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激闘


 いよいよ今日から人間の町での生活が始まります。

その前に昨日の夜また驚いたことがありました。

この町、夜になっても人が凄く多いんです。

故郷の村は暗くなるとみんな家の中に入って、

静かに過ごしていましたけどこの町は夜でも人が走っています。

灯りが多いので問題はないんでしょうけど、眠くはならないんでしょうか?


 もし昼とは違う人達が走っているんだとすると、この町はかなり人口が多いと思います。

宿を取れて本当によかったなぁと思いつつ、二度寝しました。

今朝は久しぶりに爽やかな朝を迎えることが出来ました。



 朝食は残念ながら頼むことができませんでした。

どうやら宿泊一回につき食事も一回ついてくるようです。

それでもかなり安いです。

受付の人に予約したいと伝えましたけど、

残念ながら予約は受け付けていないそうです。

これだけ安いなら当然かなと思いましたけど、

どうやら予約しなくてもいつでも部屋は空いているとのことでした。

これはひょっとしてVIP待遇というやつでしょうか?

故郷の村にも隣の森の村長が尋ねて来た時に、

VIP待遇という言葉が使われていました。

ひょっとして私がエルフだから…? 油断させて奴隷に…?



 ちょっと悩みましたけど、

こんな良い宿は他にないかもしれないのでこの宿を使う事に決めました。

こんな美味しいご飯を食べさせてくれるなら奴隷でもいいかな…

なんてことはこれっぽっちも考えてはいないです。本当です。

朝食がないので仕方なくラセムをかじります。

正直ちょっとこの果物飽きてきてます。



 宿を出て冒険者ギルドに向かいます。

やっぱりちゃんと収入が確保できないと不安ですから。

相変わらずギルドは人の出入りが激しいです。

まだ朝早いと思いますけど、人間は働き者ですね。

依頼が表示されている掲示板へ行くと光る文字が。

もうこの魔法にも慣れたものです。私は右へ左へと依頼を見て回ります。

ちょっと…もうちょっと低い位置に表示してくれてると助かるんですけど…。


 それでも私が出来そうな依頼を見つけました。

ソーングラスの討伐。これです。

ソーングラスというのは植物の魔物です。

刺がついた緑のもじゃもじゃした塊で、故郷の森でもよく見かけました。

この魔物は狩りの獲物である動物を食べてしまうので、

定期的に討伐を行う必要がありました。

繁殖力が高くて、討伐しても討伐してもすぐに増えるのが難点ですけど、

倒すのはそれほど難しくはない魔物です。

依頼は10体討伐するごとに報酬が支払われると書いてあります。

刺か何かを持って帰るんでしょうか? 

他に討伐の証になるようなものは思いつかないですね。

とにかく点滅している文字を押して、依頼を受けます。


 依頼は一度に五種類まで受けられるみたいですけど、

最初はそんな余裕はないですね。

とにかくソーングラス討伐を第一に考えるべきです。

ソーングラスは森だけでなく平原にも現れます。

依頼内容は町周辺のと書いてあったので、

町の周囲の平原を見て回れば遭遇できそうです。

ソーングラスくらいなら今装備しているものだけでも問題ないですね。

さっそく街の外へと向かう事にします。



 門番さんに挨拶をすると、元気よく挨拶を返してくれました。

昨日と同じ人みたいですね。顔見知りになれてよかったです。



 さて…ソーングラスですけど…探す必要がありませんでした。

見渡す限り至る所に蠢いています。

町に来た時こんなにいたっけ…? 

見た記憶がないですけど、急に発生したんでしょうか。

ともかく近くのソーングラスから手当たり次第に倒すことにしましょうか。

私は愛用のショートソードを構えます。

ソーングラスが私を獲物と勘違いしたのか、ズリズリと近寄ってきます。

格好の的ですね。草を刈り取るように、水平に薙ぎ払います。

スパっと両断されるソーングラス。

ふふん。こう見えて剣には自信があります。

弓矢の扱いは苦手でしたけど、剣の扱いなら村でも三本の指に入ると自負してますから。

村では剣を使う者がほとんどいなかったですけど…。


 「あれっ!?」


 倒したソーングラスが一瞬光ったかと思うと消え去りました。

後には小さな刺がひとつ。

こんなことは初めてです。倒したソーングラスは通常なら

普通の草のようになりその場に残ります。

消えるなんてこと…ひょっとして神話に出てくる浄化の力!?

浄化の力とは魔物を光に変えて消滅させるという、女神さまの持つ力のことです。

もしかして女神さまの使いの方が知らない間に加護を…?


