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安らぎ


 ギルド…ギルド…


 私は走り抜ける人を横目に町を歩きます。

私以外は歩いている人がいないんじゃないでしょうか…。

中には残像を残しつつ移動する人もいます。

これほど町が活発なら人間が繁栄するのも理解できます。

でも息切れしないのか心配ですね。


 かと思えば町にはところどころ光る文字を出して立ったままの人もいます。

挨拶をしても何の反応もないので、眠っているのかもしれません。

しばらく歩くとようやく目的地のギルドに到着しました。

かなり大きな建物です。それと頻繁に人が出入りしています。たまに突然消える人もいます。

転移の魔法のオンパレードです。私もこの町にいればいつか使えるようになるんでしょうか?

その時は故郷のエルフの村に転移してみんなを驚かせたいですね。


 「ほわぁぁ…」


 建物の中に入ると、その人の多さに驚かされました。

この町に入ってから驚かされてばかりの気もしますけど。

とにかく見渡す限り人人人。人間以外にも多種多様な種族がいます。

耳の形から同じエルフも見つけることが出来ました。ドワーフや獣人の方たち。

見た事のない種族の方もいます。これが全員ここで仕事を受けに来ているのだとすると…

私の仕事はないかもしれません。

とにかく受付の人のところに向かう事にします。



 「すみません、こちらで仕事を探してるんですけど」


 初めての方はこちらという看板がでているので、迷うことなくそこに行きます。

他の受付は混んでいるのに、ここだけ誰も並んでいません。ちょっとラッキーです。


 「ようこそ冒険者ギルドへ。初めての方ですね。まずはギルドの説明をお聞きになりますか?」


 当然お願いします。こんなに親切に説明してくれるなんて人間の町はすごく親切です。

奴隷なんて話も実は嘘なんじゃないかなと思いますね。

途中よくわからない言葉が幾つも出てきたのでそのたびに尋ねましたけど、

そのたびに詳しく説明してくれました。

その説明もまたよくわからない言葉がありましたけど…。

とりあえず手順的には壁にある依頼を見て、受ける場合はOKを押すと受けられるという事でした。

たしかOKは点滅している文字を押す事でしたっけ。女神さまの使いの方から教えられたばかりですね。


 とにかく仕事自体はたくさんあって、

条件的に受けられないものはあっても枯渇するようなことはなさそうなので安心しました。

どちらにしてもそろそろ夕方…今から町の外に行くのは賢明ではないでしょう。

まずは泊れる場所を探してそれから食事をして休息をとることにします。

最近は野宿ばかりで疲労もたまってますし…。



 宿の場所を受付の人に聞いて向かう事にします。

町の中は先ほどよりも人が多くなってきています。

夕方になって外に出かけていた人達が帰ってきているんでしょうか。

宿が取れるかちょっと心配になってきます。最悪町の中で野宿をしないといけないかもしれません。

魔物に怯える必要が無いだけ、ましだと思いますけど。


 宿を見て愕然としました。もっと大きい建物と思っていたんですけど、すごく小さい。

これじゃあ数人泊ったらいっぱいになってしまいそうです。もうすでに満員かもしれません。

とはいえ他の場所も知らないので、駄目もとでお願いしようと思います。

最悪倉庫にでも寝させてもらえると良いんですけど…。



 「いらっしゃいませ!」


 宿屋に入ると元気な声が飛んできました。あれ? ひょっとして空いてる?


 「すみません、こちらで泊りたいんですけど部屋は空いてるでしょうか?」


 「はい! 休息ですね。30エリンになります」


 30エリン!? 安い! ちなみに私達の村に宿はないので比較はできないですけど、

森で採ってくるラセムという果実がひとつ5エリンで売れます。

六玉取ってきたらここで一泊できます。

だいたい一日で十二から十五は取れるので、ここで二泊はできます。

ちなみにいざという時の為にカバンに六個ほど入ってます。

もし食事をとれなければ、またこれをかじるしかありません。


 手持ちはコツコツと貯めた800エリンあるので、しばらくは困らないかもしれません。

もちろん食費とかもあるので、依頼をうけないわけにはいかないですけど。

私はすぐさま泊る旨を伝えます。


 「あと食事をとりたいんですけど、近くに食事出来る場所はありますか?」


 「はい、当宿でも基本的なステータス効果の食事はご準備しております。

 部屋にあるメニューからご注文いただけます」


 基本的なステータス? よくわからないですけど、食事もこの宿でとれるんですね。

至れり尽くせりとはこういう事を言うんでしょうか。ともかくありがたいです。


 「あと水浴びもしたいんですけど、近くで水浴び出来る場所はありますか?」


 ……あれ? 反応がない?

 

 「あの…」


 「申し訳ありません。こちらでは対処できかねます」


 宿の人もしらないのかな? 

