12話 本当の気持ち。
時刻は3時00分。
心の奥から込み上げてくる想いが涙となって湖に落ちていく。
静かに落ちて、湖に溶けていく涙。
まるで、僕の心の重りが消えていく様な感じがした。
『大丈夫、大丈夫。うちが側にいたるから』
その言葉が胸に刺さり心のリミッターを解除させた。
こんなにも涙が流れるなんて。
アーシュと会話している中で「自分の気持ち」について気づいていた。
友人に水野さんとのことを話したことはない。
友人の前で涙を流したことはない。
それなのに…
アーシュの前ではこんなにも簡単にできている。
不思議なこと…
いや、不思議ではない。
僕は彼女に心を開いている。
「大丈夫や」と言って僕の背中を擦る手は小さい。
しかし、その小さい手に心が温められる。
今日は心が左右上下によく揺れる日だ。
『ありがとうございます』
僕はそう言ってアーシュの手を握った。
『ちょっと落ち着いたか?』
『おかげさまで。落ち着けました』
『ほなら良かったわ。ポジティブとかネガティブとか関係なく今、感じている気持ちが大切。人に迷惑をかけるからってそれを押し殺してたら…』
『しんどくなりますね』
『そういうことや。好きなら好きでええ。嫌なら嫌でええ。人間なんて皆、迷惑をかけて生きてるんやで気にすんなや。その代わり誰かが困っていたら手を貸してやったらええ』
『そうですね。難しいことはいらないですね』
『せやで』
「あの計画」を実行するのにここを選んで良かった。
ここを選んでなければ今頃、僕は…
抱えた荷物の下ろし方を教えてくれたアーシュ。
そんな彼女に僕は言わなければならない。
ここへ来た理由を。
「あの計画」のことを。
『アーシュ。僕は…ここへ…』
『ここへ…なんや?』
『僕はここへ「自殺」しに来たんです』
時刻は3時30分。
僕は人魚の湖に来た「本当の理由」をアーシュに話した。
するとアーシュは…
【登場人物】
青野 海→人間、20歳。
アーシュ→人魚、220歳。
水野 絵里→昔のクラスメイト。




