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死線


 「ひゃわぁぁぁっ!!!!」


 予想外の出来事が起こりました! 林の中に魔物が溢れています。

以前来た時はまったくみかけなかったのに、訳がわかりません。

頭がふたつある狼、ソーングラスを大きくしたような魔物、

巨大なリスの形をした魔物などなど。


 数が少ないうちはなんとか立ち回れても、

三匹、四匹と同時に出てこられると逃げるしかありません。

逃げ足の速さもこう木々が立ち並んでいたら活かすことができません。


 段々と追い詰められ、今は絶体絶命のピンチに陥ってしまっています。

巨大な芋虫のような魔物が三体こちらにジリジリと近寄ってきています。

三方逃げ場はありません。

私の背は大きな木の幹に当たっていて、後ろに逃げることもできません。


 この芋虫のような魔物…見た目よりも硬くて私の剣だと弾かれてしまいます。

こんなはずじゃなかったのに…

順調に町で暮らせていたことで慢心してしまった報いなんでしょうか。

これならまだ奴隷にされたほうがよかったかも…。

でも、このままむざむざ死ぬつもりもありません!

せめて最後まであがいてみるつもりです。

せっかく女神さまに加護を頂いたのに…。申し訳ないですね。


 あっ、昨日貰った緊急の時に使ってと言われたブローチ!

肌身はださず持っています! 使い方が良く分からないですけど、

とにかく助けを願って強く握りしめます。

目の前には芋虫の魔物が…どうか…どうかササナさん…助けて…!


 右手に剣を構え、左手でブローチを握り締め覚悟を決めました。

せめて一体だけでも道連れにします。


 そんな決意をした私の前に天空から光が差し込みました。


 これは!? あぁ…やっぱり女神さまなんだ…

私は確信を持って光の中に浮かび上がる姿を見つめます。

それは神々しいローブに身を包み、

荘厳な装飾のされた杖を持ったササナさんでした。


 



 「メルシャちゃん大丈夫!?」


 緊急招集の求めに応じて駆けつけた私の目に飛び込んできたのは、

三体のポイズンクロウラーと土下座しているメルシャちゃんの姿だった。

どうして土下座しているのかわからないけど、

この魔物に襲われてたのは間違いなさそう。

ポイズンクロウラーはレベル15の魔物。

メルシャちゃんはおそらくレベルが一桁。とてもじゃないけど勝てる相手ではないわね。


 「アッシュ!」


 短縮詠唱で魔法を唱える。

杖から迸る魔力光がポイズンクロウラーに触れると、一瞬で三体とも灰へと変わる。


 「ふぅ、もう大丈夫よ」


 近くに他の魔物がいないことを確認して戦闘態勢を解く。

それにしても…この林はパーティならともかく

ソロで来るならレベル20は必要になる場所。

開始して四日目で来るには無茶にもほどがあるわ。

レベル30までは死亡したとしてもペナルティが科せられないけど、

VRMMOが初めてだと魔物に倒されるのはかなりの恐怖だろうし…。


 事実顔を上げたメルシャちゃんは若干涙ぐんでいる。

この追い詰められた状況がどれだけ恐怖だったか

それだけでわかるわね。


 「もう安心して。ほら…そんな格好してないでちゃんとたって」


 「は、はい。助けていただいてありがとうございます」


 ようやく笑顔がでてきたわね。

それにしてもどうしてこんな場所まで来ていたのか…

ここの魔物がどれだけ強いのか教えてあげる必要があるわね。

もうこんな無茶をさせないようにも。


 「実は…この間来た時には魔物がいなくて…」


 話を聞くと、ここに来たのは二回目みたい。

魔物がいなかったというのはどういうことかしら…

運よく遭わないというほどこの林の魔物は少なくはない…とすると

ちょうど誰かが狩りをしていて枯渇した直後というのが一番可能性がありそうかな。


 「それで水辺で水浴びをしたくて…」


 「水辺!? メリオシュ湖のこと? あそこは推奨レベル30よ。 

メルシャちゃんにはまだ無理だわ」


 メルシャちゃんじゃどう考えても死にに行くようなものね。

下手したら一撃で戦闘不能になるかもしれない。というか水浴び? 


 「はい、さっぱりしたくて…」


 さっぱり…? たしかに本物の水を触っているようなのに

濡れないというちょっと不思議な体験ができるけど…

その為にこんな危険を冒すのは賛成できない。


 「水なら町にもあるし、そっちじゃ駄目なの?」


 そう言うと愕然とした顔を見せるメルシャちゃん。えっ…知らなかったの?


 「町の中央には噴水があるし。

まぁ水浴びのようなことがしたかったらちょっと人目に付きすぎるかもしれないけど…。

 うーん…クランハウスに招待するって手もあるかなぁ…」


 町の中央にある噴水は進入可能になっているので、ふざけて飛びこむ人も多い。

ただメルシャちゃんの格好だと透けてしまうから

変態を呼び寄せてしまう可能性が高い。いえ、100%呼び寄せるわね…。

クランハウスの設備の一つに温泉がある。

もちろん擬似的な物だけど、気分はリフレッシュ出来る気がするから

メルシャちゃんの求めているものはこっちのほうかもしれない。

ただ私の一存じゃクランハウスに招待はできないのよね。リーダーの許可を貰わないと。


 ただ今回はラセムの実の入手方法を聞くという目的があるし、

リーダーも快く許可をしてくれそうかな。

っとちょうどタイミングよくリーダーからメッセージが届く。

慌てて転移したから、理由を伝える暇もなかったんだよね。


 「ちょっと待っててね」


 「はい」


 メルシャちゃんに一言ことわってリーダーとメッセージのやり取りを行う。

うんうん予想通りすぐに許可がでたわ。


 「いまから私達の仲間のところに移動するけどいいかしら? 

 メルシャちゃんがあまりたくさんの人と会うのが苦手だったら

 無理にとは言わないけど」


 こんなところまで一人で来るくらいだし、あまりパーティを組みたくないのかもしれない。

それだと大勢で囲んでしまうと怖がらせちゃいそうだし…。

私が悩んでいると少し思案した後にメルシャちゃんは行きますと言ってくれた。


 「ありがとう。それじゃあメルシャちゃんを一時的に

 クランハウスに招待するわね。私の手を握ってもらえるかな」


 そう言って手を差し出すと、おずおずとした様子で握り返してくる。

うわぁ…小さい手。思わず頬ずり…っと危ない危ない。


 「それじゃ行くわね。…帰還」


 私が短く言葉を放つと、瞬時にクランハウスへと移動した。






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