 それで思い出しました。カバンの中に…あった! 

女神さまの使いの方から頂いたポーションです。

たしか狩りの前に飲むと良いといわれてましたね。

せっかくなので使わせていただくことにします。

味は…特にないですね。苦くはないので飲みにくくはありません。

んっ…なんだか…身体の底から…力が漲ってきます!

これがポーションの力でしょうか。今ならドラゴンとも戦える気がします。

いえそれは言いすぎですね。オークくらいなら倒せそうな気がします。


 オークの前にソーングラスでした。探す手間はないですから、

手当たり次第に倒していくことにします。今ならいくらでも倒せそうです。


倒すたびにソーングラスが光になって刺を一つ落とします。

これなら何体倒したかわかりやすいですね。

見渡すと私と同じようにソーングラスと戦ってる人がちらほらいます。

ふふん、負けていられませんね。最初は十体を目標にしていましたけど、

こうなったら倒せるだけ倒すことにします。

この平原のソーングラスを全討伐しちゃいましょうか!



 あれから一時間くらいはたっていると思います。ソーングラスが減りません。

おかしいなと思って様子を見ていると、

ソーングラスが何もないところから突然発生していました。

これじゃあ減らないわけです。

魔物が突然発生するなんて神話でしか聞いたことがありません。

なんでも高位の魔族は魔物を生み出すことが出来たそうですけど…

この町は魔族に狙われているのでしょうか?

それなら女神さまの使いの方がいらっしゃった理由も説明がつきます。

最初に訪れた人間の町がいきなり神話に語られる神魔の戦いの舞台とは思いませんでした。

ちょっと来る町を間違ったかもしれません…。

とはいえ女神さまの加護を受けたのですから、やるべきことはやり遂げて見せます。


 私は小休止をとってから、もう一時間ほどソーングラスと死闘を繰り広げ続けました。



 疲れたので討伐をきりあげて冒険者ギルドに戻ります。

私のカバンには刺が三十個ほど入っています。

村でもこんなに倒したことはありません。

ポーションと女神さまの加護のおかげですね。

でも心配もあります。仕事を始めたばかりでこれほどの成果を上げると、

色々と変な輩に目をつけられるのではないかという事です。

村にいた時に聞かされました。人間社会であまり目立つ行動はとらないようにと。

下手に目立ってしまうと奴隷にされてしまうよと忠告されました。

やっぱり奴隷は嫌です。

でも力ある者が目立ってしまうのはどうしようもないことなのかもしれません。

自分の実力がこんなところで裏目に出てしまいました。



 「はい、討伐完了ですね。おめでとうございます。

 こちらは報酬の600エリンになります。

 またよろしくお願いしますね」


 受付の人に刺を渡すと笑顔でお礼と報酬金を頂きました。


 「……」


 あれ? これで終わり? 

あっ、次の人の相手をしていますね。これで終わりのようです。

なんだか思っていたのと違いました。

どうやら私の成果はそんなに珍しいものではないみたいです。

うん…思ったよりもお金が稼げて良かったなぁと思う事にします。


 とはいえこれで町で暮らしていく目処は立ちました。

泊る場所、食事、生活費を稼ぐ。

あとはお金を貯めてもっと良い装備を手に入れて、さらに強さを極めることにします。

魔法の習得もしないといけないですね。転移の魔法はぜひ覚えてみたいです。

あっ、忘れていました。水浴び!

私達エルフは汗をかきにくい体質とはいえ、やっぱりさっぱりしたいですね。


 「すみません、水浴び出来る場所ってどこかありませんか?」


 宿の人は知らなかったですけど、ギルドの受付の人なら知ってるかもしれません。


 「水浴びですか? ……」


 なんだか固まってしまいました。宿の人と同じように知らないのかもしれません。

諦めかけてると、突然受付の人が動きだしました。


 「該当する依頼にメリオシュ湖のアクアローパー討伐があります。

 こちらはメルシャ様のランク的にまだ受けることができません。申し訳ありません」


 なぜ水浴びで魔物の討伐依頼なのかわからないですけど、

とにかく湖があるのがわかればこっちのものです。

場所だけを聞いて午後から向かう事にします。

少し距離がありましたけど、夕方までには行って戻ってこれそうです。




 「おい…聞いたか…」


 「おう、バッチリ聞こえましたよ。うひひ…」


 「メリオシュ湖っていってたな。ちょっと先回りしておこうぜ」


 「了解…」


 不穏な二人組が足早に冒険者ギルドをあとにした。

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