うーん…できれば水浴びしてさっぱりとしたかったけど、仕方ないです。

最悪どこか泉か川を探すしか…。人間は水浴びの習慣がないのかもしれないですし…。

とにかく泊る場所と食事はどうにかなったので、それだけでも安心ですね。

私はさっそく部屋へと向かう事にしました。



 「はわぁぁ…」


 また情けない声を出してしまいました。というのも部屋がすごく綺麗。

建物の外からはそう見えませんでしたけど、実はすごく大きな建物なのかもしれません。

ベッドも三つあります。三人部屋だとすると納得の広さですね。


 光る文字を探してさっそく食事注文をすることにします。

この光る文字が様々な用件を伝える魔法なんだというのは、なんとなくわかってきました。

私も使えるようになるといいんですけど…。


 メニューは文字は読めても意味が分からないものが多くありました。

人間とエルフとでは食習慣が違うから当たり前かもしれません。



・アーレス定食Aセット(生命力ボーナス)

・アーレス定食Bセット(魔道力ボーナス)

・アーレス串カツセット(筋力ボーナス)

・アーレス焼き鳥セット(敏捷ボーナス)

・アーレス点心セット(魔力ボーナス)

・アーレスドルチェ(運ボーナス)



 とりあえず定食セットというので良いんでしょうか…。

その横のボーナスというものの意味がわからないですけど、

ひょっとしたらそういう栄養素が含まれているのかもしれません。

とりあえず定食Aセットを押してみます。その瞬間テーブルの上に料理が現れます!

 

 「す、すごい!」


 今までで一番の驚きかもしれません。

食事が一瞬で現れるなんて、どういった仕組みなんでしょうか。

文字を押すと転移魔法が発動? でも一瞬で作り終わるなんてすごいです。


 「た、食べても良いのかな…」


 お金は宿泊代に含まれているのでしょうか…。

それだとどう考えても料金が安すぎる気が…。

とはいえ後で請求されるとしても、

宿泊代よりは高くなることはないと思いますし…頂くことにします!


 味は思っていた以上に美味しかったです。

じっくりと幸せを噛みしめながら、心行くまで味わいました。

ああ、これだけでも村を出てきてよかったなぁと思います。

幸福に包まれたまま、私はベッドに横になります。

心地良い疲労から、すぐに眠りが訪れました。



 「何をやってるんだ?」


 クランハウスに現れた大柄な男ハウルは、

部屋の中で戦いを繰り広げているササナとアリオンを見て疲れたような声を放つ。

とはいってもクランハウスで定期的に発生していることなので、

とくに注意することもなかった。


 「後はタビコだけか。リリーフとアンズはまだインしていないようだな」


 「リーダーおはよう。アンズは今日はインできないみたい」

 

 タビコがササナとアリオンとの観戦に飽きてハウルの元にやってくる。


 「そうか。まぁそれならしかたない。ところであの二人はなんで戦ってるんだ?」


 「ササナが新規の可愛い子を見つけて、

 それを見に行こうとしたアリオンを妨害したから…かな?」


 「しょうもないことで戦ってるな。まぁいつものことと言えばいつものことか…」


 「そだねー」


 「おい、タビコ! お前も一緒に妨害してただろうが! 何自分は無関係を装ってるんだよ!」


 アリオンがササナの魔法を捌きながらタビコに吠える。

もちろんタビコは聞こえないふりを続ける。


 「しかし新規か…。四日前に新規キャンペーンが終わったばかりなのに、時期的にもったいないな」


 新規キャンペーンでは初期に有用なアイテムセットの他に5000エリンが配布されるという

メルシャが聞けば卒倒しそうな内容だった。どちらにしてもメルシャは貰う事が出来なかったが。



 「それよりも三日後に始まるクラン対抗戦の対策を考える必要があるな。

 リリーフが来たらそれの話をしよう」


 ドサッとソファに身体をあずけてハウルがタビコに伝える。


 「もうそんな時期なんだねー。今回はどんなルールになるのかもうわかった?」


 クラン対抗戦とは各クランが様々な条件で順位を競うと言うもの。

その時々でルールは変わり、ある魔物の討伐数を競うと言った単純なものから

特定のアイテムを集めてくる物だったり、

変わったものだと各クランから一名着飾ってエントリーして

投票で人気を競うというものなどもあった。


 「ああ、クランリーダー宛てに運営から通知が来ていた。今回は…ラセム集めだ」


 「へぇラセム集めかぁ。……ラセムって何?」


 「わからん」


 ハウルとタビコはラセムが何なのか…まったく見当がつかなかった。

古参といわれる二人が分からないアイテム…

二人はそれぞれにラセムが何なのか思案し続けた。


 





 

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