7話 歳の差。
時刻は1時15分。
アーシュの「なんでやねん」の叫びが湖に響いた。
僕の心に歩み寄ってくるアーシュ。
そんな彼女と一緒にいると「ある計画」も実行しづらい。
『さて、一旦悩みは置いとこか』
『マジシャンがそんなことで良いんですか?』
『ゆっくり話そうって言うたやろ?』
『確かに言ってましたけど』
『暗い話ばかりやったらあかんで!盛り上がっていこうや!』
アーシュはそう言って両手を夜空に突き上げた。
何とも…
何を考えているかわからないというか、マイペースというか、楽天家の様な彼女。
それでいて、時に鋭い指摘をしてきて僕の心を震わせる。
そんな彼女に僕は…
『そういえば、あんたって歳いくつなんや?』
『僕の歳は19…じゃなくて20歳です』
『えらい、若いな。…食べ頃やないの///』
『えっ!?』
今、「食べ頃」と言ったのか?
待て待て待て!
落ち着け。
人魚と人間が交わることができるかということよりも、アーシュが痴女だったことに驚いた。
この容姿で痴女とは…///
『その~、まだ僕、経験がなくて///』
『わかった!こうしよか!うちがあんたの悩みを解決したる!その代わりうちにあんたを「食べさせてな」///』
『食べる…///まぁ~はい。悩みを解決してもらって、食べられるなんてなお、元気になりま…す』
『やった!約束やで///』
約束してしまった。
もう「あの計画」を実行しなくとも良いのでは?と本能が問いかけてきたが、すぐに僕の理性が本能を押さえつけた。
ここまで来て簡単に曲げられない。
『そういえば、僕のことを若いって言いましたがアーシュも僕と同じぐらいの年齢ではないんですか?』
『もしかして、うちのこと20歳前後やと思ってくれとんの?』
『容姿的にそれぐらいかと』
『もう嬉しいわ~、うちもまだまだ若いちゅーことやな』
『うん?20歳前後じゃないんですか?』
『220歳や』
『220歳!?』
僕の驚いた反応に便乗してか、湖の周りの木々が風で大きく揺れた。
人間ではないとしても、ここまで歳の差があったとは。
やはり妖怪だ。
『じゃ220年もここで住んでいるんですか?』
『そういうことになるな』
…違和感を感じる。
ここは関西ではない。
関西育ちなのであれば、220年間ここで住んでいるというのはおかしい。
その疑問をぶつけたい気持ちもあるが、小声で冷たく放たれた言葉を思い出すと、その疑問をぶつけることができなかった。
『じゃここを人魚の湖と名付けた、旅人と出会ったんじゃないんですか?』
どうでも良い質問だ。
この湖の名付けの親のことを知りたいとは思わなかったが、何となく何か聞かなくてはいけない様な気がした。
『旅人?うーん、色んな人がたくさん来とるから覚えとらんわ』
『確かに220年間で誰が来たなんてわかりませんよね』
『そうやで。それにうち、人の顔とか名前覚えるん苦手やねん』
きっと、この220年間色々な辛いことを経験してきたのだろう。
だから、こんなにも彼女は眩しいのだろう。
自身の関西弁の理由を明らかに語らないのも、その辛い経験が呼び起こされるからなのかもせれない。
彼女が僕の悩みを解決してくれようとしている様に、僕もちょっとでも彼女の笑顔を増やせる様に頑張りたい。
『アーシュには今まで恋人がいたことはありますか?』
『なんや、急に!』
『気になってしまって』
時刻は1時45分。
僕は人魚の恋愛事情についてアーシュに尋ねた。
【登場人物】
青野 海→人間、20歳。
アーシュ→人魚、220歳。