけた黒と紫のローブはところどころ破けている。外傷がないだけで、相当激しく戦ったのだろう。


「いやいや、俺は道すがらの冒険者に助けてもらったから早かっただけで、今来たばっかりだから」


 よくわからない嘘を付く。


「そうなんだ……マナツとユキオくんはまだ?」


「ああ……。二人とも無事だといいん――ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッッッッッ――――――――ンン!!


 不意をついたように絶望がもう一度、街を襲った。

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