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理解はしていませんが?

「さて、それじゃ説明してもらおうか」


 大理石のロングテーブルの上席に座り、長い白髭を執拗に触るギルドマスターの一言で事情聴取が始まった。

 ギルドマスターは大きな魔女帽子を深々と被り、紫色のローブに身を包んでいる。温厚な見た目ではあるが、昔はAランク冒険者の偉大な魔法使いであった。

 ライズのパーティーメンバーであるイアンもAランク冒険者ではあるが、全盛期のギルドマスターに比べると少しだけ見劣りするらしい。


 ギルドマスターから見て右手には右手にはライズのパーティーメンバー、そして左手にはハルトたち四人が座っている。

 

 冒険者であれば誰もが知っている面々に囲まれ、ハルトは肝を冷やす。縦横無尽に駆け回る視線を横に向けると、同じく視線をうろつかせる三人の姿があった。


 視線を前方に移すと、腕を組んで目をつぶるライズの姿があった。その横にはハルトたちと同じように体を小さくしているイアン、頭の後ろに両手を組み、ふんぞり返るヤヒロ、そしてこちらを妖艶なほほえみで見つめるコマチ。


 先入観というわけではないが、四者それぞれバラバラに見えるが、どこか完成されつくされた雰囲気を醸し出している。


 ライズが立ち上がる。黒と赤のロングコートが少しなびく。


「事の発端は四日前になります。Cランク冒険者のパーティーが、暗躍の森にて準災害級魔物――デッドリーパーと遭遇。交戦を繰り広げ、一名の剣士職の冒険者以外の三名は殉職。その後、彼らDランク冒険者パーティーが合流、デッドリーパーと交戦。交戦中、もう一体のデッドリーパーが出現しましたが、二者共に彼らが単独撃破。我々のパーティーは彼らの街までの護衛、負傷者の治療のみを遂行しました」


 ライズは一通り説明し終えると、気怠そうに席に着きなおす。その様子を見てヤヒロが笑いを我慢する。


「ふむ、デッドリーパーは歴史上一体しか確認されていなかったが、よもや二体目が出現するとは。一体目のデッドリーパーは深淵の谷底に封印されていた個体なのかね?」


「調査班の報告によると、深淵の谷底の封印は何者かによって解除されており、デッドリーパーの姿も見当たらなかったということですので、おそらく同一個体ではないかと推測します」


 ギルドマスターは「なるほど」と呟くと、ハルトたち四人を一人ずつ眺める。


「それで、出現したデッドリーパー二体をそちらのDランクパーティーが単独撃破か……。俄かに信じられない話ではあるが」


 ハルトは思わず下を向く。嫌味というわけではないだろう。どう考えてもデッドリーパーをDランクのパーティーが倒せるはずがない。相手は国を滅ぼすだけの力を持った魔物なのだから。


「それに関しましては、我々が直接撃破する瞬間を目にしています。しかし、使用された魔法が今までに見たことのないものでした。この件に関してはイアンの方が詳しいでしょう」


 ライズはイアンに顔を向け、顎で説明するように促す。


「は、はい! すいません……」


 白衣を着たイアンは眼鏡を指で直しながら、あたふたした様子で立ち上がる。


「え、えっと、おそらく使用された魔法に関してはライトニングですが、魔法の規模が奇妙でした。その……一発の落雷に留まらず、推定二十ほどの落雷がデッドリーパー目掛けて放たれていました。私の魔力でも二発同時発動が限界であるため、実際に見た身でも信じられないです。はい、すいません」


「ライトニングか……。私の魔力でも四発が限界だが、果たしてどの人がライトニングを詠唱したのですかな?」


 ハルトはモミジに目を向ける。彼女は既に立ち上がり、話始めようとしていた。


「ライトニングを使用したのは私です。魔剣士職のモミジと言います。でも、その……実は魔法を詠唱したところまでは覚えているんですけど、実際に発動したときのことはあんまり覚えていません……」


 ギルドマスターは首をかしげる。モミジをじっと見つめ、何やら考え事をしているようにも見える。


「彼女は無意識化で魔法を発動していたと思われます。ライトニング発動直前に仲間の一人が負傷。そのショックで記憶の混濁が確認されています。実際、私が止めるまでは彼女は魔力を解き放ち続けていました」


 ギルドの応接間に「ふーむ……」というため息にも近いうなり声だけが響く。皆、一様にギルドマスターを見守る。

 ギルドマスターは目をつぶり、お手上げといったように首を振る。


「理解できんな。しかし、イアンや私以上の魔力を彼女は備えているということは事実だ。それほどの冒険者がいたという事実は、今日の今まで私の耳に入ってこなかった。しかも、聞けばDランクだというじゃないか」

 ギルドマスターは椅子に立てかけた樫の木の杖に手をかけ、続ける。

「して、君たちのパーティーのリーダーは誰かね?」


 下を向き続けていたハルトは、ふと自分に視線が集まっていることに気が付く。


 ――え? 俺?


 恐る恐る立ち上がり、ギルドマスターに向き直る。


「えっと、ハルトと言います。冒険者職業は魔剣士です」


「君たちのパーティーは彼女の魔力について理解していたのかね」


 少し、考える。理解は……していない。


「えっと、理解と言いますか、魔力に関しては四人とも同じくらいだと思います。とは言っても、四人が一定の距離に集まっていないと魔力が下がります。ちなみに自分たちのパーティーは全員魔剣士です」


 マナツとユキオが無言でうなずく。

 ギルドマスターは眉間を抑え、疲れたようにテーブルに肘をつく。


「魔力が瞬間的に増減するなど、聞いたことがない。このところのディザスターの異常事態といい、君たちのパーティーといい、問題が一気に増えすぎだな」


「はぁ、すいません……」


「いや、いいんだ。これに関しては冒険者の新しい大きな発見になるかもしれないんじゃからな。とりあえず、もう少しくわし――」


 突然、応接間のドアが勢いよく開く。一同、視線がドアから慌てて入ってくる受付嬢に集中する。


「なんじゃ、今重要な話をしている最中なんだがね」


 受付嬢は乱れた髪もお構いなしに息を整える。


「も、申し訳ありません。しかし、南門にデッドリーパーが出現しました――!」

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