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女神との邂逅


 一瞬びっくりしました。まさかいきなり捕まって奴隷に!? 

でもここなら門番さんがいるからきっと大丈夫。


 私はおそるおそる後ろを振り返りました。

そこには女神さまがいました。


 「こ、こんにちは」

 

 とりあえずなんとか挨拶を返せました。

女神さまというのは誇張でもなんでもなく、まさに女神さまでした。

頭には輝くミスリル細工のような冠が乗っています。

黒い髪が長く伸びて風にサラサラとそよいでいます。

顔だちも気品があります。私達エルフが人間にとって美しいというなら、

この方も間違いなく美しいと思います。


 でも驚いたのはその服装。まるで神話に出てくるような厳かなローブ。

ところどころ露出した肌がすごく艶やかです。

手にはこれまた神話に出てくるような、鳥や竜を模った装飾がついた立派な杖があります。

そして全身から淡い光が放たれています。

まさに天上から降りてきたといっても過言はありません。


 「あ…あの…女神さまですか…?」


 つい口にしてしまいました。女神さまに確認するようなことを言うなんて、

すごく不敬だと言ってから気が付きました。

神罰怖いです。ごめんなさい、ごめんなさい。


 ですが、その言葉に目の前の女神さまは噴き出します。


 「め、女神!? いやいや、違うよ。あっ、身に着けているのが女神の聖ローブだからかな」


 どうやら女神さまのローブを身に着けているけど女神さまではないようです。

女神さまの使いの方なのかもしれません。

目の前の使いの方はなんだか顔が赤いです。でもそれもなんだか色っぽいような気がします。

ところで女神さまの使いの方がどうして私の前に現れたんでしょうか?

とくに神罰が下るようなことはしていないと思いますけど…。


 「さっき門番と会話してるの見てたんだけど、ひょっとして新規の方かしら?」


 新規? 新しく町に来た人という意味でしょうか? 

だとすればその通りですね。私は肯定します。


 「やっぱり! 門番にお辞儀をかえすなんて、

 この手のタイプのも初めてじゃないかなって思ったのよね。

 最近大型アプデがあったから、それで始めたのかなって思ったんだ」


 大型アプデ? 聞いたことが無いですけど…何かお祭りのようなものなんでしょうか…


 「祭りといえば祭りね。二年ぶりの大型アプデだったし」


 二年ぶり…たしかにそれは盛大な祭りになりそうですね。

私達の村では一年に三回祭りがありましたけど、

それでも普段よりは賑やかでしたし。

その祭りでこの町にやってくる人が増えたという事でしょうか。


 「それにしても本当に新規の人なんだねぇ。なんだか懐かしいなぁ」


 女神さまの使いの方が私を見てなんだか懐かしんでいます。

年齢は少し上くらいだと思いますけど、

きっと女神さまの使いなだけに見た目以上に年上に違いありません。


 「そうそう、これ差し上げるわ。初心者の頃は便利だと思うから使って頂戴」


 そう言って突然目の前に光る文字が浮き上がりました。何が何だかよくわかりません。


 「あっ、トレードのやり方がまだよくわからないのかな。

 その点滅している文字を押すとOKの合図だよ」


 とりあえず言葉に従って点滅している文字をおそるおそる触れてみます。

その瞬間、私のカバンが少し重くなりました。


 「え? これっていったい…」


 私がカバンの中を見ると、小さな瓶に入った赤い液体が何本か見えます。

全部で…十本入っています。


 「再生効果+能力上昇効果のポーションだよ。狩りに行く前に飲んでおくと便利だから使ってね」


 そんなポーション村でも村に来る商人の人からも聞いたことありません。

傷を癒すポーションでも結構高価です。


 「こんな高価なもの頂いていいんでしょうか?」


 きっと商人の人に売れば、しばらく働かなくても生活できるくらいのお金が得られると思います。

もちろん神罰が怖いのでそんなことしませんけど。


 「新規の人みかけたらついサービスしちゃうのよ。私の勝手な自己満足だから気にしないで」


 そう言ってにっこりと微笑んでくれます。

町に来る方みんなにこんな施しをしているなんて…

もうこの方が女神さまでいいんじゃないかなぁ…。


 「ありがとうございます。大事に使わせていただきます」


 もったいなくて飲まずにずっと飾ってそうですけど。

でも使わないとそれはそれで神罰が…ううっ、悩みますね。


 「ふふっ、それじゃあ楽しんでね」


 そう言って女神さまの使いの方は文字通りその場から消え去りました。

転移の魔法というものでしょうか。

村の最長老でも使えないほどの高位の魔法。

それをあっさりと使いこなす女神さまの使いに驚くとともに

御名前を聞いておけばよかったと少し後悔しました。




 「おっ、ササナえらく機嫌がいいじゃん。何かレアドロップ出た?」


 クランハウスへ現れたササナへ同じメンバーのアリオンが声をかける。


 「何も出なかったよ。それよりも新規さんを見かけてそれがもう可愛くってね」


 「えっ、新規さんですか? セカンドとかサードじゃなくて?」


 ササナの言葉にもう一人いたクランメンバーのタビコが反応する。

このゲームが開始してもう五年がたっている。

最近大型アプデがあったとはいえ、新規プレイヤーを見かけることは少なくなってきていた。


 「門番にお辞儀をかえしてたし、話をして見た感じロールしてるようでもなかったのよね」


 「ああ、返した返した。俺も最初の頃はNPC相手に頭さげまくってたよ」


 「懐かしいですねぇ。これじゃなくて別ゲーからこの手のタイプは始めましたけど、

 本当に人間と変わらないですからね」


 アリオンとタビコがそれぞれ懐かしむ顔をする。

ササナを含めてこのクランのメンバーもほとんどが古参と呼ばれている。

それぞれがゲームを始めた頃を思い出す。人工知能の進化とともに、

NPCとの会話もまるで人と話すような錯覚に陥る。

VRMMOを始めたプレイヤーが最初に驚くのがそれだろう。


 「そういや可愛いって具体的にどんなかんじだった?」


 アリオンが鼻息荒くササナに尋ねる。アリオンは男。ササナとタビコは女。

ササナとタビコは少し冷たい目でアリオンを見つめる。


 「な、なんだよぉ。可愛いって聞くと気になるのが男の性ってもんだぜ」


 このゲームはある程度カスタマイズできるものの、

外見はほぼ現実世界と似た容姿になる。

ゲームによってはプライバシーの面からまったく違う外見になるものもあるが、

このゲームでは自分自身が冒険を行っているというのがコンセプトにあった。

ゲーム内のキャプチャ画像もエフェクトがかかっているものの、

実際に自分自身の姿で魔物と戦う姿が映し出されている。

素顔を晒すのが嫌いな人はフルフェイスの兜や様々な動物を模した被りモノを着たりしていたが。


 「なんていうか…ほんとうに純真なかんじなんだよね。エルフの種族だったけど、

 ひょっとしたら外国の人かハーフなのかも。控えめに言って天使かな」


 「そんなにですか。ちなみに控えめに言わなかったら?」


 「大天使」


 「そこまで言われたら見たいじゃねぇかよ! 

 まだ門番のとこにいるんだよな? ちょっと行ってくる!」


 アリオンは猛スピードでクランハウスを出ていこうとする。

残念ながらクランハウスに戻るのに転移は使えるが、

出るにはクランハウスの玄関からしかでられない。


 「タビコ、アリオンを抑えて!」


 「了解ですよ!」


 「おいっ!? はなせ、はなせーー」


 二人の展開する魔法の鎖に縛られて、アリオンは身動きが取れない。


 「あの子が視線だけで汚されちゃうじゃない」


 ササナとタビコの妨害によって、

アリオンがクランハウスを出て門番のところに駆けつけた頃にはメルシャの姿はなかった。


 

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